偽物の音
声や音の聴こえない自分は、雑踏の中で一日中交通警備の仕事をしていた。その様な環境の時には聞こえてないはずの耳に、さも聞こえているかの様な雑音が入ってくる。当然、この(聞こえているような)音や声など雑音は実音として聞こえているような錯覚なのである。以前、聴こえがあった時の耳での記憶が残っており、車が走っている姿や多数の人々が行き交う様子が眼に映ると条件反射してそう感じるのだろう。正面を向いて、左右の視角が確保される角度は、大体130度〜140度が限度だと思う。だからこの角度の範囲だけを眼にしているはずである。この角度以外(360-140)220度は全く眼に触れていないことになる。だから、後ろから突然飛び出した如く急に目の前に姿を現した類(たぐい)の車などは、上記のような車の音(錯覚であったとしても)にはならない。ところがバイクだけに限れば、バイクの姿が見えなくても(錯覚など架空の音ではなくて)実在のバイク音が感じられる。聞こえるのではなくて、感じられるという表現をしたのは、音として耳に届いた訳ではなく、バイク音は振動となり、身体の一部、例えば腹、胸、耳の鼓膜などに感じられる。事実、大型のバイク等が勢いよく側を通ると、ビックリするほどの感覚で、胸の一部が激しく震えるのが分る。やがて以前の記憶にあるバイク音が、それらと混じって、よりリアルなバイク音がよみがえる。
実際、姿の見えない物(者)に対しては、自分で呆れるほど警戒心も抱くことができない。特に修理作業等に熱中している場合、急に目の前に人が現れて非常に驚くことが何回もあった。『何で?急に・・・全然気付かなかったのに』しかし表面上さもその前から、相手の姿に気がついていた様な振る舞いをする。相手も(親密な一部の人達ではあるけれど)びっくりさせまいと、側面や後ろからではなくて、正面から、気付かせる様にわざと音を立てて、荒々しく接近しているとか・・・音を立てても聞こえないのに、気遣ってくれているらしい。目の悪い人は、姿・音ではなくて、見えなくても微妙な感覚で、人や物の接近状況を、五感で(雰囲気等)感じるとか聞いた事があるけれど、そうかも知れない。自分以外の聴覚障害はどうなのだろうか。
shimuro