
| ケイソウ土の電子顕微鏡写真 |
概 要 |
| 珪藻土は珪藻とよばれる藻類の化石である.珪藻は約数10μmの大きさの単細胞植物であり,水中のシリカを特異的に取り込み,多孔質の細胞壁をつくる.珪藻が大量に増殖,死滅,そして沈積し,永い年月を経て珪殻とよばれるシリカ質の遺骸のみを残し,その堆積物である珪藻土鉱床が形成された. 珪藻土の特性はもとの珪藻の独特な形状と化学的安定性とに由来するものであり,切り出されたブロック,乾燥粉末,精製粉末などさまざまな形態のものが非常に広範な分野で利用されてきた.古代ギリシャでは研磨剤や,水に浮く土として軽量レンガに利用され,また,イスタンブールには6世紀に珪藻土で建築された聖ソフィア寺院のドームが残っている.日本では食べられる土として城の内壁材に使用されて籠城に備えられたり,輪島漆器の下塗材として江戸時代より伝統的に用いられている.珪藻土が工業的に利用される契機としてダイナマイトの発明があげられる.1866年にノーベルがニトログリセリンを珪藻土粉末に吸収,保持させることにより,固体として安全に取り扱うことが可能となった.また,ほぼ同年代より液中の懸濁固形分を除去するための濾過助剤として用いられ始めた.その後,製造方法なども改善され,現在では最も優れた濾過助剤として食品工業をはじめ多くの産業で使用されている. |
珪 藻 |
| 珪藻は約15,000種類以上が知られており,大きさは10〜200μm程度まで,形状も球状,円筒状,円盤状,梯子状,羽状,針状とさまざまである.他の藻類と異なり,原形質は非晶質シリカの硬い細胞壁で覆われている.細胞壁には直径0.1〜1μm程度の無数の孔が開いており,この細孔から水中の養分を取り入れる. 珪藻が生息する環境は海水域と湖沼などの淡水域とに大別され,また,pH 1〜2の強酸性からpH 11の強アルカリ性水域まで広範囲に渡る.各生息域ごとの環境により優占種が異なることから,法医学的な見地から鑑識などに利用されたり,最近は環境アセスメントの分野においてその指標ともなっている1). |
地質と分布 |
| 海底や湖底に沈積した珪藻は永い年月をかけて有機質が分解され,非晶質シリカを成分とする珪殻の集合層となる.これが地殻変動により隆起して現在の珪藻土鉱床が形成された.世界の主要な鉱床と国内の鉱床とを,それぞれ図1と図2とに示す. 日本における海成層珪藻土の分布は,新生代第三紀の中新世(約1,000万年前)の日本海側を中心とした北海道(稚内地区)〜秋田(男鹿半島,鷹巣地区,大曲−横手地区)〜能登半島〜隠岐島〜壱岐にかけての,いわゆるグリーンタフ火山活動地域と重なり5),深い関係があったことを窺わせる.また,海洋における純度の高い珪藻土の堆積条件として,陸地から流入する不純物を堰き止めるための高まりもしくは海溝等の地形が陸地と堆積地との間に存在していること,および,一部の放散虫や有孔虫など石灰質の殻を持つ他の生物との篩い分けとして,石灰質遺骸が海水に溶解して珪質遺骸のみ残るとされる炭酸塩補償深度(約4 km)が必要となる.さらに,米国カリフォルニア州のロンポック鉱床の成因は,太平洋の海底を東に流れる栄養塩類を多量に含む底層流が,米国西海岸沿岸域で上層に上昇することにより珪藻類の生産を高めていることに無縁ではない6). 湖成層の場合は,淡水成鉱床(岡山県八束,大分県庄内,九重など)のほとんどが,火山による堰止め湖に堆積したもので,地質年代的には八束が更新世中後期(約15万年前)7),大分の両鉱床は更新世中期(約30万年前)8)の比較的新しい鉱床である.なお,淡水成鉱床の場合,水温の影響を受けて1年の間に優占種が入れ替わるため,年輪状の葉理が発達することが多い.また,海外の例では,インドネシアのトバ湖の鉱床はカルデラ湖,アイスランドのミーバトン湖および中国吉林省臨江地区の鉱床は火山に関わる堰止め湖に堆積したもので,海水成鉱床と同じく火山に関連する鉱床が多い. |
採掘と精製 |
| 珪藻土は堆積年代や表土の厚さ等の賦存環境により物性が大きく異なり,年代が古いものは泥岩状,新しいものは土壌状となっている.したがって,1985年頃までは,前者はつるはしで後者はスコップで採掘され,表土が厚い鉱区では坑道堀が行われていた.しかし,最近はどちらもパワーショベルなどの採掘機器を用いた露天掘が行われている. 海外では,珪藻土層上に溶岩が厚く載る中国の臨江(長白山)地区の鉱床や,チリなどで坑道堀が行われている.また,アイスランドのミーバトン湖では湖底の珪藻土(泥)がポンプで浚渫されている.いずれの採掘法にしても,多孔質な珪藻土は50〜80%の水分を含んでいるため,長距離の搬送はコストを上げる.このため,珪藻土の精製プラントは鉱区に隣接しているケースが多い. 一般的な精製工程を図3に示す.工場に搬入された原鉱は粗砕され,フラッシュドライヤなどにより熱風乾燥が行われる.引き続き,細かく粉砕された後,エアセパレータなどにより分級される.この段階で砂石などの夾雑物が分離され,水分が数%の粉末状の乾燥品が得られる.色調は原鉱の色を反映して灰黄色から暗緑色まで,明度もさまざまである. 純度の高い乾燥品に対しては,さらに精製度を上げるため,ロータリーキルンを用いた焼成処理が行われる.1,000〜1,100℃程度の熱負荷により,乾燥品に含まれていた水分や有機物は除去され,非晶質シリカの一部はクリストバライト化し,化学的安定度の増した,精密濾過に適した焼成品が得られる.珪殻表面の微量の鉄分も安定な酸化鉄となるため,焼成品の色調は一般にサーモンピンクである.また,乾燥品にソーダ灰などを添加して焼成すると,珪殻が凝集した2次粒子よりなる,高速濾過に適した白色の融剤焼成品が得られる.キルンから排出されたクリンカーは,珪殻が緩く凝集しており,珪殻自体を破壊しないように解砕される.引き続き,空気分級,解砕,捕集の各工程を経て,粗いものから細かいものまで,それぞれ粒度の揃った製品として包装される. |
物 性 |
| 珪藻土粉末製品は表1に示すように,製造区分ごとに3種類に大別される. 珪殻の多孔性と独特の形状とにより,いずれも極めて嵩高い粉体である.原料や製造条件により粒度は異なるが,一般に乾燥品が最も細かく,焼成による凝集が著しい融剤焼成品が最も粗い.また,比表面積は精製度を高めるにつれて低下してゆく.珪殻の細孔は比較的マクロな孔であり,活性炭やゼオライトのような吸着性はない. 一般に採掘される珪藻土はその80〜90%がシリカより成る.純粋な珪殻の成分がシリカのみであることから,アルミナは不純物としての粘土に由来するものと考えられる.可溶成分は極めて少なく,このため食品添加物(加工助剤)としても認可されている. |
用 途 |
| 珪藻土はその品位に応じてさまざまな用途を見出している.不純物の少ないものは,精製・加工度を高めて,濾過助剤,フィラー,担体などに利用される.これら珪藻土製品の一例を表2に示す.また,粘土などの夾雑物を多く含むものは,その分離が困難なため,建築材料,断熱レンガ,土壌改良材などに用いられる. (1)濾過助剤 精製された珪藻土の最大の用途は濾過助剤である.濁度の高い原液から懸濁固形分を分離して清澄な濾液を得る濾過操作において,濾過抵抗を低下させて寿命を延ばす濾過助剤は,コスト低減の最も有効な手段である. 濾過助剤には「プリコート」と「ボディフィード」とよばれる二つの使用方法がある. 濾過操作の前に,助剤を清澄な液体に分散し,これを循環して,スクリーンなどの濾材表面に助剤の層を形成させる.これはプリコートとよばれ,懸濁固形分が濾材に直接付着して汚染することを防ぎ,また,濾液の清澄度は向上する. 原液に助剤を添加,分散して濾過すると,形成されるケークは,懸濁固形分と助剤とが混在した,空隙率が高く,濾過抵抗の少ないものとなる.この操作はボディフィードとよばれる. 粒子径の細かいグレードを用いると,濾過速度は遅いが,懸濁固形分の捕捉が極めて良好で濾液の清澄度が高い.一方,粗いグレードの場合は,濾液の清澄度はあまり高くないが,速い濾過速度が得られる. 珪藻土は,競合品であるパーライト濾過助剤よりも優れた特性を持ち,透過(捕捉)性能もバラエティに富むことから,広範な分野で利用されている. (2)フィラー 塗料工業では主に装飾用塗料に用いられる.これは塗料表面の粗度を上げて光沢を減じるツヤ消し作用によるものである.また,表面粗度が増すと,上塗りへの噛み付きが良好となり接着強度が増すためプライマーにも配合される.国内では,漆器の下塗粉11)として用いられてきた.多量の漆液を吸収できるため,塗膜厚みが増し堅牢性が高まるためである. プラスチックシートやフィルムは熱いうちにブローされると,表面同士が付着,固化する.珪藻土をフィルムに添加することにより,分離が容易となるアンチブロッキング効果が得られる. 耐熱・耐候性に優れたシリコーンゴムには補強作用のある合成シリカのほか,準補強剤もしくは増量剤として珪藻土が用いられる.また,Oリングやパッキンにも硬度調整や耐摩耗性の向上のために添加される. 紙に配合すると,インクの吸収性,乾燥性,および発色性に優れ,しかも耐傷性,耐摩耗性が良好となる.自動車のクラッチ板には対向板との摩擦力を高めるために配合される.また,バッテリーには液中で極板相互のショートを防ぎ,しかも充・放電時のイオンを通すセパレータが不可欠で,ここにも配合されている. (3)建材・保温材 珪藻土をシリカ源として合成されるケイ酸カルシウム板(ケイカルボード)は,耐火・断熱・遮音性に優れ,また軽量なため施工時の作業性も良好である. 純度の低い珪藻土を,そのままあるいは粘土を配合して混練,成形後,900〜1,200℃程度で焼成した耐火断熱レンガはJISにも規定され,工業窯炉の材料として使用されてきた.また,この種の珪藻土は家庭用コンロの原料としても永い年月に渡り利用され続けている. (4)研磨剤 珪藻土はソフトな研磨剤としてカーワックスに使用される.これは,珪藻土の大きな表面粗度と,使用中に珪殻が壊れて細かい破片となることとが研磨効果を高めるためである.また,乾燥品はさらに柔らかいことから銀や真鍮のツヤ出し剤として配合される. (5)担体 珪藻土はさまざまな活性成分や溶解剤の機能を効果的に発現する担体として使用される. 1930年代に珪藻土がFischer-Tropsch合成触媒の担体として使用された.珪殻自体のメゾ細孔と成形された触媒中のマクロ細孔とにより構成される細孔分布が反応促進に効果的であると考えられている12).水素化プロセスで最もよく使用されているのはニッケル珪藻土触媒13)で,分散性や反応生成物との分離(濾過)性に優れている.無機化学では,珪藻土に酸化バナジウムを担持した触媒が硫酸製造に使用されている14). ガスクロマトグラフの担体には,特に精製度の高い珪藻土が用いられる.精製珪藻土の表面には活性なサイトが残っているため,検出ピークにテーリングを生じやすい.このため,担体を酸処理した後にシリル化剤による不活性化処理が行われる. 農薬(水和粉剤)には植物保護剤,界面活性剤などが配合され,薬剤の凝集固化を防ぎ,流動化を促し,分散性を向上させる担体として使用される. 醸造・醗酵工業では,酵素や微生物などを利用した反応の多くがバッチ処理方式で実施されてきた.この生体触媒を固定化すれば,反復使用や連続処理が可能となり,生産性向上,コスト低減に大きく寄与する.珪藻土は表面粗度が大きく,微生物の付着が容易で,その細孔径が酵素の固定化と反応性の向上とに適している.特に,固定化が容易な微水系で,リパーゼを用いたエステル交換反応15)に利用されている. (6)吸収材・土壌改良材 珪藻土は吸液性が高く,各種液体の吸収材として利用される.ペットの排泄物を吸収させたり,床にこぼれ落ちた油や事故により流出した有害物質などを吸収するために散布される. 国内では粒状珪藻土が土壌改良材としても利用される.粒内部に水分や肥料成分を吸収保持し,かつ粒相互の間隙が大きいため通気性が良好である. |
参考文献 |
| 1)真山茂樹;珪藻の話,水,35-5,(1993),59-66. 2)Lloyd E. Antonides;DIATOMITE, Minerals Yearbook,(1998), U.S. Geological Survey. 3)Karen Harries-Rees;Diatomite , Industrial Minerals , 319 , (1994), 31-43. 4)Haruo OKUNO;ATLAS OF FOSSIL DIATOMS FROM JAPANESE DIATOMITE DEPOSITS, (1952), 50-51 , Botanical Institute, Faculty of Textile Fibers, Kyoto University of Industrial Arts and Textile Fibers. 5)大久保雅弘,藤田至則;新版地学ハンドブック, (1984),24-33,築地書館. 6)小泉格;海底に探る地球の歴史,(1980),1-14,東京大学出版会. 7)石原与四郎,宮田雄一郎;中期更新統蒜山原層(岡山県)の湖成縞状珪藻土層に見られる周期変動,地質学雑誌,105-7,(1999),461-472. 8)岩内明子,長谷義隆;九州後期新生代火山活動,地団研専報,33,(1987),149-159. 9)Lloyd E. Antonides;Mineral Commodity Summaries, (1999), 61, U.S. Geological Survey. 10)昭和化学工業潟Jタログ,(1998). 11)奧野春男;輪島市史資料編,6 ,(1973) ,725-782. 12)乾 智行;触媒担体としてのセラミックス,セラミックス,15-5, (1980),324-330. 13)中森一義;銅,ニッケル触媒,触媒,23-2, (1981) ,145-148. 14)東洋シーシーアイ ほか;新時代を切り拓く触媒工業,JETI,43-5,(1995) ,45. 15)T. Yamane et al;Intermolecular Esterification by Lipase Powder in Microaqueous Benzene, Biotechnol. Bioeng., 36, (1990), 1063-1069. |
![]() メール |
![]() トップ |
