農林漁業と食
東京農業大学生物企業情報学科門間敏幸教授のカレッジ講座でのお話のなかから
「元気なむらおこし」の事例を紹介します。2001.3.1
地域の資源<人、自然、文化>を生かした元気な村たち
昨年10月から12月にかけて6回シリーズで行われた、東京農業大学カレッジ講座「いま、バイオビジネスが熱い!! 〜だれが私たちの食料と環境を支えるのか」(*1)に参加しました。講座内容は、地球の人口増加、環境悪化、資源の枯渇など、宇宙船“地球号”の存続自体が危ぶまれているなかで、人類生存の糧である食料をいかに環境に配慮しながら持続的に生産していくか、あるいは今後のバイオビジネスの展開に多大な影響をもたらすIT革命への対応をどうするか、さらには今後のバイオビジネスを支える新しい担い手像を明らかにするという壮大なテーマでした。シリーズを通して地球や人類の未来を真摯に考えさせられる講義内容で、たいへん勉強になり、また勇気づけられました。
このページではシリーズ6回目の門間敏幸教授のお話のなかから「地域資源(人、自然、文化)を活かした独創的な地域づくり(むらおこし)」の展開事例をいくつか紹介します。
●事例1:岩手県山形村の「バッタリー村」
まず、岩手県の北上山地北部に位置する山形村のなかのわずか5戸の集落で結成された“バッタリー村”の事例。
山形村では「農林業の後継者の不足と高齢化」「過疎化の進行」「特産品の不足」などの厳しい状況を抱えるなかで、「人づくり」「地域特性を活かした産業おこし」「地域個性を活かした生活文化づくり」という基本的な視点のもとで、さまざまな対策が試みられている。
村全体のこうした活性化対策の方向づけに大きな影響を与えたのが、
小さな「バッタリー村」における山村生活文化創造の運動であった。活動のリーダーである木藤古徳一郎氏を中心に、地域づくりの目標を「地域の自然を活かした他の地域では真似のできない集落独自の生活文化の創造」に据えて、短角牛の産直運動、炭焼き、藁細工、木工、伝統食づくり等、それぞれの住民が最も得意とする技術の掘り起こし(一人一芸)を行った。
ちょうどその
頃に東京に本部をおく消費者団体「大地の会」と山形村との交流会があり(昭和58年)、バッタリー村と都市住民との交流が始まった。
バッタリー村の都市住民との交流は、都会の人々に迎合することなく、自分たちの暮らしをよくするために行った活動の結果である。自分たちのための活動が、都会の人々の興味を引き、都会暮らしのなかで忘れられたものの再発見に繋がっていったのである。
バッタリー村には観光で訪れる人は少なく繰り返し訪れる人が多い。口コミでバッタリー村の素晴らしがを宣伝され、年々村を訪れる人が増えている。訪れる人々のなかには、自分の生き方を求めて精神的な彷徨をする若者もあり、また精神的な障害をかかえる子どもたちの回復の場としても注目され、
多くの人々の心のオアシスになっている。
最近では炭焼き技術を学ぶためにインドネシア、パラグアイ、タンザニア等からの研修生が訪れ、
国際交流にも発展している。
●事例2:長野県小川村の「小川の庄」
長野県小川村には急傾斜地の山村に高齢者の生きがいを甦らせた「(株)小川の庄」がある。「小川の庄」は昭和61年に発足し、第3セクターではなく、行政や農協との連携をもった第3セクター方式による新しい村づくり事業として推進された。
モットーは、小川村に暮らす人々が「生涯現役で生きがいをもって働ける状況を作る」。地域に古くから伝わる食品や加工品の掘り起こしと現代にマッチングした製法の開拓研究を行い、郷土食の再生と自然食・健康食としての商品化により地域の経済的精神的活性化の実現をはかった。地場産の粉を使った「うどん、そば」「おやき」などの加工品販売を主体に、地域へのこだわりを基盤とした事業展開を行った結果、村の活性化につながった。
村民の高齢化とほとんどの耕地が30度近い傾斜の山間地という厳しい環境のなかで、おやきの原材料に使う小豆、野菜、キノコなどの農産物が、規格外品であっても、作ったものが売れることから、
農地の荒廃を押しとどめている。
また、おやきやそばづくりは高齢者の仕事であり(就職年齢は60歳、定年は78歳以上というキャッチフレーズだが78歳は従事者の最高年齢でこの人が働いているうちは定年は自動延長なのだそうだ)、
高齢者の経済自立に貢献。また、おやきの原材料の出荷では女性の経済自立にも貢献している。
さらに、古くからの知恵と技術によるおやきやそばをつくるという、中高年の特技を活かせることが、彼らの
今まで生きてきたことの誇りに繋がっている。
平成元年にはジャパンエキスポへの参加をはたし、75歳を筆頭に15名がロスアンゼルスに出張。「おやき、そば」の実演販売を行った。日本の農村の郷土食「おやき」が海外で受け入れられるのかどうか、不安いっぱいで臨んだジャパンエキスポであったが、
ごく自然体で国際交流ができたという。環境が似ているドイツのグータッハ村との交流も実現し、社員だけでなく、多くの村人との相互の連携が年々深まっている。
●その他の事例
長野県大岡村では、大自然に恵まれながらも、高齢化、過疎化が進む村と、農村体験ややすらぎの場としてふるさとを志向する都会の人々との相互のニーズに応えるために、「農村文化交流センター」を中心に、都市と農村の交流をはかるさまざまな事業を展開している。また本格的な就農希望や田舎暮らしを考える人には、じっくりと生産と収穫の喜びを味わうことができる「菜園住宅」(*2)を提供。ドイツ語で小さな庭を意味する「中ノ在家クラインガルテン」(*3)は、施設とともに農業のプロである地元民が農業指導や講習会を行うなどのソフト面でのサービスを行い、農作業をまったく知らない人でも家族で野菜や花作りを楽しむことができる。有機栽培の新鮮な野菜がたっぷり収穫でき、菜園住宅、クラインガルテンともに大人気だそうで、何年も先まで予約が埋まっているとのことだ。

このほか、長野県四賀村(有機野菜や自然卵、滞在型市民農園、温泉)、三重県阿山町(ソーセージと地ビールのモクモク手づくりファーム)、徳島県上勝町(つまものパック彩のヒットと1Qさん運動)などの地域づくりの事例も興味深いものでした。
このように外に開かれた農村からの発信が、都市との、あるいは、世界との交流ネットワークを拡大していることは、農村地域、都市部にかかわらず多くの人々に、活力に満ちた前向きなエネルギーを感じさせてくれるように思いました。村おこしの主役が中高年であるところにもまた格別の意味があるのではないでしょうか。
このように元気な村々を訪れ、自然や農業の一端をゆったりと経験することは、子どもたちにとってとても豊かで大きな経験になることと思います。農村留学など夏休みなどの長期休暇に子どもの体験学習が流行っていますが、大人たちも少しゆとりをもって、子どもたちとともに家族そろって農村の体験をしたいものです。
*1  @世界の食料と環境を考える        東京農業大学理事長 生物企業情報学科教授 松田藤四郎
    A自然環境変動と地球環境悪化は食料生産の脅威となるか   生物企業情報学科教授 長野敏英 北村貞太郎
    B環境保全型農業は第2の緑の革命をもたらすか   生物企業情報学科教授 藤本彰三 同講師 宮浦理恵
    CIT革命は食料生産・流通をかえるか    生物企業情報学科教授 杉本隆重 同助教授 新部昭夫
    D新しいバイオビジネスの展開と担い手像   生物企業情報学科教授 新沼勝利、新井肇
    E新しいバイオビジネスの地域的展開による創造・共生型田園社会の構築  生物企業情報学科教授 門間敏幸
*2 菜園付き長期滞在施設
*3 市民菜園規模の有機質農園付きで休憩室やトイレなどの設備が整ったウラベ(小屋)の施設
参考文献
門間敏幸「新しいバイオビジネスの地域的展開による創造・共生型田園社会の構築」カレッジ講座6回資料 2000.12.15
門間敏幸「日本一小さな村の山村ルネサンスへの挑戦」農業と経済 1993.臨
権田市郎(株)小川の庄 代表取締役 「急傾斜地の山村に高齢者の生きがいを甦らせた(株)小川の庄―第3セクター方式による村づくり事業」
門間敏幸教授のプロフィール

もんまとしゆき

1949年生まれ。東京農業大学卒。72年農水省入省。東北農業試験場、農業研究センター勤務、同農業試験場経営第一研究室長、同農業試験場農村計画部地域計画研究室長を経て、現在東京農業大学生物企業情報学科教授。

著書: 『パソコンによる農業生産の計画と予測-基礎編』『同-応用編』
     『牛肉の需給構造と市場
対応』など
このページは門間教授のご了解をいただいて掲載しています。 文責Webmaster 大村直己  
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