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「天国の鍵」 古典キャストパズルの図像学   Akio Yamamoto, 1998-2000

 この文章を、2000年5月に他界された英国の偉大なパズル研究家 エドワード・ホーダン氏に捧げます。

 右の図は、1998年夏、Edward Hordern氏から購入したキャストパズルです。 複製が市販されていますので、ご存じの方も多いと思います。
 この「KEY」は約100年前のイギリスのものですが、保存状態も良く、 鋳鉄の表面も砂鋳型の凹凸を除けば金属光沢を保っています。

 原理的にはC環タイプの代表的なものですが、なぜ鍵が繋がるデザイン なのか、という疑問を以下に解き明かしてみます。

では、お手元に新約聖書をご用意下さい。
マタイ伝16章17節です。

するとイエスはお答えになった。「シモン・バルヨナ、あなたは幸いだ。 あなたにこのことを現したのは、人間ではなく、わたしの天の父なのだ。 わたしも言っておく。あなたはペトロ。わたしはこの岩の上にわたしの 教会を建てる。陰府の力のこれに対抗できない。わたしはあなたに天の 国の鍵を授ける。あなたが地上でつなぐことは、天上でもつながれる。 あなたが地上で解くことは、天上でも解かれる。」それから、イエスは、 御自分がメシアであることをだれにも話さないように、と弟子たちに命 じられた。  (新共同訳・日本聖書協会、1995)
 左の図はフランスの聖ペテロ修道院
「MOISSAC ABBEYE SAINT-PIERRE」のペテロ像の部分写真です。 (同修道院のガイドブックより転載)
この修道院は11世紀の建造物で、この彫刻もそのころに造られたと考えられます。

 ちょっと見えにくいですが、ペテロの持つ2本の鍵、先端部がそれぞれO型・C型で、 キャストパズルにそっくり。びっくりです。

上の聖書の記述でも、鍵を、[開く-閉じる]でなく、[つなぐ-解く]である点に、 ご注目ください。錠前と鍵の関係ではなく、2本の鍵の形の知恵の輪と考えた方が、 すっきりすると思いませんか?

当然のことながら、聖書の研究者は、ペテロの鍵を知恵の輪とは考えていないようです。
「結ぶ」とは、入ることを禁ずること、「解く」とは、逆に入ることを許すこと。 元来ラビたちの律法解釈に由来。
(佐藤研「[新約聖書I]マルコによる福音書 マタイによる福音書」岩波書店 1995)

“原典をあたれ”という鉄則に従い、以下に英語版、ギリシャ語版を引用します。 ギリシャ語版はワープロ等にコピー&ペーストして、SYMBOL等のギリシャ語フォント にしてご覧ください。

And I will give unto thee the keys of the kingdom of heaven: and whatsoever thou shalt bind on earth shall be bound in heaven: and whatsoever thou shalt loose on earth shall be loosed in heaven.
(King James Version)
kai dwsw soi tav kleiv thv basileiav twn ouranwn kai o ean dhshv epi thv ghv estai dedemenon en toiv ouranoiv kai o ean lushv epi thv ghv estai lelumenon en toiv ouranoiv
(THE STEPHENS 1550 Textus Reciptus)

聖書の「ペテロの天の国の鍵」が知恵の輪かどうかは謎のままですが、 キャストパズル「KEY」はペテロの鍵をイメージしてつくられたことを、工作人として 直感します。

キリストのように鍵を手渡してくれたエドワード・ホーダン氏に、 天国の扉が開かれることを祈りつつ。

初出;パズル懇話会会誌 980855
(c) shikake-ya 2000


※上記の、下の画像は、キャストパズル『KEY』の原典というわけではありません。
あくまでも「ペテロの天の国の鍵」のイコンです。



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