| 食の専門家から |
| 生きるか死ぬかの厳しい環境では食べることはシンプルである。 豊かになった世界では、より安全に、よりおいしく、より幸せに、さまざまな欲求が膨らんだ。 その結果、脳が支配する現代人の食生活が出来上がった― 『人間は脳で食べている』(伏木亨著)。 そんな現代の離乳食をどう考えるべきか、伏木亨先生のお考えを3回シリーズで紹介します。 |
| 子供がはじめて食べる食事 その3−無国籍な離乳食は好みを無国籍にする |
| 2008.5.1 |
| 京都大学農学研究科教授 伏木亨 |
| ・・・『人間は脳で食べている』伏木亨著(ちくま新書)4章現代人の食べ方より・・・ |
| 消化管の適応範囲はかなり広い。好き嫌いを別にすれば、どんな国の食事でも一応は食べられるだろう。消化管には適応能力はあるが、好き嫌いがそれを狭くしている。 脳の好みで食べ物が選択されるのである。嗜好の形成は脳が受け持っている。離乳時期から食体験がスタートし、次第に基本的な嗜好を形作っていくものと思われる。 どんな食事を与えるかは、親の好みに依るところも大きい。親の価値観による部分もある。離乳食によって子供の脳は学習しているのだから、子供の好みは親の与える離乳食やその後の食事が大きく影響することは明らかである。 親は、フレンチやイタリアンあるいは中華料理にベトナム料理として意識して食べていても、基本に日本の味を理解している。 しかし、子供の好みを決める大事な刷り込み的な時期に、脈絡のない料理をむやみに与えていいものか。毎日変わる万国旗のような料理。舌が無国籍になるのは当然である。 グローバルと言えば聞こえがいいが、味の基準となる自国の食文化の基礎を獲得できなかったのである。大げさに言えば、食によるアイデンティティー形成の大事な機会を奪うことになるのではないか。 第二次大戦後に子育てを始めた親たちは、わが国の文化に冷淡であったようである。敗戦の影響かもしれない。新しい外国の文化に飢えていたのかも知れない。 赤ん坊にレバーペーストやグラタンのホワイトソースやエスニックやバター・チーズ、コンソメの風味をさんざん与えて、 「さあ、明日からは和食で健康に」 そんな器用なことができるはずがない。 もしも和食が好きな子供にしたかったら和食の味を与えるのが自然である。離乳期の子供は、大人になってからの味覚を探るために必死なのである。 |
| シリーズ終了です。 このシリーズは伏木亨先生のご了解をいただき掲載しました。 |
| 伏木亨先生のプロフィール |
| ふしき とおる 1953年生まれ。滋賀県出身。京都大学農学部卒業、同大学院を経て、現在京都大学農学研究科教授。専門は食品・栄養学。日本栄養・食糧学会評議員、日本香辛料研究会会長。主な著書に『コクと旨味の秘密』(新潮新書)『ニッポン全国マヨネーズ中毒』(講談社)、『グルメの話、おいしさの科学』(恒星出版)など。 |
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