スポーツの目から
先回に引き続き、 “那須高原クロススポーツクラブ”会報誌より、「村上コージのトライアス論」を紹介します。
スポーツジュニアたちに向けての熱いメッセージのなかに、ポジティブな生き方を応援する「ことば」がいっぱいです。
       まず大切なのは「心」を育てること   2001.7.1 
那須高原クロススポーツクラブ代表 村上晃史
村上コージのトライアス論 ◆スペシャルトーク
  
「那須高原クロススポーツクラブ」会報誌 2000.10 より
 この世界で8年も暮らしていると、トライアスロンのレースを見て感動することが少なくなる。学生時代このスポーツを始めた頃はレース会場に行くだけで興奮しトップ選手の走る姿に感動した。
 今は同じ情熱でレースを見ているのだが、どうしてもコーチという職業柄か、動きを分析し、レース展開を考えることばかりに集中してしまう。あの選手動きがいいとか、ランで誰が出るとか、タイム差がどれくらいなんてことばかり。

 しかし8月に行われた、スプリント日本選手権では久々トライアスロンでものすごい感動を味わった。それは一人の高校生選手のガンバリだった。彼の名前は平野司君。大阪の東豊中高校2年生。
 水泳部に所属する彼は、2年連続で水泳のインターハイに出場。インターハイではそれほど活躍することは出来なかったが、彼はトライアスロンで世界を目指すために水泳をやっているのだ。

 中学生の頃から私は彼を知っていて、ジュニアキャンプなどで多少のアドバイスもしている選手だが、とにかく志が高い。昨年の秋のジュニアキャンプでは私を捕まえて、真顔でトライアスロンの世界チャンピオンになりたいので、そのためにはジュニアのうちに世界Jrチャンピオンになっておいた方がいいですかね?なんて聞いてくる。

 そんな彼が、8月の日本スプリント選手権にいよいよ出場してきた。スイムから山本淳一、斎藤大輝、竹内鉄平などワールドカップ選手をブッチギル。ここまではさすがだな―、と見ていた。
 その後山本淳一が後ろから単独で抜け出し、平野に追いつき2人の逃げが決まった。凄い!平野ついていってる。バイクで頑張ればランニングは結構いけるので面白いぞと思った。

 しかしバイクフィニッシュ地点に帰ってきたのは、単独の山本淳一のみ。やはりちぎれたか、でも次の集団で来ればまだまだ面白いぞと思って待つが、山本を追う有力選手集団にも入っていない。
 疲れてドンドン落ちたかと思い、2つ、3つと集団がランに入っていくのをチェックするがまだ来ない。ここまで遅いとおかしい。これはバイクでメカトラブルでリタイアしたかと考えた。

 選手達がラン5kmを終え、ほとんどの選手がゴールする頃には、私の頭のなかには既に平野君のことはなく、そのうち収容車で帰ってくるだろうぐらいしか思っていなかった。するとバイクコースを素足でバイクを押して走ってくる選手がいる。
 平野だ!凄い根性だとまず思った。しかしその後、度肝を抜かれたのは、ほぼ全員がゴールしているのにも関わらず、当たり前のようにランシューズを履き彼は走り出した。

 その時点で私はものすごい感動に襲われた。興奮した私は彼に夢中で声をかける。『どうせ走るならラントップとれ!』。すると彼は私にガッツポーズを見せ、『ハイ!』と大声で叫ぶと、全力で走り出した。
 結果、彼はラントップ2位で走った。ゴール後に知ったのだが、彼の足の裏は裸足でバイクコースを7kmも走り皮がむけ血だらけだった。総合ではトップから20分遅れのゴールだったが、その先に世界を見ながら走る平野君の気合いと姿勢にものすごく感動した。

 こんな選手がいる限り世界は必ず見えてくる。やはり体より心を作る指導が最も大切だし、その心が出来ている選手からは、今回のように感動をもらえるのだと確信したのだった。みなさんも【平野 司】という名前を覚えておきましょう。
村上晃史氏のプロフィール
むらかみこうじ (クロストレーニングコーチ,トライアスロン・ナショナルチームコーチ)

順天堂大学体育学部卒業。米国コロラド州ボウルダーでコーチ修行後帰国。
バルセロナオリンピック銀メダリスト有森裕子専属トレーナー、順天堂大学トライアスロン部ヘッドコーチ、日本ナショナルチームヘッドコーチを経て、現在数々のトップアスリートのコーチングを行う傍ら、ジュニアから一般のスポーツ愛好者への指導も行う。那須高原クロススポーツクラブ代表、日本トライアスロン連合ナショナルチームジュニア担当。
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