NCADP年次総会出席報告
アムネスティ・インターナショナル日本
死刑廃止担当 柳下み咲


2002年10月24〜27日に米国イリノイ州シカゴにおいて、米国の死刑廃止団体が一同に会する全米死刑廃止連盟(National Coalition to Abolish Death Penalty、略称NCADP)の年次総会が開催され、私もフォーラム90の一員として参加した。

この総会はイリノイ州の死刑制度見直しがまさに進行中であった時の開催であり、時機を得た総会でもあった。(追記:イリノイ州知事ジョージ・ライアンは2003年1月10日に拷問による自白で死刑判決を受けたとして4死刑囚を特赦、11日には同州の全死刑囚167人を終身刑などに減刑すると発表した。)   総会のプログラム

参加者は約400名、外国からの参加は日本のフォーラム90とフランスのTogether Against the Death Penaltyからであった。

以下、その模様を簡単に報告する。


1. NCADPとは?

 最初に簡単にNCADPの説明から始めておこう。NCADPは米国内で唯一の死刑廃止専門の全米レベル組織である。米国の死刑廃止団体は多数あるが、どれも州・市レベルの小さい団体が多く、したがってNCADPがこれらの小さい組織の取りまとめ的な役割を担っている。全米各地にある100以上の死刑廃止団体が組織メンバー(Affiliate Member)として加入しているが、その他の人権団体(例えば、アムネスティ・インターナショナルUSA)等も一員となっている。

1976年に設立され、現在のスタッフ数は10名。資金源は複数の財団・基金等から調達されているようだが、資金繰りは余裕のようでうらやましい限りである(ちなみに日本からの渡航費、シカゴでの宿泊費もNCADPがもってくれた)。

NCADPの2001年年次報告書によれば、NCADPの活動の柱は次の4点である。

(1) 一般の人を対象に死刑廃止に関する教育活動
(2) 議員(国・州)への働きかけ
(3) 国際機関等との連携(国連、欧州評議会、欧州議会のほか、他国の死刑廃止運動との活動)
(4) 死刑廃止活動を草の根に広めるための方法論の伝授や活動資金の提供



2. NCADP年次総会

 年に一度、全米各地から会員が一同に会し、情報交換等を行なうのがこの年次総会である。理事の改選等も同時に行なわれ、今後1年間のNCADP活動の大枠も決められる。組織メンバーとの会合も初日に開催され、各組織から死刑廃止活動のノウハウに関する質問等が寄せられるなど、活発な議論が交わされた。

組織メンバーの会合では、日本からの発言も促され、(1) 日本と米国は2003年1月1日までに死刑廃止に向けた具体的な措置をとらないと欧州評議会のオブザーバー資格の維持を再考する旨の決議を受けたが、米国内ではこれに関する動きはあるか、(2) 日本の死刑廃止について米国から圧力をかけてもらうことは可能か、の2点について質問した。

(1)については、米国では何ら動きはないこと、(2)については、各州の商工会議所で死刑廃止に関するセミナー等を開催し、日本人も含めたビジネス関係者の死刑廃止の理解を深めてはどうか、との意見が出された。

初日夜からは基調講演等のプログラムが始まった。プログラムは主に基調講演やパネルディスカッション、ワークショップから成るが、これらの他にもあらゆる角度から死刑廃止を考える試み(例えば、映画上映、詩の朗読、死刑廃止関連本の著者サイン会・即売会)も行なわれた。また、シカゴのメインストリートをデモ行進するイベントもあり、最後はシカゴの市庁舎前の広場でアピールを行なった。

日本では考えられないような催し、例えば死刑囚が電話で参加しての意見交換会もあった。






総会最後の夜は死刑廃止運動に貢献した人の受賞式も兼ねたフォーマルなパーティも開催された。




プログラムの中でもとりわけ目を引いたのは、ワークショップが実践に即した内容であったことである。 「効果的なロビーイングとは?」「マスコミへの働きかけ」「死刑廃止運動の資金集めの方法」「元死刑囚への支援とは?」「犯罪被害者との連携」など、どれも聞いてみたくなるような22種類のワークショップが開催された。どのワークショップも盛況であり、参加者は今後の活動の指針にしようと考えている人が多いようで、質問も具体的なものが多かった。 →ワークショップのタイトルと内容の一覧


3.  NCADPに参加しての感想

最後に感想を述べると、日本の状況と比較して、死刑というものが、米国民にとっては身近なものであり、死刑廃止運動の担い手の多くが「当事者」(家族に死刑囚がいる、自分の家族が犯罪の犠牲になり犯人に死刑判決が下った等)であることには驚いた。

また、ワークショップの内容から考えても、死刑廃止運動の組織体制がきちんとしており、ロビーイング、アウトリーチ、資金集め等のノウハウが確立していることも印象的であった。

更に、地域に根ざした草の根の死刑廃止団体が多数あることや幅広い分野の団体との連携(宗教団体、公民権運動、社会的少数者(ゲイ・レズビアン等))をはかる試みがなされていることも日本との違いを感じた。

しかし、参加者の多くは日本に死刑があると聞いて驚くことや欧州評議会のオブザーバー資格決議を知らないなど、国際的な動向をあまり知らないように思えた。

 今後、NCADPと日本の運動を連携させるにあたっては、NCADPがこれまで蓄積してきたノウハウを「輸入」し活用したり、米国の取り組みを日本に紹介し連帯を深めるなどの方法があるだろう。しかし、日本と米国の死刑事情は上述したように異なる点も多いため、日本独自の運動の重要性も忘れてはならないとも思う。


(写真は総会プログラムを除いてすべてNCADP提供。)



【資料】
ワークショップのタイトルと内容の一覧は以下のとおりである。

ワークショップセッション T
ワークショップ名とその内容
Media 101: The Nuts and Bolts of Effective Media Outreach 効果的なメディアへの働きかけ方法。
Effective Lobbying Strategies 州・国会議員に対するロビーイングの効果的な方法。
Building Communities of Restorative Justice 犯してしまった罪をどのように償っていくことが望ましいかを考 える。
International Organizing Around the Death Penalty 世界の死刑廃止活動について。日本とフランスのNGOの取 組みを紹介。
From Abstract to Personal: Making the Human Link to Death Row 死刑囚とその家族の体験談を聞くことで、死刑 とは何かを考える。合わせて被害者家族にどのように死刑廃止活動に参加してもらうかも考える。
Keeping the Faith: Organizing your Faith Community around the Death Penalty 異なる立場の宗教関係者を どのように死刑廃止活動に参加してもらうかを考える。
Organizing a Journey of Hope in Your State ジャーニー・オブ・ホープの活動紹介と開催方法。



ワークショップセッション U
ワークショップ名とその内容
Abolishing the Juvenile Death Penalty 未成年犯罪者の死刑を廃止する方法を考える。
Building a Grassroots Youth Movement in your Community 学生や若者層に訴える死刑廃止活動の方法。
Understanding and Articulating the Anti-Death Penalty Movement 米国の死刑廃止の歴史やその問題点について学 ぶ。
Organizing in Communities of Color 人種を超えた死刑廃止活動の方法。特に白人保守層をいかに参加させるかに ついて考える。
Kitchen Table Discussion: Influencing Your Local Media マスコミに偏りのない死刑報道をしてもらうための働き かけ方法について参加者が意見交換する。
Cyber Activism: Technology to the Movement's Advantage インターネットでの死刑廃止活動をNCADPのウェブサイ トを参考に考える。
Moratorium Momentum: Your State Can be Next 現在、21の州で提出されているモラトリアム法案を採択させるた めにどのような働きかけが効果的かを考える。
Silence = Death: Organizing LGBT Voices to Come Out Against Capital Punishment ゲイやレズビアンの人たち に死刑廃止活動に参加してもらう方法について、イリノイ州での取組みを例に考える。



ワークショップセッション V
ワークショップ名とその内容
Strategies for Successful Fundraising 死刑廃止活動資金を集める方法。
Stopping Drug Company Involvement in Lethal Injections 薬物注射による処刑に製薬会社や医療関係者を参加させ ないようにする方法。
Working With Feminist Against the Death Penalty フェミニストと連携する死刑廃止活動の方法。
From Fury to Forgiveness: Working with Murder Victim Family Members 死刑に反対する被害者家族の生の声を 聞き、死刑廃止活動に役立てる。
Building Allies: Working with State Legislators 州議会議員への死刑廃止の立法を働きかける方法。成功例を聞 く。
Creative Activism: Using Arts in Resistance 死刑廃止活動に芸術・文化的活動を取り込む方法を考える。
Life After Death Row: Helping Persons Released 元死刑囚の社会復帰の方法について考える。


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