自然の仕事をする為に

自然の仕事に就きたい、自然を対象にした仕事をしたいという人の数が年々増えている。自然に関わる仕事といっても幅広く、農業、漁業、林業等も、古くからある自然と関わりの深い仕事である。ここではそういった伝統的な産業は別にして、自然というものを対象や素材にした新しい形の仕事、という意味で、技能を活かした仕事をする自然の専門家について考えてみる。専門養成機関がない、商業ベースにのらないので食っていけない、という理由でなかなか人生のキャリアにはなりにくい分野であったが、毎年進歩があり着実に準備が整いつつある。この分野の現状と動向について概観してみる。

種類
環境教育指導者・教員
最近大学院レベルの環境教育プログラムが急速に整備されるにつれて、専門的な知識や技能を学ぶ環境が整いつつあり、自然の専門家として要求される知識レベルも上がってきた。こういった高水準のプログラムでは、多様な側面から「自然の専門家」の姿を模索しつつあるが、その動向を探ると、「環境教育の専門家」という呼び方で収斂されつつあるといってよい。環境教育の研究成果がどんどん整理されてきており、いずれ環境教育という分野が新しい教育分野として確立する。すでに大学では環境学部、環境学科という分野ができており、先進的な外国の例では中等教育でも環境教育の科目が存在する。日本でも環境教育が正式な科目として成立することが予想され、環境教育の教員、研究者という職業が大学、学校、研究機関などで成り立つようになると考えられる。

自然ガイド・インタープリター

英語ではパークレンジャー、またはインタープリターという。国立公園など著名な自然公園の案内をする仕事で、自然関連の代表的な憧れの仕事。
扱う内容は大きく2種類ある。一つはフィールドの案内。動植物、生態系、季節の変化などその土地独自の自然についての詳しい知識が必要となる。自然に関する専門知識に加えて話し方、指導法、イベント企画の技能を駆使し、来訪者に自然のメカニズム、素晴らしさ、大切さを解説する。もう一つは教育の仕事である。自然の大切さを伝える為の工夫は勿論、特に子供を対象とする場合は、学習方法、ゲームなどレクリエーション、野外生活の指導なども受け持つことになるので、自然の専門的知識とともに、教育についての技能が要求される。
レンジャーは欧米では広く定着した職業だが、日本ではまだまだ普及していない。国立公園に在駐するレンジャーは環境省の職員で、その数は全国合わせてもたったの数十人しかなく、しかも案内より書類での許認可の仕事が中心。アメリカではヨセミテ国立公園だけで100人以上を数えることから比較すると現状はお寒い。環境省職員の他には、日本野鳥の会が各地の自然公園にレンジャーを委託派遣することがあるが、これも人数は数えるほど。また全国に多数の地元の自然案内人がいるが、皆ボランティアである。このように現在のところ職業として成り立っていないが、これから需要がのびることが確実に見込まれるので、将来的にガイドの仕事に就きたい人は、今のうちから準備を始めておくことが大切。

自然管理
自然の仕事というのは、なにも山奥の自然を保護するだけではない。これまで二次的自然として軽視されてきた里野の自然環境の大切さも今では認識されるようになってきた。里野の自然というのは人手が入ることで成り立つ自然なので、単なる保護ではなくて自然の管理ということが大切になる。また多くの場合、里野環境は破壊が進んでおり、管理以上に復元ということが現在大きな課題になっている。このような里野の自然をフィーチャーした自然公園が大都市近郊で増加しており、その管理や復元の技能が求められる仕事は増えてくる。里野環境そのものではなくとも、もっと小規模のビオトープ型自然公園とでも言うべきものも増えてきている。このタイプは特にこれまでの都市型公園を再整備することで作られることが多いが、こういった公園の管理を行なうのに、専門技能がある人材が必要になってくる。
必要な技能は生態系の成り立ちに関する知識、地域生態系を管理する計画設計の為の知識、復元する際に行う生態系を優先した土木作業の技能などである。これはビオトープの管理、復元という言い方で話題にされる機会が増えてきた。里野に限らず日本中で河川、湖沼、海岸の自然が破壊され尽くされてきた現在では、これから環境意識が高まるにつれて、失った自然環境の復元はますます重要性を帯びてくる。欧米ではすでに地域作りの際には、自然生態系との共生を優先課題として位置付けている。自然保護と土木造園の両方の知識を備えていれば、復元と管理の仕事は将来有望と考えられる。

自然環境調査
生態系や動植物の分布などの調査の仕事は、自然関連の仕事では現在最も安定した業界が存在する。この仕事をするには、生物分類についての専門知識が必要で、誰でも簡単に入れる分野ではなく、専門教育を受けた人の独壇場である。生物系の大学、大学院の学位があるか、または生物分類技能検定試験の資格があることが必須となる。実際の仕事はアシスタントの人員としての募集が多く、その程度であればそれほど専門的知識を必要としないのだが、かといって何も資格がないのでは採用はおぼつかない。生物系の専門教育を受けた人にとっては、最も安定した就職先であるが、逆に言うと独自の分野であるので、ちょっとつぶしがきかなくなるきらいがある。しかし自然公園の生物調査などで、一般の人にはアクセスが難しい世界を見ることができるのは、この仕事の醍醐味である。

自然生活・体験コーディネーター
自然というものを、生活や体験を通して自然の楽しみ方を伝授するという仕事である。従来の自然ガイドは、自然を保護するということに重点があり、自然から距離をおいて科学的解説をするという立場が主流だった。ところが今日では、原生自然だけではなく、むしろ身近に接することが可能な「人里の二次的自然」への関心が増しつつあり、自然を体験として味わいたいという欲求が増してきている。いわゆる「田舎暮らし」というのがそれで、自然そのものと人間の生活や文化との関わりといった側面が注目されてきている。
自然生活や体験を演出するのに必要とされているのは、野遊びや川遊び、自然を利用したクラフトなどの工作物、童遊文化としての草花遊び、自然から直接食料を調達する方法、自然のサイクルを尊重した食料生産や生活方法、などに関する知識や技能である。こういった知識や技能は戦後の農村の近代化の過程で急速に消滅しかけたが、近年の田舎暮らしへの憧れや、有機農業への期待などから伺えるように、時代は再びこれらの技術や知識を見なおし始め、必要としてきている。こういった技能を備え、グリーンツーリズムの一環として活かす、という役割の仕事が期待されるのである。
こういった類の仕事は、これまでのところ、地方自治体などが地元の村おこしの一環として、地元の「達人」を認定してしかるべきイベントに登場してもらう、といったパターンが主流である。しかし地元の人によって企画が行なわれることが多く、都会の人の自然への憧れの気持ちが理解できず、顧客のハートを掴み損ねていることが多い。この点に気がつき、都会出身の人を採用した長野県飯山市の試みなどは成功を収めていることからわかるように、単なる「達人」では終わらない、ハートをつかめる企画とガイドが必要とされる。

資格
自然の仕事につく為の資格は、少しずつ整備されてきている。次に主なものを列挙しておく。注意が必要なことは、この種の資格は最近色々なものが出てきているが、殆どが誰でも取得できるので、それほど格の付くものにはならないということ。ここに挙げたものは内容に定評があるものだが、しっかりした試験を課して内容が吟味されているのはビオトープ管理士、生物分類技能検定、森林インストラクター、の3つだけと考えるべきである。誰でも取得できる資格や養成講座はそれ自体が集客装置になっているだけで、内容がおそまつなものが多い。

ビオトープ管理士
財団法人日本生態系協会が行っている資格試験。自然環境共生型の国土作りにおいて、地域の生態系を守り取り戻すビオトープ事業を推進していく技能を備えたことを証明する資格。平たく言うと自然保護の資格と考えてよい。分野別に施行と計画に分かれており、施行部門はビオトープ作りの現場での技能を扱い、計画部門は地域計画に関わる行政や法律の知識を扱う。またレベル別にそれぞれの分野が一級と二級に分かれており、二級は誰でも受験できるが、一級には関連業務の経験が必要となる。97年に第1回が始まった試験であるが、時代の関心とマッチしており期待が大きい。合格率は一級が13%ほどの難関で、二級で25%程度。受験者数は毎年増加しており、2000年度は1500人、2001年は2200人、2002年は2500人に達した。自然環境の保護、管理、政策を扱うのに最も適しているしっかりした内容の資格といえる。自然保護に関わる人や地域計画に関わる人の受験が多い。

森林インストラクター
社団法人全国森林レクリエーション協会が行っている資格試験。森林と林業に関する知識を広め、森林内での野外活動の指導をする技能を証明する資格。通称森の案内人。これまで農林水産大臣認定の試験だったが、規制緩和の一環として、平成13年から大臣認定がなくなり民間資格となった。試験は森林、林業、野外活動、安全と教育、の四つの科目からなり、それぞれの科目ごとに合否が判定され、四つ全て合格した時に全体合格となる。合格率は毎年15%程度だが、全ての科目を一発で合格できる率は5%で難関である。受験者数は毎年少しずつ増加しており、2001年度は1300人、2002年は1400人程度。これまでで資格取得者の累計は1000人を超えた。自然ガイドの技能を扱うのに今のところ最も近い内容の試験。合格者は林業関係者や自然観察会などの指導をする人が多い。林業や樹木、集団活動に重きが置かれるのが特徴だが、このような特徴は、自然活動が多様化しますます関心が高まる時代にあっては、少々偏りと映る感がないでもないので、このあたりの特殊性は予め承知しておくべきだろう。

生物分類技能検定試験
財団法人自然環境研究センターが行う検定試験で5年目を迎える。野生生物や自然環境などの専門調査を行う技術者の技能を認定し育成する為に設けられた。1級から4級まであり、1級と2級が職業として自然環境調査の業務に携わる人が対象。3級と4級が生物に興味がある一般の人が対象、となっている。動植物の分類、形態、生態、調査法などについての問題が出題される。専門性が強く、級が進むにすれて専門分野を絞り込んでいくので、自然が好きな人なら誰でも必須、という訳にはいかないが、自然の専門家を称する人なら、3級ぐらいの知識は基本として必要ということは言える。

キャンプディレクター・インストラクター
日本キャンプ協会が認定するもので、キャンプの技能を認定する資格。試験ではなく、研修に参加し、経験年数を重ねていくと取得できる。参加すれば誰でも取得できるが、一番上のディレクターの資格を取るには年数がかかる。

自然観察指導員
日本自然保護協会が認定する。試験ではなく、講習会に参加すると認定される。誰でも取得できるが、養成研修会は参加希望者が多く、なかなか参加できない。この種の資格としては最も古くからあるので自然ガイドの定番としてで有名だが、取得に必要な条件は1度の講習を受けるだけなので、これだけで技能を証明することにはならない点は寂しい。

自然体験活動リーダー
自然体験活動推進協議会が認定する資格。この協議会は様々な野外活動関連の団体が連盟して組織したもので、著名な団体は大抵加盟している。今のところプログラムの中心になっているのは清里の日本環境教育フォーラム。共通プログラムというものを考案しており、それぞれの団体がその指針にあった養成研修を行う。初級の資格は3泊程度のセミナーに参加すれば誰でも取れる。現在中級までのプログラムができ上がっていて、上級プログラムが開発中である。初級では取得が簡単過ぎ、意味があるのは上級であるが、初級から初めて進んでいくにつれて活動年数が要求されるので、上級を取得するのに数年を要する。

グリーンツーリズムインストラクター
財団法人農林漁業体験協会が認定する。3段階に分かれており、下から順に地域エスコーター、インストラクター、最高位がコーディネーター(名人)となっている。養成講習会が行われており、それに参加すると認定される。グリーンツーリズムは欧米では以前からある自然体験の方法で、これを日本でも推し進めていこうというのが主旨。

グリーンセイバー
樹木・環境ネットワーク協会が実施する検定試験。植物を中心に、自然環境を理解する勉強の機会を提供するものである、とされている。ベイシック、アドバンス、マスターの3段階に分かれていて、それぞれに学習用のテキストが出版されており、自然環境についての基礎的な勉強にはよくまとまった教材である。最上級のマスターのレベルで合格率は30%であるので、一般の自然愛好家が趣味として勉強に取り組むのにちょうど良いレベルである。ベーシックから初めて毎年レベルを進んでいくのでマスターを取得するまで3年かかる。

バードウォッチング検定
日本野鳥の会が主催する、野鳥の判別や生態に関する知識を問う試験。2002年に始まったが、残念ながら04年より休止中。

教育機関
自然の仕事をしようにも、これまで自然活動・環境教育関連の専門教育機関がないことは大きな問題であった。しかしこの3年程で急速に環境関連の教育機関が整いつつある。大学や専門学校では環境系の学科が毎年のように設置され、事態は急速に進展してきている。

東京学芸大学
1997年より教育学研究科修士課程に夜間大学院総合教育開発専攻環境教育コースが発足し、日本で初めての大学院レベルの環境教育課程を開始した。また4年制レベルでも2000年より教育学部の教養教養系課程の環境教育過程環境教育専攻(ややこしい!)というプログラムが新設され、自然保護、環境教育、ビオトープ管理などのクラスを備えている。学芸大学には木俣美樹男、小川潔、樋口利彦、北野日出男、佐島群巳、小沢紀美子といった、環境教育分野の第一人者をこれまで教授陣に揃え、学内から「環境教育学研究」「野外における環境教育」という学術誌を発行している。また「環境教育実習施設」という2haに及ぶ大学付属の広いフィールドを備えており、環境教育を専門とする大学としては現在国内第一である。

青森大学大学院
1999年に大学院の環境科学研究科環境教育学専攻という修士課程を設立した。自然の学校の先生を養成するとはっきりとうたっており、まさに自然のプロ養成プログラムである。教授陣に岡島成行、学生にヒマラヤのごみ拾いで有名な野口健がいて有名人が集まっているのが特徴。

北海道大学
2002年から大学院修士課程で、地球環境科学研究科地圏環境科学専攻地球生態学講座の中に自然ガイド・環境保全指導者コースを新設した。できたばかりのほやほやのプログラムである。環境関連のNPO指導者や自然ガイドを養成する修士課程であると明言しており、北海道の自然ガイド専門教育機関である。

筑波大学
体育専門学群の飯田稔研究室は、日本野外教育学会の事務局でもあり、名実ともにこれまで日本の野外教育をリードしてきた。体育系の野外活動教育では第一である。
また、筑波大学では平成12年度より、大学院修士課程に於いて、環境科学研究科を設置した。環境系解析(自然環境と生物環境)、環境系創成(生産環境と環境改善)、環境系総合(環境計画と環境政策)の3領域を主とするカリキュラムを組んで、環境に関する総合的で専門的な内容の授業を用意している。「通常の専門分野の区分にとらわれない学際性」を特徴としてうたっているが、理系と文系を横断した学際性こそが環境分野の特徴であり、まさに環境分野の専門家養成のための本格的な内容のプログラムとなっている。

東京農工大学
こちらの農学部環境資源科学科には、環境保護学講座がある。名称が変わってしまったが、この前身は1973年に日本で初めての環境の専門学科として設置された「環境保護学科」である。現在環境教育の第一人者である阿部治などを輩出している伝統があり、環境保護分野のパイオニアである。

東京農業大学
地球環境科学部には、「森林総合科学科」「生産環境工学科」「造園科学科」が設けられており、それぞれ伝統的な林学、畜産学、造園学から一歩環境科学へ踏み込んだカリキュラムを組んでいる。

山形大学
山形大学教育学部では、小学校において環境教育のリーダーとして活動できる教員の育成を目指し、平成11年より環境教育専攻を設置している。

人間環境大学
愛知県にある新しい大学。こちらの人間環境専攻の環境保全コースは、環境保全一般に関して比較的バランスの取れたカリキュラムを用意している。

常葉環境情報専門学校
静岡県浜松市にあり、1996年から自然環境関連の学科を設置している、現在こちらのメインとなる環境・情報システム科は、ビオトープの設計・施工のスペシャリスト養成するコースである。「未来型の環境専 門家を養成する全国初の学科」であると謳われており、自然環境管理の先駆的な学科である。常葉学園グループは、自然環境復元運動に熱心で、専門学校や短大のキャンパスにビオトープを整備しており、また静岡県内各地のビオトープ運動にも積極的に関わっている。

日本自然環境専門学校
新潟市内にある専門学校で、自然環境系の専門学校の先駆けである。環境系学科には、「自然環境保全科」と「環境教育科」という学科がある。どちらも2年制で、プロナチュラリスト、パークレンジャー、自然環境教育者、などの職種を目指すことがうたわれている。

コミュニケーションアート専門学校
東京、名古屋、大阪、福岡にあり、動物や自然環境を専門にしたコースを揃えている。「自然環境ワールド」という系統の「自然保護レンジャー」という2年間のコースでは、インタープリターや環境教育インストラクターを目指したプログラムを用意している。

東京環境工科専門学校
自然環境保全学科と、野生生物調査学科の2つの学科を開設している。旧建築エコロジー科が自然環境保全学科に改名、自然環境修復や管理に関わる技術者を養成している。

日本環境教育フォーラム
1999年から自然学校指導者養成講座を開講している。3ヶ月の集中的講義の後、6ヶ月以上のインターン研修があり、通常1年で卒業する。自然学校の第一線で活躍するこの筋では有名な人達が講師陣に名を連ねている。

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