| SPECIAL |
| 食育は生活習慣病の根治療法であり、食生活の広い意味を踏まえた食事指導が大切である―― 医療の現場で、また出前授業などでも、子どもたちに接しながら、食育の大切さを実感されている 鳥取大学医学部の谷口晋一先生のお考えを紹介します。 |
| 生活習慣病の低年齢化について |
| 2006.1.15 |
| 鳥取大学医学部 講師 谷口晋一 |
| いまやTVや新聞で生活習慣病という言葉がきかれない日はないほどに生活習慣病はポピュラーな言葉となっています。「生活習慣病」は、もともと「成人病」といわれていた概念を、成人になってかかる病(成人病)ではなく、生活習慣と関連して発生する病(生活習慣病)という意味で、厚生省が表現を切りかえたものです。 ○増える糖尿病 私が働いている内科学教室は、糖尿病、高脂血症、肥満をはじめとして心筋梗塞、心不全などの循環器疾患も担当しています。私の専門は内分泌代謝学といういかめしい名前ですが、実際の診療では糖尿病患者の診療が中心となっています。 厚生省の調査でも明らかですが、今の日本ではすごいスピードで糖尿病または糖尿病予備軍の人が増えています。平成14年の調査ではあわせて1620万人、つまり東京都人口を軽くオーバーしてしまいます。 どうしてこれほど糖尿病が増えているのか。その理由は生活スタイルが戦前・戦後で完全に変わってしまったからです。 よく使われるデータに、日本人の車保有台数と糖尿病増加が並行している図があります。これは生活のなかで歩くことが少なくなっている、つまり運動量がへっていることと関連しています。 また、食べるほうはどうかといえば、このHP主催者である大村氏がくり返しいわれるように、昭和30年代にはいってからは、国の経済発展と並行してチキンラーメンに代表されるインスタント食品がふえてきました。また、和食中心の食材から、脂分の多い欧米型の食生活へと変化しています。 栄養摂取量の推移をみますと戦前から戦後にかけて栄養摂取量は著しく増えているのではないかと思われますが、意外なことに実際にはそれほど変化していません。しかし食べ物の中身はかなり変化しました。とくに脂質と砂糖の摂取量が増加し、炭水化物が減っています。 このような食べ物の中身の変化と身体活動量の低下が、糖尿病増加の背景にあるようです。 広島大学では、日本から移民した日系アメリカ人を対象に、ハワイ・ロサンゼルスstudyというものをかなり以前から続けています。この研究で明らかになったことは、移民した一世の日本人が食生活内容を欧米型にきりかえることによって、かれらの身体におこったことは、現在の日本の状況を先取りしているのです。すなわち、肥満・糖尿病の増加とこれに伴う心筋梗塞をはじめとした心血管疾患の増加です。 ○小学生から肥満の増加 今回のテーマである生活習慣病の低年齢化という問題は、まさしくこのような生活状況の変化が背景にあります。決して日本人の遺伝的体質が変化して生活習慣病をおこしやすい「新日本人」が登場したわけではありません。 まず、学童の肥満児の割合の推移をみてみますと、昭和60年前後を境に肥満が増加傾向となっています。とくに小学生からの増加が著しいですね。もちろん成人と異なり学童の肥満を問題にする際には、成長標準カーブを参考にしています。 私どもの大学でも学校保健を研究している部門から、学校における健康状況と生活状況調査というのを行いました。その結果、全国調査ほどではないですが、高脂血症の増加があり、なによりも生活のスタイルに問題があることがわかりました。 それは、生活時間帯が夜型へシフトしていること、親の間食などの食習慣に影響うけていること、小学校の頃から清涼飲料水をのむ習慣ができあがっていることなどです。やはり三つ子の魂百までとはよくいったもので、小さい頃に形成された習慣というのはなかなか直らないものです。 自分を振りかってみても、幼稚園のころに、はじめてチキンラーメンを食べさせてもらい、父親がしばしば夜中にねっころがって仕事しながらチキンラーメンを食べていたことから、記憶に刷り込まれ、一種のチキンラーメン中毒になってしまいました。ときどきむしょうにこのラーメンを食べたくて仕方なくなるのですね。 もちろん父がこればかり食べていたわけではなく、4世代が食卓を囲んで夕食というのが基本的な我が家の食事スタイルでしたから、このようによい食習慣ももちろん記憶に残っているわけですが。いずれにせよ、食習慣が固定するまでの健康教育としての食育にはおおきな意義があると思います。 ○中学校の出前授業で感じたこと 先日、近郊の中学校で生活習慣病の講義を中学生におこなってほしいという依頼があり、でかけていきました。保健体育のテキストの中には、思っていたよりも肥満、糖尿病のことについての詳細な記載がありました。 しかし、実際に糖尿病で苦しんでいる人をみたことがない中学生に、病気の怖さを伝えるのは難しいなと思っていました。どうすれば、生活習慣病の怖さを伝えられるのか。迷ったすえに、あえて糖尿病が進行した場合の合併症である、網膜症・足壊疽などの写真(かなりショッキングなものです)、実際に経験した糖尿病症例についての事例を授業に盛り込みました。後のアンケート結果では、生徒自身は、授業内容をわりと真剣にうけとめてくれたようです。 ただ、いっぽうで感じたことは、私たちは病院の中で糖尿病など生活習慣病患者の対応に追われています。そういった目で学校での教育を考えたときに、食育が病気というのに限定されたものになっては、逆につまらないなと感じます。 糖尿病はある意味で生活習慣病の究極の姿ですが、その基盤となっている食生活というものは、もっと広く深い意味をもっているはずです。 ○食生活の広い意味 昨年8月に鳥取県であった食育セミナーに参加して感じたのは、学校が生産者と生徒とがいっしょに水田に入ったり、できあがった野菜をいっしょに料理したり、野菜作りの苦労話をきいたりと、さまざまな角度の取り組みをしている点でした。 食事というものに含まれている社会や地域、科学などが、食事という窓を通して理解されていくことは、たいへんすばらしいと思います。 糖尿病指導をしていて痛切に感じることのひとつに、「食べること」イコール「栄養摂取」、ではないという点です。 仕事や家庭のストレスが高じて、どうしてもケーキをたべないと満足できない女性、晩酌が唯一の楽しみだという糖尿病のおじいさん、テレビをみて糖尿病にきくという高価な黒酢や海洋深層水を購入しているおばさん、このような人に、「栄養摂取」としての「正しい」食事指導だけをして、はたして効果があるのでしょうか。 「食べる」ということは、生活のなかでの楽しみであり、団欒であり、コミュニケーションであり、文化であり、さまざまな意味あいが含まれていると思います。そのような認識にたった上での、「食事指導」でなければ意味がないのではないでしょうか。中学生に生活習慣病の話をしながら、そんなことを考えていました。 ○食育と日本人の食 生活習慣病の低年齢化という問題は、児童・学童の食習慣が時代の影響でおおきく変化したという背景があります。もっとも問題なのは、肥満・糖尿病をきたす食習慣が小さい頃から根付き、40−50代になってから体質的なリスクのある人たちに病気が発症し、いずれは心筋梗塞などの心血管疾患にたおれるという点です。 さらに次世代の子供たちにも同じ問題がつきまといます。正しく適切な食というものが理解できない両親に育てられた子供たちはどんなことになるのでしょうか。病気がふえるという問題だけでなく、箸の使い方がわからない、肘をつきながらごはんをたべる、たべものを平気で残す、など枚挙にいとまがないほどです。 きちんと3食をたべて、むやみに間食をしない、家族とコミュニケーションすることが食である、といったような、地味ですがきわめて大切な食の基盤を作れるか作れないか、これは生活習慣病という病気から離れて、もっと大きな「日本人の食」というテーマにつながる大きな問題なのではないでしょうか。 |
| 谷口晋一先生のプロフィール |
| 昭和60年 鳥取大学医学部卒業 昭和60年 鳥取大学医学部第一内科(現在の病態情報内科学 内分泌代謝内科)に所属 以後、大学病院、近郊の総合病院にて臨床研修おこない、 昭和62年より、内分泌代謝学を専攻して臨床・研究活動をつづける 平成3年 熊本大学医学部遺伝医学研究所 留学 平成6−8年 米国国立衛生研究所(National Institutes of Health) 留学 平成15年より 鳥取大学医学部講師 糖尿病をはじめとした生活習慣病の予防と管理について、基礎的、臨床的な面からアプローチをつづけている。 専門 内分泌代謝学 所属学会 日本内科学会、日本内分泌学会、日本糖尿病学会、日本甲状腺学会、米国糖尿病学会、米国甲状腺学会 専門医 日本内科学会認定医・専門医 日本内分泌学会認定内分泌代謝専門医・指導医 日本甲状腺学会認定専門医 |
| Special トップへ |
| トップページへもどる | |
| Copyright(C) ほねぶとネット All right reserved. | |