夢の話 昔から、繰り返し良く見る夢がある。
夢の中の自分は、学生だったり浪人生だったりする。長いこと休んでいた学校(あるいは予備校)へ行くのだが、どの教室へ行ったらいいのか分からない。事務や受付で聞こうとしても営業が終わっていたり人がいなかったり、居ても相手してくれなかったり要領が得なかったり。僕は、広い建物の中を走り回る。
自分はどこへいけばいいのか、それが分からない。
やがて、チャイムが鳴って授業が始まる。廊下には、誰もいなくなる。
教室の中では大勢の生徒が椅子に座っているが、自分だけがその集まりから疎外されている。
僕が走っている廊下の横に並ぶ教室の中には、「知った同士の集まり」があり「共に学習する場」があるというのに、すぐ側に居るはずなのに、僕のいる廊下はそことは全く隔絶された世界だ。
自分の居るべき場所は何処なのか、何度も広い校舎内を行ったり来たりするが見つからない――。と、まあこんな夢だ。
学校の校舎が予備校のビルになったりすることはあるが、おおむね同じようなパターンだ。
見るようになったのは、大学院を辞めて以来だから、かれこれもう5年ばかりのつきあいがある。
僕は、学校を長いこと休学した経験もないし、学校に行って自分の教室が分からず迷子になったこともない。
それなのにこんな夢を見るというのは、よほど、「学校に行かなければ」という強迫観念が強かったのだろう。そりゃそうだ。小学校から大学院を辞めるまで――途中1年間浪人してたことがあったからその間は予備校だが――、20年近くも僕の人生の根幹を「学校」が占めていたのだから、いまさらそこへ「行かなくても良い」と言われても、心の表側では納得できても奥底のほうでは納得していなかったのかもしれない。
「学校」に行かないでも良い身分――つまりは「社会人」という身分だ――を手に入れてからも、行かなければならない筈の学校に行かないで済んでいる自分に違和感を感じてしまうのかもしれない。
もう、とっくに卒業しているのにもかかわらず。その夢に最近、変化があった。
夢の始まりはいつもの通り、長いこと休んでいた学校に再び行き始めるというものだった。学校に行っても、それは見知った校舎とは異なり配置もクラス編成も見覚えのないものになっている。僕は、自分が何処に行けばいいのか分からず途方に暮れる。
――と、同じだったのはここまでだった。ここで夢はいつもと違う展開を見せる。僕を案内してくれる人が現れたのだ。
以前、自分のクラスだった教室に(見覚えのない校舎なのに何故かそういうことだけは分かる…夢だからだな)入ると、古い友人が、
「お前のクラスはここじゃないよ」
と言い、場所を教えてくれた。
その教室のある場所は、別の教室――誰もいない、理科実験室のような教室だった――を一度抜ける必要があったりと少し複雑だったが、たどり着くと確かにそこでは生徒達が椅子に座って今まさにホームルームが始まらんとしているところだった。
そして、教室の中心から少し前よりのところに空いている席があった。
それは、僕の席だった。
僕は、その席に座った。
そこで目が覚めた。ひどくリアルな夢だった…。
夢の中に何度も出てくる「久しぶりに行く学校」に自分の教室が、そしてさらにその教室に自分の席があるというのは初めてだった。
なによりもリアルだったのは、その学校に通っている他の生徒達と会話をしたことだった。彼らの顔に見覚えがあったことだった――。もちろん、具体的に「誰」と思い浮かべられる者の顔をしていたわけではなく、「見知った顔の友人」というイメージだけが残っているだけなのだが。そして、それ以来、この夢は見なくなった。
長い、本当に長い間、自分の教室、そして自分の席を探していたが、やっとそれが見つかった今、もう探す必要はないということなのだろうか。
あの、ちょっと複雑な経路をたどってやっとたどり着いたあの教室は――。そして、その教室にあった僕の席は、何年も掛かってやっと見つけた、自分の居場所だとでもいうのだろうか。