環境と食育
これからの環境を考えるうえで大切なことは、少しずつ努力してみんなの意識を変えていくこと。
環境をキーワードに社会全体を意識することについて、名古屋大学の武田邦彦先生のお考えを紹介します。
『本当の意味で環境にやさしい生活とは何か」(2001.10〜2002.5)に続く、武田先生のシリーズ第二弾。
新刊『二つの環境〜いのちは続いている〜』(武田邦彦著)を絡めてのお話です。
みんなで生きる社会へ
〜もう一度、環境を考える〜
 
 その2−日本の「環境」は悪くなっているのか?
            〜ダイオキシンは心配ないか?〜
  2003.7.15
名古屋大学工学部教授 武田邦彦
大田区立生活センター消費生活塾講座no.5(2003.5.57実施)レジュメから
数回シリーズで紹介します。
編集の都合上、図表は省略させていただきます。
○ダイオキシン毒性について
次にダイオキシンについて考えます。

ダイオキシンが危ないと言われ、所沢のダイオキシン問題をテレビが取上げたのは1997年6月、つまり今から5年前でした。

このことが話題になったので、多くの日本人はダイオキシンが最近増えてきたと思っています。でもそれは「事実」とは違います。図 2(日本で発生するのダイオキシン類量の推移)に示したようにダイオキシンの濃度が高かったのは、30年前でその後、急激に減少しています。

ダイオキシン類が日本で高い濃度になったのは農薬に塩素系化合物を使ったことによっていました。以前はダイオキシンの毒性が知られていなかったので、使っていたのですが、1972年にアメリカで発見され、日本もダイオキシン類の使用を止め、その結果、急激に減少したのです。

最近、ダイオキシン対策で高性能却炉に入れ替えたりしていますが、すでにダイオキシンの問題は環境問題の中では小さいことは「事実」として知っておくべきでしょう。 

また、ダイオキシンは私たちの世代にはあまり影響がなくても体の中に蓄積して子供達に影響が及ぶのではないかと心配されました。確かに、ダイオキシンは新しく毒物として取上げられた物で、研究がそれほど進んでいなかったのも事実です。私もダイオキシンは「親油性」、つまり油となじみが良いので、人間の皮下脂肪に蓄積するのではないかと心配していました。

しかし、これも30年ほどの追跡調査の結果、ヨーロッパでも(図 3の左、スウェーデンの魚介類中のダイオキシン)、日本の母乳でも(図 3の右、日本の母乳中のダイオキシン)、蓄積性の無いことが判ってきました。

最後にダイオキシンの毒性そのものについて整理します。

ダイオキシンはモルモットを使った動物実験で強い毒性が観測されたのがキッカケで騒がれたものですが、その後、これも30年間の追跡調査の結果、全世界で15万人に及ぶ高濃度曝露者(事故、枯れ葉剤、焼却炉、農薬散布者など)について健康障害が殆ど無いことが判ってきました。

事故などで大量のダイオキシンを口から摂取した場合、一時的にニキビ(塩素座そう)になりますが、それ以上の急性毒性は無く、ガンを含めて慢性毒性も認められません。それでも塩素化合物ですので、多少の毒性はあり、ダイオキシンを規制値の1000倍程度を20年間にわたって食べると一日煙草一本程度の危険性があると結論されています。


           
ダイオキシンの毒性に関する学術的見解

           1972年:ダイオキシン類の動物の胸腺萎縮についての研究
                (モルモットの急性毒性では青酸塩の6万倍)
                その後、T細胞系免疫毒性、微生物感染抵抗など膨大な動物実験
           ヒトで: 13万人、15-50年。高濃度曝露群(一般人の10倍から10,000倍)の
                追跡調査

          
<結果>
              ヒトでは: 100-1000倍の曝露20年以上
                    急性毒性:塩素座そう(ニキビ)
                    発ガン性:一日タバコ1本程度



ダイオキシンの毒性が低い、とお話しをしますと「そんなことはない!」と怒るか方がおられますが、ダイオキシンが危険なことが明らかになるより、毒性が低い方が私たちにとっては嬉しいことです。

時には「これまで「反ダイオキシン」の運動をしてきたのに、困る」という方もおられますが、環境をよくしようという運動は本当に環境のことを考えてするべきですから、安全性が不明なときには注意をし、安全だと判ったら素直に喜ぶ方がよいとおもいます。

むしろ最近「ダイオキシンは毒性がないのに故意に騒いで儲けた人がいる」という内容の本を東大と目白大学の先生がお書きになっています。もしこの本に書かれていることが正しければ、私たちは社会的な陰謀のようなものに巻き込まれ、不安に駆られ、たき火をしている人を非難し、税金を大量に無駄に使ったことになります。

産業界ではこれを「ダイオキシン特需」と呼んでいます。市民が的確なデータを求めないことに乗じた作戦とも言えます。

このように、日本の大気や河川は綺麗になり、ダイオキシンは危険では無いことが判りました。現在、禁止されているたき火もやがて復活することでしょう。考えてみれば昔から大そうじしたときに出た枯れ葉をたき火して焼き芋を作っていました。それが悪いという方が可笑しかったのです。
2003年10月に続きます。

このシリーズは武田邦彦先生および大田区立生活センターのご了解をいただき掲載しています。
武田邦彦教授のプロフィール
たけだ くにひこ
1943年 東京都生まれ。都立西高等学校を経て、東京大学教養学部基礎科学科卒業。旭化成・ウラン濃縮研究所長を経て、1993年芝浦工業大学工学部教授。2002年5月より名古屋大学大学院工学研究科教授。工学博士、専攻は資源材料工学。人工的に作られた材料が呼吸をしたり代謝を行ったりする研究・難燃材料研究が主力で、資源分離、工学倫理など。日本難燃工学会長、原子力安全専門委員、日本学術振興会非鉄金属関係委員など。

主な受賞:日本工学教育賞(倫理)、日本原子力学会平和利用特賞、日本エネルギー学会賞、マテリアルライフ学会論文賞、資源素材学会発表論文賞など。

主な著書(共著を含む):『リサイクル幻想』(文芸春秋)、『リサイクル汚染列島』(青春出版)、『リサイクルしてはいけない』(青春出版)、『分離のしくみ』(共立出版)、『分離科学ハンドブック』(共立出版)、『有機材料工学』(シグマ出版)、『イオン交換』(講談社)、『日本の将来と産学連携』(丸善)、『エコロジー幻想』(青春出版)、『二つの環境〜いのちは続いている〜』(大日本図書)など多数、論文・総説など300編、学術発表500件、特許など200件。

趣味:歴史、熱力学、テニス、水泳
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