農林漁業と食
食生活が乱れるとその人の体調が崩れてくるのと同じく、国民の食の周辺が乱れてくるとその国の社会も崩れてくる。
憂国の書―『食の堕落と日本人』(小泉武夫著)から、数回シリーズで
東京農業大学の小泉武夫先生の現代日本人の食についてのお考えを紹介します。
食の堕落と日本人
〜この国の食の堕落をいかに食い止めるか〜
その3−農・水産業に魅力を感じさせる行政を行うこと
2003.4.1
東京農業大学教授 小泉武夫
農業の再生には土づくりが基本となる。生ゴミなどを原料にしてそれを現代の発酵学で短期間に堆肥をつくること(前述したハザカプラントの場合、25日間の発酵で完璧に完全熟成した肥沃な土・堆肥ができる。昔はこれをつくるのに5年もかけていたのだから、驚くべきことである。25日間の発酵温度は摂氏95〜98度である)。

この肥沃な土を大量に畑や水田に撒いて農作物をつくると、化学肥料を大幅に節約できるかまたはまったく使わなくても、すばらしい農作物ができる。前章で述べたが、この土で収穫したトマトやスイカなどは水に入れると沈んでしまう。

こういう農作物は市場価値が高くなるから農家の収入は上がり、農業を魅力的に考えるようになる。また、この場合、酪農業から出る大量の家畜糞尿も大切な堆肥の原料になるから、これも使って行うことだ。こうすることにより、一般家庭から出てくる生ゴミや食品会社からの有機性廃棄物、酪農家からの家畜糞尿などは堆肥の原料となり、直面する環境問題も一挙に解決することになる。

このような土づくりからの農業再生は、行政が大胆にして細やかに動かなければ実現はほど遠い。土づくりから農業を再構築しようとする農家に対しては、村も町も県も国も、親身になって指導し、補助してやるなど支援しなければならない。

残念ながら今の行政は、この私の考え方に聞く耳をほとんど持たないから、不幸なのである。多くの役人は、これだけ今の日本農業が深刻な現状を迎えているというのに、真剣に勉強をしてないからついてこられないのだ。一日平穏で何もなければそれで月給がもらえる、といった役人根性では、何ひとつこの国は良くならない。私にこれだけ言われて腹を立てて怒っている暇があるなら、直ちに動くべきである。悔しかったら魅力ある農業づくりに立ち上がって燃えてみるべきである。

水産業も、今からでもいいから稚魚の栽培をどんどんやって将来獲る魚介を増やしていくことだ。もちろんこれも行政の確固たる主導があってこそなせるものであり、一日早く事を起こせば一年早く結果の出るのが生態系なのである。
2003年5月更新に続きます。

このシリーズは小泉武夫先生のご了解をいただき『食の堕落と日本人』(東洋経済新報社)
「第5章 この国の食の堕落をいかに食い止めるか」から、数回に分けて掲載しています。
小泉武夫教授のプロフィール
こいずみ たけお

学者、作家、エッセイスト、冒険家、発明家の顔を持つ。1943年、福島県の酒造家に生まれる。
東京農業大学教授、専攻は醸造学・発酵学。農学博士。国立民族博物館共同研究員、福島県しゃくなげ大使や東都大学野球連盟理事も務める。食物・微生物関連で特許20件を超えるほか、「日本醸造協会伊藤保平賞」「三島雲海学術奨励賞」など受賞。

著作は80冊を超える。主なものに、『酒の話』『平成養生訓』『納豆の快楽』(講談社)、『奇食珍食』『発酵』『日本酒ルネッサンス』(中央公論新社)、『食に知恵あり』『中国怪食紀行』『食あれば楽あり』(日本経済新聞社)、『地球を怪食する』『発酵食品礼賛』「(文芸春秋)など。作家としてのペンネームに諸白醸児があり、味覚人飛行物体も自称する。
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