| 若き研究者から |
| 平成19年度実践総合農学会第3回シンポジウムが開催されました(2007.7.28)。 テーマは「わが国の食料自給を高める方法はあるか−その基本理念とシナリオ−」。 基調報告の中から「消費者は本当に国産を求めているか?」〜食育は消費者を変えていく!〜 上岡美保先生のお話をシリーズで紹介します。 |
| 消費者は本当に国産を求めているか?(その3) 2008.3.1 |
| 東京農業大学国際食料情報学部講師 上岡美保 |
| ・・・『平成19年度 実践総合農学会 第3回シンポジウム』報告要旨集より・・・ |
| 4.食料自給率を上げるために 前述では、@食料ロスをなくすことで分母を下げ、A消費構造を輸入消費から国産消費へと消費者の国産志向を高めることで、国内生産を誘発し、国内生産量である分母を高めるというシナリオを提示した。 しかし、二極分化した消費選択の状況下において、今後どのようにすれば食料自給率が高まるのであろうか。それには、次の2点が考えられる。 まず第1に、食品産業部門の原料調達構造の変化である。中食・外食部門においても、生鮮農水産物の大口需要者であるという点では、重要な消費者であり、食品産業部門の原料調達構造も食料自給率に重要な意味を持つことになる。第2に、消費者の食や農に対するさらなる意識向上である。 まず、1点目の食品産業部門の原料調達構造の変化に向けて考えてみる。 近年の研究成果から加工食品原料の消費者評価をみると、農産物の産地に関する消費者評価と同様に、加工食品の原料としても消費者は外国産よりも国産を高く評価する傾向がみられる。 また、外食関係企業41社に対する「国産野菜の使用に関するアンケート調査」結果(外食産業総合調査研究センター調査2003年)についてみる。 品質面や海外での生産がないなどの理由で「国産野菜でなければ使いにくい野菜」については、「ある」(54%)、「ない」(46%)という結果であり、半数以上の企業が、国産野菜でなければ使いにくい野菜があると感じていた。 しかしその一方で、生産時期の関係等の理由から「輸入品を使わざるをえない野菜の有無」については「ある」(48.8%)、「ない」(39%)となっており、輸入野菜を使わざるを得ないと考える企業が圧倒的に多くなっていた。 そこで、「国産野菜の新たな使用量増加に際して重視する要素」についてみると、「価格の低下」(73.2%)、「安全・安心の食材としての信頼性の強化」(68.3%)、「安定的な数量確保についての信頼感の確保」(58.5%)の3項目が5割以上の回答があった項目であった。 外食産業において、今後国産農産物の使用を増加するためには、「価格の低下」、「安定した数量確保」であるという結果であった。 しかし、「国産野菜を使用する主な理由」に注目してみると、13項目中特に高い回答割合のあった項目は、「鮮度がいい」(63.4%)、「安全安心な食材と感じる」(58.5%)、「味が良い」(46.3%)、「旬の時期だと価格が安い」(46.3%)となっており、ここで注目すべき点は、価格の低下や数量の確保が国産農産物の利用増加の重大な要因としていながら、旬の時期であれば価格が安いと評価しているという点である。 外食産業においては、旬を重視したメニュー開発によって、国産農産物の使用を増やすことができると考えられる。 以上のように、食品製造業や外食産業部門においても、国産原料であることが差別化の1つとしての利用や安全安心をアピールできるのではないだろうか。食品産業部門における国産農水畜産物の利用増加によって、食料自給率の向上につなげることができると考えられる。 次に、2点目の消費者のさらなる意識向上に向けて考える。ここで強調したいのは、「食育の重要性」である。 ここでは、福島県会津坂下町の調査結果を例に、食育によって食料自給率が向上するのかについて検討する(上岡美保「わが国の食生活の現状と食育の意義に関する研究」『農林業問題研究』2006年)。 有効な食育が行われた場合に期待できる効果に関する項目についての5段階評価のデータを利用し、因子分析を用いて、有効な食育が行われた場合に期待される潜在的特徴について分析したところ (因子分析とは、多数の観測データがある場合に、観測データの裏にひそむ本質的な要因(因子)つまりは特徴を探り出す手法である) 有効な食育実践の効果として期待される潜在的特徴には、3つの因子によって説明されることが明らかとなった。 第1因子は「日本農業回復への期待」、第2因子は「疾病減少に対する期待」、第3因子は「健全な心身育成への期待」と解釈することができる。 特に、因子の寄与率をみると、第1因子から第3因子までに順に54.3%、8.4%、7.1%となっており、食育を行うことによる栄養や健康に対する直接的な効果への期待を示す第2因子、第3因子よりも、「日本農業回復への期待」を示す第1因子が特に大きくなっている。 このことからも、有効な食育を実践することによって、国民の期待は、単に栄養改善や食生活改善といった直接的な効果のみを期待するのではなく、日本農業の回復に対する期待も大きいことが裏付けられた結果となった。 以上のように、食・農に対する消費者意識が高まることで、日本農業が回復し、ひいては、食料自給率向上にもつながることが期待されるのである。 5.おわりに 本報告では、食料自給率向上の1シナリオについて考えてきた。食料自給率の分母の問題である食料ロスや輸入消費から国産消費への転換は、食育による消費者意識の向上で可能となることが期待できる。 また、食品産業においては、発想の転換によって、原料調達構造を輸入消費から国産消費へとシフトすることも可能であろう。 こうした消費者の輸入消費から国産消費への転換によって、国産農産物の消費増加につながり、そのことが国内生産の活性化につながるというシナリオが実現不可能ではないと期待される。 食料自給率の分母の減少と分子の増大、つまり、食料自給率向上の可能性は、消費者の意識改革によって実現可能となるだろう。もちろん、そのためには、国民全ての個々の努力が必要であることはいうまでもない。 「食育基本法」が制定され、各地で食育の推進が広まりつつあるが、それによって、日本の自給率問題をはじめ、食をめぐる問題が少しでも解決することを期待したい。 参考文献 [1]Yoshida.K and H.Peterson(2003)Estimating the Consumer Response toward the Country ?of Origin Labeling and Food Safety of Imported Rice『2003年度日本農業経済学会論文集』 [2]合崎英男・岩本博幸(2004)「選択実験による生鮮野菜のトレーサビリティ機能の消費者評価」『食品安全性の経済評価』農林統計協会 [3]合崎英男他(2004)「BSEと食品安全性に関する消費者の知識と態度および牛肉選択行動の統合分析」『食品安全性の経済評価』農林統計協会 [4]岩本博幸他(2004)「牛肉のトレーサビリティに対する消費者評価」『食品安全性の経済評価』農林統計協会 [5]大浦裕二他(2002)「選択型コンジョイント分析による青果物産地のブランド力の推定」『農業経営研究』第40巻1号 [6]上岡美保(2002)「若年齢消費者の食品安全性に対する意識と食品の品質表示に対する購買行動に関する分析」『農村研究』第95号 [7]上岡美保(2006)「わが国の食生活の現状と食育の意義に関する研究」『農林業問題研究』第42巻第3号 [8]下山禎他(2002)「イチゴに対する消費者ニーズの解明」『農業経営通信』214 [9]下山禎他・谷口義則(2003)「多項ロジット・モデルを利用したコンジョイント分析」『農業経営通信』218 |
| シリーズ終了です。 このシリーズは上岡美保先生の了解をいただき掲載しました。 |
| 上岡美保先生のプロフィール |
| かみおか みほ 1973年生まれ。香川県出身。東京農業大学博士後期課程修了 博士(農業経済学)。東京農業大学講師。専門領域は、食料需給の経済分析、食育に関する研究など。主な著書に、農業政策研究会編『国境措置と日本農業』農林統計協会2000年(共著)、慶和邦昭編著『食と環境』東京農大出版買い2005年(共著)、谷野陽編集担当『2010年の食生活−専門家による予測−』農林統計協会2003年(共著)、『スーパーの生鮮食品がお店に並ぶまで図鑑』自由国民社(共著) |
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