| 環境と食育 |
| モノからココロの時代へ…エコロジーの重要性が叫ばれている。 「本当の意味で環境にやさしい生活とは何か」を問いかける書 ―― 『エコロジー幻想』(武田邦彦著)。 そのなかから数回のシリーズで、芝浦工業大学の武田邦彦先生の「エコロジー」についてのお考えを紹介します。 |
| 本当の意味で環境にやさしい生活とは何か −『エコロジー幻想』から− |
| その1−少し足りないくらいの環境が理想 2001.10.1 |
| 芝浦工業大学教授 武田邦彦 |
| 満ち足りた生活は、昔の面影を残している環境と、わたしたちの体の奥の方からの叫びが呼応することである――現代の架空の環境を「不安」に思うのは、わたしたちの体のなかのDNAの叫びであり、わたしたちのなかの動物の感覚からのきしみでもあるのでしょう。 |
| ○低い食料自給率の原因 |
| 日本の食料自給率は昭和35年に、カロリーを基準とすれば82%、重量を基準にすると79%と高い値を誇っていました。国土が狭いのに農業に携わっていた人たちが頑張っていたおかげです。それが、平成10年にはカロリー基準で40%、重量で計算すると実に27%に下がったのです。それも日本人の主食の米の自給率が95%であることを考えると、米以外の食料の自給率が低いことが判ります。このような国は世界ではもちろん日本だけです。 狭い国に住み人口密度が高いのに、世界でも珍しいほど低い食料自給率。まるで「外国から食料が入ってこなかったら死んでもよい」と言っているようです。日本人の良いところ、楽天的なところがよくあらわれていますが、それは現代のように不安定な国際関係ではかなり危険なことです。食料が少なくなって餓死するのが大人だけならよいのですが、子供も犠牲になることを考えると、食料自給率の問題はもう少し真剣な議論がいるでしょう。 江戸時代の人口は約3000万人、現在の日本の人口の四分の一で、自給自足の生活をしていました。その当時から見ると農地は増えており、1ヘクタールあたりの生産高も大きくなっているので、多くの作物の自給は可能と考えられています。 それでも、このように低い自給率になるには2つの原因があります。 第一には、現在の日本人は栄養過多の状態にあること、 第二に、輸入した食糧の約半分を捨てているからです。 日本人が栄養をとりすぎていることはいろいろな書物や報道で繰り返し警告されていますので、そこは栄養学の書物に任せることにしますが、日本肥満学会が定義した「肥満」の人は、糖尿病や高血圧が普通の人と比べて4倍、脂肪肝が7倍、ガンが2倍、そして腰痛やひざの痛みなどは20倍というのですから驚きます。どうも人間というのは「食べるのに困らない」という状態になると我慢ができずに食べすぎになり、その結果、肥満となり、ひいては病気にまでなってしまうことが判りますが、もともと「お腹が一杯になる」という感覚は動物的なもので、生存に必要だから「満腹感」があると考えられます。 |
| ○「食べたいだけ食べる」より「腹八分目」にすると健康寿命がのびる |
| そこのところを動物の実験で調べてみます。 「ミジンコ」という生物がいます。池や沼など主に淡水に棲んでいて見かけは原生生物のように下等な動物に見えますが、実際にはかなり高級な動物でエビやカニの仲間です。小さい割には寿命の長い生物で、大事に育て、栄養もキチンとやると平均寿命は30日程度です。ところが、ミジンコを飼育するときに少し栄養を制限すると、平均寿命は50日程度にのび、そのなかでも一番長く生きるミジンコは、実に平均寿命の約2倍の60日も生きます。 このような例はミジンコだけに見られる特殊な現象ではありません。動物のなかでは一番高級な脊椎動物の栄養と平均寿命の研究を2つほど示します。小さくかわいい魚の「グッピー」は栄養を普通に与えて飼うと平均寿命は33カ月程度。つまり、約3年か、それより少し短い程度です。このグッピーも栄養を制限して飼育すると、平均寿命は46カ月にのび、一番長く生きたグッピーはミジンコの場合と同じように約2倍の60カ月程度の寿命となります(雑誌「サイエンス」など)。 さらに哺乳動物のラットの場合では、栄養を特に制限しない「自由食」のときの平均寿命が23カ月なのに対して、「制限食」のもとで飼育した場合には、平均寿命は33カ月にのび、その中でも一番長く生きたラットは実に2倍と報告されています。制限食のラットが長生きをするのは、体は衰えているのに寿命だけ長いというのではなく、頭もはっきりし、免疫力なども若々しく体の機能が低下していないことに起因しています。 これらの結果を総合的に考えると、あまりに栄養が少なければ寿命が低下しますが、ある程度栄養が獲得できると平均寿命がのび、さらに行き過ぎて「食べたいだけ食べる」ような状態になると逆に平均寿命が短くなることが判ります(松尾光芳編著『老化と環境因子』学術出版センター)。 栄養と動物の平均寿命、免疫力などの実験結果は生物というものの本質を教えてくれます。もともと栄養学がない動物には「満腹感」によって必要な食糧を採れるようになっています。太陽の光が食料の限界を決めますから、その範囲で繁殖すると、どの生物も限界までお腹をすかせた生活を送ることになるのです。つまり、生命とは「常に食料が不足し、それを充足するように頑張る」という宿命を負っているとも言えます。 動物としての一員である人間もこの原理に当然のように支配されます。人間も常に食糧不足の状態にあって、それを求めていくのが正常な姿のようです。現在の日本のように40%も食べ残している状態は正常な生物の生活ではないのは明らかでしょう。 |
| ○欲しいものが何時でも手に入る環境が、人間の正常な感性を喪失させている |
| 自然、環境、食糧と様々な面を考えますと、現代の環境問題は互いに深いところでつながっていることを知ることができます。 20世紀に人間は巨大な科学を駆使して、欲しいものを何でも手に入れることができるようになりました。人間は「欲しいものは何時でも」という環境を作ったのです。それは「部分的には正しい」ことのように感じられます。遠いところに行くのに自分の脚を使うのと自動車とどっちが良いか?と聞くと、誰しもが自動車と答えるでしょう。暑くて苦しい日に涼しい高原に行こうと言ったら反対する人はいないでしょう。そして、毎日の食事に飽きたので、美味しいものを食べに行こうということに抵抗できる人も少ないと思います。それぞれが、すべて正しく、問題がないように感じられるのです。 ところが、生物は「常時、不足状態」を前提にあらゆる感覚が作られているので、現代のように「欲しいだけ作り、したいだけする」というような社会を作りだすと、動物としての人間はなじむことができなくなると考えられます。 それが正常な感性を失わせ、破滅につながる発展をめざすという変なことになり、際限ない科学技術の進歩を追うようになったのでしょう。 |
| *このシリーズは武田邦彦先生のご了解をいただき 『エコロジー幻想』(青春出版社)から抜粋し一部を編集して掲載しています。 |
| 武田邦彦教授のプロフィール |
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たけだ くにひこ 1943年 東京都生まれ。都立西高等学校を経て、東京大学教養学部基礎科学科卒業。旭化成・ウラン濃縮研究所長を経て、1993年より芝浦工業大学工学部教授。工学博士、専攻は資源材料工学。東京大学、東北大学、名古屋大学(現)などの非常勤講師。人工的に作られた材料が呼吸をしたり代謝を行ったりする研究・難燃材料研究が主力で、資源分離、工学倫理など。日本難燃工学会長、原子力安全専門委員、日本学術振興会非鉄金属関係委員など、大学内では学長事務代理、大学改革副本部長など。 主な受賞:日本工学教育賞(倫理)、日本原子力学会平和利用特賞、日本エネルギー学会賞、マテリアルライフ学会論文賞、資源素材学会発表論文賞など。 主な著書(共著を含む):『リサイクル幻想』(文芸春秋)、『リサイクル汚染列島』(青春出版)、『リサイクルしてはいけない』(青春出版)、『分離のしくみ』(共立出版)、『分離科学ハンドブック』(共立出版)、『有機材料工学』(シグマ出版)、『イオン交換』(講談社)、『日本の将来と産学連携』(丸善)、など約20、論文・総説など300編、学術発表500件、特許など200件。 趣味:歴史、熱力学、テニス、水泳 芝浦工業大学武田先生の研究室のホームページはこちらへ。 |
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