幾多の萌えアニメに対してどう対応すれば良いか
藍より青し(水曜・フジテレビ系 深夜26:25〜)
かつては大企業の跡取り息子であったが、家を出て現在は都内の大学に通う平凡な学生となった青年の元に、かつての婚約者であり、幼い頃からずっと彼のことを慕い続けてきたという少女が訪れる。世間の手前もあり大家と店子という関係で制限付きの新婚生活を始める二人だったが、大学での同級生や後輩の女の子達もその「下宿」にやってくることになり……。
●「萌えアニメ」という制約清純派に豪快女、キャリアウーマンにドジっ娘、タカビーなちびっ子に無邪気な元気娘といろんなタイプをとりそろえました、さあお好きなキャラクターに萌えてください――と、こういうタイプのアニメを「萌えアニメ」と呼ぶ(※1)。アニメが商業作品である以上、さまざまなニーズに応えるために多くの選択肢を設け市場を広げようとするのは当然だし、タイプの違うキャラクターが沢山いれば順列組み合わせでエピソードも作りやすくなるし、決してそれ自体は悪いことではないと思う。結果として面白い作品が生まれれば、それでいい。
作る側としても、宮崎駿・押井守レベルまで名前が売れれば自分の作りたい作品も作れるだろうが、まだ駆け出しのペーペーでは自分の主義主張は置いておいて、とりあえずスポンサーのお気に召す作品をきっちりと作り上げなければ食っていけない。事実、宮崎駿も押井守も最初は萌えアニメ(当時はそんな呼び方はなく、ただ可愛い女の子が登場するアニメというだけだが)を作り、それを傑作に仕上げたからこそ今の地位があることを忘れてはいけない。いまの萌えアニメを萌えアニメだからといって視聴の選択肢から外すことは、未来の巨匠の初期作品群を見逃すことになってしまう恐れもある。
「タイプの違う女の子を大勢登場させなければならない」という制約のもと、どれだけ良質な作品を作り上げることができるか。もっとも中には、その大勢のキャラクターを画面内でキャーキャー騒ぎ回らせるだけで良しとしてしまうクリエイターもいる。彼らには、そういう作品こそが良作だと思っているのだろうか、それとも単なるルーチンワークで渡されたキャラを動かしているだけなのだろうか、そこまでは分からない。
ただその一方で、なんとか作品性と言えそうなものを萌えアニメという枠組みの中で作り出そうと涙ぐましい努力を続けているクリエイターも、少数ながら存在していることを忘れてはいけない。「萌え」とは作品の好き嫌いの基準ではなく、単に商業的事情から強制的に付けられているオプションの1つであると考えればよい。往年のロボットアニメに必ずと言っていいほど乗り物から変形合体するロボットが登場し、それを精巧に再現した玩具の宣伝を兼ねていたのと同じようなものだ。
●度を過ぎた信頼から受ける恐怖さて、この「藍より青し」である。
この作品も紛う事なき萌えアニメであり、色んなタイプの女の子が一人の優柔不断気味の男性と同じ家で暮らす、というそれ系のアニメにおける王道中の王道をいく作りになっている。別格扱いの女の子が一人いて、彼女がヒロインとなっているという点も同様である。あえて違う部分を挙げるとすれば、このヒロイン格の女の子がよくある嫉妬深くて意地っ張りな女の子ではなく、非常に献身的で疑いを知らない純真無垢な少女として描かれているところだろうか。
変化を持たせる、という狙いならばそれはそれなりに成功している。優しい笑顔の影に辛い過去を背負った男性主人公との心の通い合いの描写はけっこう優れていたし、安定した作画と優れたBGMでしみじみと盛り上がる雰囲気は見ていて心地よさを感じる。だが、そのあまりにも献身的な態度は少し――いや、かなり行き過ぎを感じる。
昔、優しくしてもらったというだけで10年以上も一途に想い続ける。久しぶりの再会、相手が自分のことを忘れていたにもかかわらず、メモの住所を一緒になって探してくれた、というだけで「昔と何も変わらない、優しい貴方」と熱を上げる。少し話をしただけで、全てを捨てて添い遂げるとまで覚悟を決めてしまう。しばらくして男の方が別の女性宅に外泊をかましても、信じていますからの一言で全て許してしまう――。
そりゃ僕も一応男だから、「自分のことを好きだと言ってくれる可愛い女の子」が現れたりしたら嬉しいなとか思ったこともないわけじゃない。けれど、ここまで思い詰められたらかえって怖くならないか? いやそもそも、ここまで微塵も疑いを持たず、ただひたすら一途に想い続けるなんてことが人間に可能なのか? ストーカー一歩手前じゃないか? この少女の行動規範はあらゆるものすべてが好きな男を中心に出来上がっていて、それ以外の物がいっさい存在していないといって過言ではない。はっきりいって怖い。
今のところ、恐ろしいほどに高いレベルで安定した作画と美しい音楽、ツボを押さえた演出で、アニメ作品としてはけっこう質の高いものとして仕上がっている。ただ、この「優柔不断気味の男×ひたすら献身的な少女」という組み合わせでどこまでストーリーを作っていけるものだろうか。話数的には中盤を折り返したあたりだと思うのだが、未だに登場人物紹介的な話が続いている。どうやってここから話を展開させていくのだろうか、とりあえずは見守っていきたい。
(※1)……萌えアニメとはなんぞやという定義には諸説あるが、このサイトではこのように定義しておく。