あらためて問う遊びや自然体験の大切さ
―「いい子」の少年たちの生育史から―
東京家庭裁判所 総括主任家庭裁判所調査官 佐々木光郎
「子どもの遊びと手の労働研究会」1999年全国大会記念講演要旨より
 その1―「いい子」の非行が目立ってきた 2002.5.1
○変わってきた子どもたち

私は、非行臨床に関わって、かれこれ27年になりますが、1995年頃から、非行少年(ここでは中高校生)のすがたがすっかり変わってきました。

というのも、以前、私の面接に現われる子どもたちというと、家庭環境に恵まれなかったり、子ども自身も小学校低学年の段階で九九の計算がよくできなかったが、最近では、勉強も比較的できたり、学級委員をしていたり、運動部のキャプテンをしているような子どもたちも登場するようになったのです。このような子どもたちは、親や教師から見て「いい子」(*)なのです。

しかし、どのように関わっていけばよいのか、いま、臨床家も困っています。検討した結果、どうも、この非行の背景を解明するには、皆さんの実践されている「手と労働」や「遊び」からの切り口が必要であることに気がついたわけです。

○「おやじ狩り」の非行から見えてきたもの

最近、一見、まじめに学校生活を送っている高校生たちによる「おやじ狩り」という非行が増えてきました。この非行というのは、子どもたちが数人のグループを組んで、まったく関係のない中高年の男性をいきなり襲って現金などを奪うというもので、とても悪質な犯罪行為です。

ところが、「いい子」の少年たちについて、おおよそ30人あまりの「いい子」の生育史を調べてみたところ、ほぼ全員が幼児期に自然体験がなく、学童期にはいわゆるギャングエイジの体験がないことがわかりました。

これは大変な発見だと思いました。彼らは、幼児期に遊びもなく過ごし、これまた学童期でも子ども同士の触れ合いの経験がないものだから、思春期になって皆でワイワイと群れながら、何かの行動をすることが非常に新鮮に見えて楽しいというわけです。それが、小学生たちの悪童のようにグループ(徒党)を組んで行うのが「おやじ狩り」という非行なのです。

発達的には「子返り」をしているように思うのです。自分たちが失っていた、経験できなかったことを取り戻しているからです。それにしても、思春期になって、犯罪によって、失った「子ども期」を追体験するとは寂しい限りです。

○自然体験やギャングエイジの意味

子どもは両親から生命をもらい誕生し成長する過程で、類的な発生を繰り返すといわれています。母親のおなかにいる胎児は魚類や爬虫類のようなかたちから次第に哺乳類のかたちになって生まれます。その後は、人類史に従い長い狩猟生活が続きます。幼児である二、三歳頃の子どもは花を折ったり、お父さんが釣った魚をいきなり踏んで殺したりするようなことがしばしば見られ、大人から見て残酷なことをします。

これは発達的には大事な体験であると思います。幼児期の攻撃性といいますが、人類の祖先から受け継いだもので、このようにいろいろな自然体験の中で発露し、周りの大人たちから教えられて、やがて人間社会では、無意味な殺生や暴力はいけないことを学習するわけです。むきだしの内なる攻撃的な衝動は次第に社会化されるとも言うことができます。

また、ギャングエイジ期は、仲間をつくる過程で他人との関わり方や、けんかをしても「それ以上やると駄目だ」と言われて、手加減の仕方を学習するよい機会なのです。こういう過程を経て思春期になると、自分とは何者なのかと思索しながら大人になっていくわけです。

先ほどの「おやじ狩り」の非行に話を戻します。少年たちに、どんな理由で行うのかと訊くんですが、「皆でワイワイいっしょに何かするのが楽しい」と言います。大変な犯罪行為をして「楽しい」とはけしからぬ話ですが、それで私はハッと気がついたのです。彼ら「いい子」たちは、幼いときから、子ども同士で触れ合う機会がなかったことをです。「皆で何かをする体験」を「おやじ狩り」によって再現しているのがわかったわけです。
*この本の「いい子」とは、幼児期から小・中学生ころまでに、大人(親や教師など)が期待する生活態度、行動パターンを取り続けた結果、学業や運動などの成績もすぐれ中位以上にあるものをいう。概して教育熱心な家庭で育っている。
2002年6月更新に続きます。次回テーマは「いい子の生育史」。
このシリーズは佐々木光郎氏のご了解をいただき『いい子の非行―家裁の非行臨床から』
(春風社)から抜粋し一部を編集して掲載しています。
佐々木光郎氏のプロフィール
1946年秋田県生まれ。1973年東北大学大学院教育学研究科修士課程修了。
1991年最高裁家庭裁判所調査官研修所教官、1997年文部省第16期中教審専門委員。
現在、東京家庭裁判所・総括主任家庭裁判所調査官。
日本生活指導学会理事、秋田大学教育文化学部非常勤講師(生徒指導)を兼ねる。
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心の視点から
「いい子」による犯罪が目立つようになってきた…。彼らはどのような家庭・学校生活を送ってきたのだろうか。
「いい子」の非行事例をもとに現代の文化的・教育的課題を探る書――『いい子の非行』(佐々木光郎著)。
そのなかから数回のシリーズで、家庭裁判所調査官の佐々木光郎氏のお話を紹介します。
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