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登記識別情報の提供がない場合の本人確認手続
概要

旧法では、登記済証が滅失した場合には保証書及び事前通知の制度(旧法第四四条、第四四条ノ二)によることとされていたが、新法では、保証書制度を廃止し、事前通知手続を改善した上で、登記識別情報の提供がない場合には、事前通知手続により本人確認をすることを原則とし、事前通知に代わる本人確認手段として、登記の申請の代理を業とすることができる代理人(以下「資格者代理人」という。)による本人確認情報の提供等を制度化した

 新たな事前通知手続(第二三条)
第二三条第一項及び第二項に規定する事前通知手続は、旧法の事前通知制度と比べ、次の点で相違がある。

第一に、旧法の事前通知は、所有権に関する登記の場合に限られていたが、新法の事前通知は、所有権に関する登記の場合に限られない。したがって、旧法の下では、事後通知がされていた抵当権抹消の登記等も、新法の下では事前通知の対象となる。これは、保証書を廃止し、登記識別情報の提供がない場合の本人確認手段を事前通知手続に一本化した結果である。ただし、後述する資格者代理人の本人確認情報の提供制度等を利用したときは、事前通知を省略することができることになる。

第二に、旧法の事前通知は、普通郵便で行っていたが、新法の事前通知制度では、法務省令で定めるところにより、本人限定受取郵便等これまでより確実性の高い方法を用いることとする予定である。
第三に、旧法の事前通知は、申請書に記載された登記義務者の住所に対し行うだけであるが、新法の事前通知制度では、所有権に関する登記については、登記簿上の過去の住所にも通知することが原則となる。
第四に、旧法の事前通知は、保証書の提出による申請があった場合に併せて行う制度であるが、新法においては保証書を廃止するとともに、かつ、資格者代理人の適切な本人確認情報の提供があったときは、事前通知を省略することができることとしている。
第五に、旧法の事前通知が行われる場合の受付の順位は、通知に対し間違いない旨の申出があった時点で決まった(旧法第四四条ノ二第二項)が、新法の事前通知制度では、申請時に受付がされることになる。これは、登記の申請は、本来、その申請がされた時点で受付をして順位を確保するのが原則であり、登記識別情報の提供がない申請の場合であっても、登記の申請がされたことに変わりはなく、本人確認手続が異なるだけなのであるから、申請時に順位を確保するという原則を変更する理由はないからである。

第二三条第一項の事前通知
登記識別情報の提供をすべき登記の申請において、これを提供することができない正当な理由があるときは、規定により、登記義務者(政令で定める登記の申請にあっては、登記名義人を指す。第二二条参照)に対し、申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると考えるときは、法務省令で定める期間内にその旨の申出をすべき旨を通知をすることになる。その基本的な構造は、旧法の事前通知と同じである。通知に対する申出が期間内にされないときは、申請が却下されることも旧法と同様である。通知の方法は、法務省令で定めることになるが、旧法の事前通知制度とは異なり、本人確認をしてから配達することが保障されているような通知方法(「本人限定受取郵便」等)を原則として利用することが予定されている。もっとも、登記義務者が外国に居住しているような場合には、現行制度と同様、外国の住所にあてて通知書を発送することになると思われるが、この場合には、必ずしも我が国内における通知の場合と同様の方法を利用することができないこともあり得る。また、法人が登記義務者である場合における代表者への通知方法についても、本人限定受取郵便によることが現実的ではない場合も考えられるであろう。第二三条第一項の通知は、オンライン申請がされたときも、書面で行うことになる。これは、この制度は、登記義務者が現に居住している場所にあてて通知をすることにより、本人が申請行為をしていることを確認するための手続であり、オンラインで通知をしたときは、当該通知はどの場所でも受け取ることが可能であるから、この制度の意味がなくなるからである

通知に対する申出方法と申出者の確認(第二三条)
通知に対する申出の方法も、法務省令で具体化されることが予定されている。前述したとおり、通知自体は、常に書面で行われることになるが、オンライン申請がされた場合には、通知に対する申出を、オンラインで行うことを認めることが考えられる。例えば、通知を受け取った者がオンライン申請をした者であるときは、通知に対する申出であるかを手続上明らかにするため、申出の際、通知書に記載された照会番号を特定した上、オンライン申請に用いた電子署名と同じ電子署名を付して登記所に対する申出をすることとすれば、申請行為をした者が登記義務者本人であることを確認することができるからである。また、書面による申請がされたときは、申出は、書面で行い、申出書の印鑑と申請書の印鑑との同一性を確認する方法により、同一性を確認するのが原則になると思われる。
なお、申請時から申出までに電子証明書の有効期間が経過したり、印鑑を紛失したような事情により、上記の方法で同一性を確認することができないときは、別途申出時に本人であることを証明する資料の提供等を求めるほか、疑わしい事情があるときは、登記官の本人確認権限を行使して、本人確認をすることになろう。

前任所に対する通知(第二三条第二項)
第二三条第二項は、新設規定である。成りすましによる不正な登記単請の1つのパターンとして、保証書により申請した上、登記所からの事前通知が真の登記名義人に通知されることがないよう、登記の申請に先立って、登記簿上の住所を移転し、移転先の住所で通知を受領するというタイプのものがある。このようなタイプの不正事件を防止するため、所有権に関する登記については、原則として、登記名義人の過去の登記記録上の住所にも通知をすることとしたものである。「法務省令で定める場合」を除くのは、例えば、住所変更の登記の時期が相当程度古く不正登記のおそれがない場合等や、資格者代理人の本人確認情報の内容から判断して、明らかに成りすましのおそれがないと認められるような場合にまで、一律に過去の登記記録上の住所に通知する必要はないので、制度に柔軟性を持たせるためである。通知の方法についても、法務省令で具体化されることになるが、転居届が出されていても転送されないような措置を講じて(例えば、「転送不要」と明記する。登記名義人が居住していなければ、登記所に通知は返送されることになるので、登記官において成りすましの可能性の有無を判断するための資料となる。)。

資格者代理人による本人確認情報提供制度の趣旨
 この制度は、第二三条第四項第二号により新設されたものであり、登記識別情報の提供をすることができない正当な理由がある場合において、資格者代理人による本人確認情報の提供があり、かつ、登記官が、その内容が相当であると認めたときは、事前通知を省略することができるというものである。登記申請は、その大部分が司法書士や土地家屋調査士等の資格者が代理して行っているのが実態である。また、これらの資格者が登記の申請に関与するときは、公正誠実に業務を行うべきであり、申請人を代理して申請するときは、職務上、真実に反する登記申請を代理して行わないよう注意する立場にあるはずである。これまで不動産登記法の中にこのような資格者の行為に特別の効果を認めた規定はなかった。
しかし、比較法的にみて、我が国の登記制度は、登記官の審査がいわゆる形式的審査にとどまり、登記原因や登記申請意思の確認について、専門法律職の関与が制度的に保障される構造になっていないため表記の真正を担保する機能が弱いとの指摘がある。これを踏まえるならば、登記制度の在り方として、資格者が代理して申請している場合は、真実性を担保するための権限と責任が資格者にあることを前提にした登記手続のパターンを認める十分合理性があると考えられる。そこで、新法においては、本人確認の問題について、登記識別情報の提供に代わる効果を資格者代理人による本人確認情報に認めることとしたものである。この本人確認情報の提供に効果が認められるのは、資格者が現に申請人を代理して申請する場合に限られ、単に資格者であるというだけで、代理人でない者には認められない。この制度は、申請代理行為とは無関係に資格者が行った確認行為に公証カを認めたものではないからである。