死刑廃止ニュース

死刑に関する事件と世界的な廃止への動きの概要
       2002年3月
AI Index: ACT 53/002/2002




死刑廃止への動き


新しい死刑廃止議定書
欧州評議会は、死刑に関する新しい議定書を採択した。それは、例外なくあらゆる状況下において死刑を廃止するための法的拘束力のある国際条約としては最初のものでる。
 人権及び基本的自由の保護に関する条約(欧州人権条約)第十三議定書は、あらゆる状況下における死刑廃止に関するもので、欧州評議会閣僚委員会で 2月21日に採択され、 5月 3日に署名開放された。アムネスティ・インターナショナルは、すべての欧州評議会の 加盟国が直ちに議定書に署名し、その後可能な限りすみやかに批准するように求めている。
第十三議定書は、死刑廃止に関する 4番目の国際条約である。1982年に採択された死刑廃止に関する欧州人権条約の第六議定書は、戦時または窮迫した戦争の脅威がある場合を除いて、死刑の廃止を規定している。死刑廃止に向けての市民的及び政治的権利に関する国際規約の第二選択議定書と、死刑廃止に関する米州人権条約の議定書は、死刑の全面的な廃止を規定しているが、条約を批准する趣旨で留保を付すならば、戦時に死刑を存置することを認めている。
全面的な死刑廃止議定書は、まず最初に、1994年の欧州評議会議員会議における報告のなかで、スウェーデンの議員Hans Gqoran Franckによって提案された。この提案を履行する第十三議定書の草案は、10月にストラスブールで開催され人権の開発のための専門家委員会と、11月にストラスブールで開催された人権に関する運営委員会において承認された (死刑廃止ニュース2001年12月号参照) 。
第十三議定書は、10か国が議定書に拘束されることに同意した 3カ月後に効力を発生する。欧州人権条約に加盟するいかなる国も、この議定書に当事国となることができる。
 第十三議定書の採択は、欧州評議会の尽力によって、欧州を死刑のない地域にするための新たな第一歩となる。第十三議定書およびその注釈文書は、欧州評議会のウェブサイト (www.coe.fr)で見ることができる。




国際条約

 死刑廃止に向けての市民的及び政治的権利に関する国際規約の第二選択議定書の当事国は46か国、署名のみで未批准の国は 7か国である。死刑廃止に関する米州人権条約の議定書の当事国は 8か国、署名のみで未批准の国は 1か国である。死刑廃止に関する欧州人権条約第六議定書の当事国は39か国、署名のみで未批准の国は 3か国である。死刑廃止に関する欧州人権条約第十三議定書が、2002年 5月 3日に署名開放された。



ナイジェリア・サウジアラビア――性的犯罪に対する死刑
3月25日に、ナイジェリアのソコト州のイスラム上訴裁判所は、姦通罪を犯したと申し立てられた、 5人の子どもの母親で離婚女性のSafiya Yakubu Hussainiに対して無罪を言い渡した。彼女は、2001年10月に石打による死刑判決を受けていた (死刑廃止ニュース2001年 9月号参照) 。
 この事件は、姦通相手の男性が放免されるという、とりわけ性差別がみられる判決であるため、国際的な圧力がかけられた。この国の北部のいくつかの州においてのみ設けられている、イスラム教徒のための法やイスラム法廷の裁判手続が、ナイジェリアの他の地域の法や手続と異なっていることも懸念されている。
  3月21日に、ナイジェリアの法務大臣のKanu Agabiは、イスラム法に基づく新しい刑法を導入しているイスラム教徒の州知事宛の書状で、「憲法という国家の基本法に違反する」その裁判所を認めることはできないと記した。「同じ犯罪で他のナイジェリア人に科せられる刑罰よりも厳しい刑罰を、イスラム教徒に対して科してはならず」、差別的な刑罰を科すいかなる裁判所も、「故意に憲法を侮辱するものである」と付け加えた。
 Safiya Yakubu Hussainiの判決に反対する訴えは、世界中からもたらされた。モロッコのラバトで 3月に開催された 130か国で組織される世界女性会議では、Safiya Yakubu Hussainiに特赦を求める動議が採択され、彼女に対する死刑判決を非難した。欧州評議会事務総長は、ナイジェリアのオバサンジョ大統領に、Safiya Yakubu Hussainiの死刑の執行を延期するように求めた。世界婦人デーを記念して出されたプレスリリースのなかで、彼は、「これは他に類のない事件ではない・・・毎日、世界中で、その性別がゆえに、女性は過酷な取扱や差別を受けている」と付け加えた。彼は、政府およびすべてを掌握している宗教の権威に、「法と態度の双方を改め、このような野蛮な慣行を中止すること」を求めた。
 Safiya Yakubu Hussainiが無罪放免になる 3日前に、別の30歳の離婚女性Amina Lawal Kuramiが、婚外子をもうけたかどで、カチーナのイスラム法廷で石打による死刑判決を受けた。Amina Lawal Kuramiの子どもの父親とされた男性は関係を拒否し、彼に対する告訴は取り下げられた。Amina Lawal Kuramiは上訴した。

サウジアラビアにおいては、 1月 1日に、アシール地方のアバハで、同性愛行為のかどで刑事裁判所で有罪判決を受けた 3人の男性が、公開で斬首刑に処せられた。サウジアラビアの慣習法と同様に、裁判手続は秘密に覆われている。
 Ali bin Hittan bin Sa'idと、 Muhammad bin Suleyma bin Muhammadと、Muhammad bin Khalil bin Abdullahの 3人は、サウジアラビア人で、性的指向を主たる理由として処刑されたと思われる。国営サウジ通信に出された声明では、男たちは「男色、同性婚、少年に対する誘惑、彼らを非難した者への攻撃を行った」とされている。
 これは、サウジアラビアにおいて、同性間の性的関係を訴えられて処刑された最初の事件ではない。2000年 7月にも、南西部の紅海に近いリゾ−ト地のアバハでは、性的指向が告訴理由の一つとされた 6人の男性が処刑された。
 サウジアラビアは、処刑数が絶対数でも割合でも、世界で最も多い国の一つである。2000年以降、 200人以上が処刑されており、暴力を伴わない犯罪で処刑された者もいる。処刑された者の多くは、アジア、中東、アフリカからの外国人労働者である。


カリブ海地域――絶対的死刑に対する違憲判決
  2月22日に、多くの英語圏のカリブ海諸国の最高上訴裁判所である連合王国の枢密院司法委員会は、被告人が個人的なまたは犯罪に基づく軽減事由を提出する機会を与えられずに、絶対的死刑に処せられた 3件の異なった事件について、違憲であると判示した。判決は、死刑を禁じてはいないが、判決に先立って軽減事由を提出させて検討すること考慮している。ジャマイカのP.J.パターソン司法大臣は、この地域の他の政治的指導者を率いて、「カリブ海地域において一方的に死刑を廃止する」という枢密院司法委員会の決定の最新の例であり、「地域の司法権が直面する問題の本質に対する彼らの無神経さを示すさらなる証拠」であると、この判決を批判した。
Hughes対セントルシア、Reyes 対ベリーズ、Fox 対セントクリストファー・ネビス事件に対する枢密院司法委員会の判決は、下級裁判所の判決になされた上訴をうけて東カリブ上訴裁判所で先に下された判決 (死刑廃止ニュース2001年 3月号参照) を是認するものであった。
この判決は、アンチグア・バーブーダ、バルバドス、ベリーズ、ドミニカ、グレナダ、セントクリストファー・ネビス、セントルシアおよびセントビンセント・グレナディーンにおける死刑の適用に影響を与えると思われる。


台湾――絶対的死刑の範囲を縮小
  1月 8日に、台湾の立法府は、略取・誘拐、武装強盗および他の暴力犯罪に対する絶対的死刑を廃止した。しかし、まだ死刑判決は裁判所の裁量で言い渡されている。
 法務部の説明では、過去10年間に 176人が処刑されたというのに、「最も重い刑罰を科すことによってさえ犯罪を抑止することができなかった」ということである。法務部は、今後 3年の間に全面的な死刑廃止に向かう重要な一歩であるとして、絶対的死刑の縮小を歓迎している。


キリギスタン――死刑の執行停止の延長
 キリギス・ラジオの報道によると、 1月11日に、アカエフ大統領は、この国における死刑の執行停止を2002年末まで延長する命令に署名した。報道は、大統領が、2010年までに死刑は「漸進的に」廃止されるであろうと述べたことに言及している。
 命令を発するなかで、国務長官のOsmonakun Ibraimovは、「国家が無実の者に対してもこの残虐な行為を行いうることから、死刑は・・・ことのほか危険である。残虐な行為の後にただ残虐な行為を行うだけである」と述べたと報じられている。


ジョージア州――精神障害者の死刑を減刑
  2月25日に、ジョージア州の恩赦および仮釈放委員会は、Alexander Williamsの死刑を仮釈放なしの終身刑に減刑した。1994年以降、ジョージア州の恩赦および仮釈放委員会が減刑を認めた初めての死刑囚で、死刑囚監房で強制的な医療措置を受けたことで重い精神障害に悩まされているAlexander Williamsは、彼が17歳の1986年に、16歳の Aleta Carol Bunchを殺害したことにより死刑に直面していた。
この事件に関しては、減刑を許可する委員会に国際的な圧力がかけられた。死刑の執行停止を求めたのは、国連人権高等弁務官、 2人の国連特別報告者、米州人権委員会、欧州連合、欧州評議会である。アメリカ合衆国国内においては、アメリカ法曹協会、児童保護基金および精神障害全国同盟が訴えた。   2月25日に出された声明のなかで、恩赦および仮釈放委員会の長は、「Williamsが、8 フィ−ト×10フィートの監房で、仮釈放の望みが全くないまま、彼の残りの人生を過ごすことを確信することによって、われわれの確かな決定について、Buncu 婦人 (被害者の母親) がそれが相当であるとする結論にいたることを望む」と述べた。
 今や、恩赦および仮釈放委員会が、Alexander Williamsの刑を国際法違反の刑に減刑したことに懸念がなされている。犯行時18歳未満の者に、釈放の可能性のない終身刑を科すことは、 191か国が批准している子どもの権利条約に違反する。アメリカ合衆国は、ソマリアを除いて、この条約を署名も批准もしていない唯一の国である。




短  報


ナイジェリア――1月 3日に、ノースセントラル州の都市カドゥナで、イスラム法の下 でのナイジェリアにおける最初の処刑が行われた。司法当局は、この地域の非イスラム教徒の間でこの方法が非道な行為とならないように、処刑方法を公開での刺殺から変更した後に、 2人の子どもとその母親を殺害して有罪判決を受けたSani Yakubu Rodiが、カドゥナ中央刑務所で絞首刑に処せられた。


アメリカ合衆国――ニューヨークのコロンビア大学の法律専門家による死刑に関する総 合的な研究"Broken System: Error Rates in Capital Cases 1973-1995" の第 2部が 2月に刊行された。この研究は、合衆国の上院司法委員会から1991年に依頼されたものであり、研究の第 1部は、2000年春に刊行されている。この研究は、アメリカ合衆国における死刑は、著者らが “broken" と表現する死刑制度の誤りの影響を受けて「崩壊している」としている。この研究の中心となった James Liebman教授は、アメリカ合衆国において無実の者が処刑される「非常に高い危険性」があり、「死刑をどうするか決定する時が来ている。また、もしそれを決定することができないならば、それを終わらせる時が来ている」と思うと公言している。


アメリカ合衆国・連邦――3月28日に、アシュクロフト合衆国司法長官は、2001年 8月 に逮捕され、2001年 9月の米国同時多発テロの謀議に加わっていたとされて起訴されたフランス国籍のZacarias Moussaouiに対して死刑を求刑する権限を連邦検事に与えたと述べた。アシュクロフト司法長官は、その声明のなかで、「私の指示に従って、連邦検事は、死刑を求刑する意向の通知を提出している。その通知のなかで、われわれがなぜ死刑が相当であるかを示していると思われる多くの理由を申立て、刑を加重する事実を述べている。これらの理由のなかには、何千という被害者を出したという犯罪の衝撃もある。そのために、われわれは、この事件に対して正義をなし遂げるというだけではなく、被害者の権利を十分に保護することを保障しなくてはならない」と述べている。被害者の権利は、合衆国の政治家によって、しばしば処刑を正当化するために引用される。


アメリカ合衆国・連邦――ラムスフェルド合衆国国防長官は、「国際テロ活動」で告訴 された者に対する軍事委員会による裁判手続を公表した。その軍事委員会は、2001年11月13日にブッシュ大統領が署名した軍命令 (死刑廃止ニュース2001年12月号参照) に規定されており、死刑判決を言い渡す権限を与えられることになる。 3月21日に公表された国防総省の裁判手続によると、死刑判決は、国防長官に指名された軍人または指名された者からなる委員 7人の全員一致の決定によってのみ言い渡すことができる。上訴する権利は与えられない。
 軍事委員会による裁判に関しては、アムネスティ・インターナショナルの報告書“USA: Memorandum to the US Government on the right of people in US custody in Afghanistan and Guantanamo Bay"(AI Index: AMR 51/053/2002)を参照のこと。


アリゾナ州――1月に、合衆国連邦最高裁判所は、死刑事件において陪審員よりも裁判 官が刑を決定することの合憲性を判断するために、Timothy Ringの上訴を審理することを承認した。裁判所は、「犯罪に対する刑罰を上限にまでする (先の有罪判決とは違った) どんな事実も、陪審員に提示され、合理的な疑いを越える程度に証明されなければならない」とする、2000年に死刑事件ではない事件において言い渡された判決に照らして、その争点を検討するであろう。アリゾナ州および他の 8つの州においては、陪審員が有罪を評決した後に、裁判官が死刑を適用すべきかどうかを決定する。これらの州の何人かの死刑囚の処刑は、裁判所がTimothy Ringの上訴について結論を出すまで、執行が停止された。


フロリダ州――3月27日に、連合王国国籍の Krishna Maharajは、約15年間死刑囚監房 で過ごした後に、再び終身刑の判決を受けた。 Krishna Maharajは、一貫して無実を主張していた。彼の事件に関するさらなる情報は、2000年 6月の “USA: World Apart: Violations of the rights of foreign nationals on death row-cases of Europeans" (AI Index: AMR 51/101/00) を参照のこと。


ジョージア州――連合王国国籍のTracy Houselは、16年間死刑囚監房に拘禁されていた が、3月12日に処刑された。彼の弁護士は、幼児期の虐待や精神衛生上の問題を含めた重要で有益な軽減事由となる証拠を調査も提示もなかった。連合王国政府はもちろんのこと、欧州連合、欧州評議会、米州人権委員会からも、死刑の執行停止を求めた訴えがあったにもかかわらず、減刑は却下された。


インディアナ州――Frank O'Bannon知事は、犯行時18歳未満の犯罪者に死刑を適用する ことを禁ずる法案を法にする署名を行った。インディアナ州は、少年犯罪者を処刑することを禁ずる16番目の州となった。


バージニア州 ――合衆国連邦最高裁判所は、精神遅滞を申し立てている死刑囚Darryl Atkins の事件について、 2月に口頭弁論を審理した。裁判所は、精神遅滞者に対する死刑の適用が合衆国憲法に違反するならば、今年中に判決を下すであろう。この問題に関する最新の判決は1989年に下されたが、今回は裁判所はこのような処刑に反対する判決を下すであろうと楽観されている。




2001年の死刑判決および処刑

 2001年に、少なくとも31か国で 3,048人が処刑され、69か国で 5,265人に死刑判決が言い渡された。これらの数字は、アムネスティ・インターナショナルが把握したもののみであるので、実数ははるかに多いとおもわれる。
 世界の処刑の大部分は、ごくわずかな国で行われた。2001年においては、すべての 処刑の90パーセントが、中国、イラン、サウジアラビアおよびアメリカ合衆国で行わ れた。中国においては、アムネスティ・インターナショナルが知り得た限られた不完全な記録だけでも、昨年末までに少なくとも 2,468人が処刑されたことを示しているが、実数ははるかに多いと思われる。イランにおいては、少なくとも 139人が処刑された。サウジアラビアにおいては、79人が処刑されたと報告されているが、総数ははるかに多いであろう。66人がアメリカ合衆国で処刑された。




死刑廃止国リスト (2002年3月現在)
すべての犯罪につき死刑廃止国74カ国
通常犯罪につき死刑廃止国15カ国
事実上の死刑廃止国22カ国
死刑存置国84カ国
( 辻本 衣佐 訳 )



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