SPECIAL
昨年11月フェリス女学院大学のフェリスフェスティバルで開催された「消費者であるために」という講演会(*)
〜企業と対立する消費者から対等な消費者へ〜という春木良且先生のお話をうかがい大変感銘を受けました。
今月から数回シリーズで春木先生のこれからの時代の消費者についてのお考えを紹介します。

*主催は“消費者について考える会”
『社会運動としての消費者運動を考える』
〜技術と消費者との関わりについて〜
          その1-消費者運動への問題提起   2004.1.15
フェリス女学院大学国際交流学部国際交流学科助教授 春木 良且
筆者は所属する大学内にて、一昨年度より消費者問題に関する勉強会を主催しており、シンポジュームの開催など一応の成果を上げてきた。本稿では、その成果をもとに社会運動としての消費者運動に関して考察する。

筆者はソフトウェア工学を中心とした情報技術を専攻するが、近年先端技術と社会との関わりについて関心を広げている。情報技術の一般化により、パソコンやネットワークの導入などがごく当たり前のように行われているが、メーカ主導の技術展開やユーザ側の知識の欠如、誤解などにより、技術がその目的や方向性を見失っている例を少なからず目にする。

技術には、それを受け入れる側の批評性が必要である。さもなければ、技術は独善的に暴走してしまう可能性がある。その一つの結果が、原子爆弾の開発とその悲劇的な実験であると言っても過言ではないだろう。

技術を使う側は、新しい技術を無条件に受け入れるのではなく、常に批評して技術を提供する側にフィードバックをして行かねばならない。その意味で、技術を専攻する人間として、消費者という存在に大きく関心を抱いており、学内での勉強会もその一環として実施してきたものである。

その中で取上げたテーマの内の一つに、「化粧品の動物実験」に関するものがある。化粧品は、医薬品と並び高度な化学技術の産物であり、そこにも前述の技術と消費者との関わりを見ることが出来る。化粧品は、安全性及び品質の確保の観点から、薬事法により規制されている。また医薬品とは異なり疾病等の治療を目的とするものではなく、人体に対する作用が緩和なものであること等の特性から、種別ごとに承認、許可を行う包括承認・許可制が取られている。

こうした規制の元での製造販売により、消費者は大きく保護されていると言える。しかしそれらの安全性評価が、動物実験によって検証されたものであるということは意外と知られてはいないであろう。

医薬品や化粧品の安全性を臨床的に検証するためには、実験的な手法による毒性試験が行われる。それには動物を使った動物実験と、動物の生体以外のものを用いた代替法の二種類がある。

前者は、哺乳類を中心とした動物を用いて生体実験を行う手法であり、実験動物としては兎が最も頻繁に使われる。兎は鳴かないしまた扱いやすいためだそうである。しかしその実験内容は余りに残酷なものであり、倫理的には大きな問題を孕んでいる。

何より、人間と他の実験に使われる動物とは同じ哺乳類とはいえ、本質的に生体のメカニズムが大きく異なっているため、動物実験から得られるデータ自体、人間に適用するには不確実であるということは否めない。また、実験期間は長期化し高コストともなるため、最近では、動物実験に代わる後者の代替法という手法が用いられる。

これは、ソラマメから抽出した蛋白試薬をつかった眼刺激性試験やタンパク質の繊維網、コラーゲンでできた人工皮膚をつかった皮膚刺激性試験など、動物の生体ではなくその代替となる検体を使って検証を行う方法である。

実際世界的な傾向としては、動物実験から代替法へという動きが顕著である。EUは1998年までに化粧品に関する動物実験を廃止するという規定を1992年に決定している。イギリス、ドイツ、フランス、アメリカでは動物実験を義務付ける法律は無く、特にドイツではタバコと装飾用化粧品、洗剤、掃除用品の動物実験が一切禁止されている。

しかし日本では、国が動物実験を義務付けていることに加え、研究者が積極的に代替法の研究に切り替えられない、動物実験をしていないと商品に表示する会社が少ないといった点が指摘されている。それは多分に、動物実験が化粧品メーカの責任回避として機能しているためと言えるであろう。

勉強会では、特に消費者の動物実験についての認識が薄いことに着目し、各企業の動物実験に対する取り組みについて、アンケート調査を行った。その結果、動物実験をしていないとされているいくつかのメーカから得た回答例を表に示す。

これらの企業は、全て動物愛護団体などから、動物実験をしていない化粧品メーカとして企業名が公表されている企業である。しかしここで見るように、社会的に「動物実験をしていない」とみなされている企業であっても、その事実に対する自己評価は千差万別である。

たとえば動物実験のみならず、エイズや温暖化、フェアトレーディングなど、広く社会啓蒙と広告宣伝を展開している企業にBS社がある。同社の動物実験に対する方針は、実はここで指摘するD社とほぼ同じである。すなわち過去に行った動物実験をもとに基礎データを作り上げたことは肯定している。D社は過去のその事実を重視し、BS社はそれを取り止めたという点を重視しているという違いがあるにしか過ぎない。

ここからわかるように、もし「化粧品の動物実験」に対する反対運動を行ったとしても、最終的には好き嫌いや価値観の相違など、主観的な要素によって左右されてしまうということになってしまう。これは別に動物実験の反対運動だけに限ったことではなく、殆どの社会運動が多かれ少なかれ、そうした側面を持つということに注意しなければならないだろう。

すなわち、社会運動は単純な反対運動では意味が無いのである。こうした問題意識を元に、以降には社会運動としての消費者運動について、その方向性や意義などを考察する。
表 動物実験を行っていない化粧品メーカからのアンケート回答例

A社
弊社取り扱い製品については動物実験を行っておりませんが、OEM先およびその関連会社の中には、医薬品等の研究開発を行っているところもあり、直接的ではないものの、動物実験とは無縁とは言いきれない部分もございます。そのため、製品やカタログ等には動物実験に反対することや、行わないことをアピールするようなことは何も記載しておりません。
B社
弊社及び関連企業は、動物実験を行っておりませんが、この事実が決して『一切の動物の犠牲無しに』化粧品を開発していると主張できるものとは、考えておりません。それが例え動物代替実験であっても少なからず、動物のおかげをこうむっております。動物実験を他人事と捕らえている訳ではなく、上記のような、諸事情も含め安易に『動物実験を行っていない』旨を声高に叫ぶ事は差し控えつつ、これからも商品開発及び企業努力を行ってまいりたく存じます。
C社
弊社では、確かに動物実験をしておりませんが、これは、できるだけ動物実験の必要の無い安全性の高い原材料を選んでいる結果としてであって、動物実験に反対というスタンスのためではありません。また、使用している原材料の中には、原料メーカが、使用承認を得る段階において、安全性確保のために動物実験を行ったものも含まれています。そのため、弊社製品には、その旨を表示しておりませんし、外部に対しても、広報活動をしておりません。
D社
弊社では、自社内における動物実験は行っておりませんが、遡ってみますと、弊社がその使用を決定する根拠は、それ以前に既に行われた動物実験による安全性の確認にありますので、広義においては、弊社もまたそれに参加していると言わざるを得ないかもしれません。
E社
私どもの製品は動物実験はもちろんしてはおりませんが、声高に「反対しています。」の姿勢はとっておりません。「動物実験はしていなくて当然」という本社の意識からでございます。従ってリーフレットや製品に、そういった記載されたものがございません。
2004年3月に続きます。
春木 良且助教授のプロフィール
はるき よしかつ

1956年11月生まれ。フェリス女学院大学国際交流学部助教授。
東京大学工学系研究科博士課程先端学際工学専攻 単位取得期間満了退学。
民間企業でソフトウェア開発、コンサルティング、教育などに携わった後、現職。
主な著書に『情報って何だろう』岩波ジュニア新書,『見えないメッセージ〜情報と人間の関係をさぐる〜』フェリス女学院大学など。
最近卒業生達とバンドを結成し、学園祭でデビューしました。(haruki@ferris.ac.jp)
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