| 食の専門家から |
| 健康に関する食べもの情報がテレビや雑誌などのマスメディアを通じて、山のように提供されています。 正しい情報もあるのですが、誤った情報も大変多く、雑多な情報に多くの人々が翻弄されている時代――。だからこそ 食生活教育に関わる人々が確かな目で食情報を見極める責任は非常に大きいと言えましょう。先月に続く2回目。 フードファディズム時代の食生活教育のあり方について、群馬大学の高橋久仁子先生のお考えを紹介します。 |
| フードファディズム時代の食生活教育とは |
| その2−今の子どもたちに必要なのは 「フードファディズムに負けない食生活教育」である 2002.1.15 |
| 群馬大学教育学部教授 高橋久仁子 |
| ●食品の名前を知ることは食生活教育の出発点 |
| 食情報を自分自身の食生活に役立てるにはある程度、食品の名前を知っていることが必要である。たとえば「イワシにはIPA(イコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)が多い。IPAやDHAはある種の生活習慣病の予防に有益である」と聞きかじっていても「イワシ」そのものを知らなければ知識は生かせない。 「どうも食品の名前を知らないのではないか」と思わざるを得ない状況に幾度か直面することがあり、大学生がどれだけ食品の名前を知っているのかを調べたことがある(1992年調査。男女大学生240名)。野菜、肉、魚介類、乾物など29食品を、生鮮食品は未加熱状態の実物を、ダイズやヒジキなどは乾物を提示し、解答欄に記入する形式で行ったところ、イワシの正解率は55%、すなわち半数強がイワシを見てイワシと答えることができた。アジとサバはそれぞれ66%、63%であり、サケやカレイの正解率が95%以上であるのに対し、いわゆる「大衆魚」の知名度が低かった。 日常的な食品の名前はもともと学校ではなく、買物や調理への参加、また食卓上で家族と交わす会話など、家庭においていつのまにか身についていく性質のものである。しかし、実にさまざまな食品が市場に出回る現代である。意識的に教えないと食品名を知らないまま大人になってしまうのであろう。 ありふれた食品の名前を知っていることは食生活教育の出発点といえよう。学校教育の中で、同時に家庭において、おとなが子どもに食品の名前を教える努力を行わなければならない時代なのかもしれない。 |
| ●食生活教育の本筋とは |
| 1985年に厚生省が初めて発表した『健康づくりのための食生活指針』に「健康を保持増進するための食生活の条件として最も基本的なことは、からだに必要な炭水化物、脂肪、たん白質、ビタミン、無機質といった栄養素を過不足ないようにとることです。一方、食品に含まれる栄養素の種類と量は、個々の食品ごとに異なります。どのような食品であっても、ただ1種類の食品ですべての栄養素を必要なだけ含んでいるものではありません。数多くの食品を種類の異なる食品群から幅広くとることによって、栄養素をバランスよくとることができます」とあったことはあまり知られていない。 90年版『健康づくりのための食生活指針(対象特性別)』にも同様のことが記されていた。しかしながら最新の「食生活指針」(2000年3月)では姿を消してしまったのは残念である。 あまりにも当然で「何をいまさら」と思われるかもしれない。しかし、このことを真剣に受け止め、実践できるようにすることこそ食生活教育の本筋ではないだろうか。 |
| ● フードファディズムに陥らない地道な食教育を |
| 健康の維持増進の3要素「栄養・休養・運動」のうち、休養と運動に「モノ」はいらない。自分自身で体を動かすなり、休ませるなりするしかない。ところが「栄養」にだけは「食べもの」という「モノ」が関わる。もしかするとマジックフーズがあるのではないか。それを食べさえすれば運動不足も休養不足も帳消しにしてくれるような、長い間の生活習慣の不摂生のツケを解消してくれるような…。そんな期待にフードファディズムが忍び込む。 残念ながらそのようなマジックフーズはない。とはいえ「健康の維持・増進に効果的な食事のしかた」とか「病気になりにくい食生活の営み方」ならあるといえよう。それが先の「必要な栄養素を過不足なくとること」であり、それを学ぶ場が食生活教育である。 これを食べれば健康が保証されるというマジックフーズはない。同時に、これを食べるとたちまち病気になるという「魔女フーズ」もない。フードファディズムに陥ることなく、地道な食生活教育が行われることを願う。 |
| 高橋久仁子教授のプロフィール |
| たかはし くにこ 1949年生まれ。日本女子大学家政学部食物学科卒業。東北大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。88年群馬大学助教授、96年より群馬大学教育学部教授。 妊娠と泌乳、味覚感受性、微量元素などをテーマにしてきたが、最近は食生活教育のあり方を模索している。食や健康の情報を正しく利用するために"フードファディズム"の考え方を啓発。食生活分野に根強く残るジェンダー(社会・文化的性)問題を整理し、女性も男性も自分で食生活を管理・運営できるようになるための意識の啓発にも努める。 著書に『「食べもの情報」ウソ・ホント』(講談社)など。 群馬大学のホームページはこちらへ。 8月末にウイーンで開催された「国際栄養学会議」に出席された高橋先生のひとこと 「フードファディズム」も「食とジェンダー」もともに"Nutrition Education "の"Nutrition Communication" の問題なのだということを再確認してきました。フードファディズムは、今までどちらかといえば、先進工業諸国の問題と考えていましたが、発展途上国には途上国なりにこの問題があることもわかりました。ジェンダーとフードファディズムを超えた食の教育が広まることを願っています。 |
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