個人民事再生
1 はじめに
(1)「個人債務者再生とは」
個人債務者再生手続の創設
平成12年の改正によって,通常の民事再生手続の特則として@小規模個人再生に関する特則A給与所得者等再生に関する特則B住宅資金貸付債権に関する特則を設けました。
これにより,従来の自己破産,特定調停,任意整理しかなかった債務整理の方法に一つメニューが加わったことになります。
(2)「平成13年4月1日施行当時の法制の問題点」
経済的に破綻に陥った個人債務者が生活を再建するための法的倒産処理手続には,破産法上の破産免責手続,一般民事再生手続がありましたが,これらには次のような問題点がありました。
@ 破産免責手続
個人債務者にとって全財産の清算が行われる結果,自宅を保持することができない,専門資格や取締役の資格喪失,破産者という烙印を押されるため勤務先に知れると事実上の解雇となってしまう場合もありえるという社会的不利益が不都合としてありました。
また,債権者にとっても債務者の多くは配当原資となる財産を有していないため債権回収が事実上0円という問題点も指摘されていました。
A 民事再生(一般)手続
これは,個人再生よりも1年程度前に成立したものですが,この手続は,法人・個人・事業者・非事業者を問わない再建型倒産処理手続であり,債権者の利益を保護しつつ,債務者の再建をしやすくしたものとなっていますが,主に中小企業以上の規模の事業者を念頭に構想されたものであるため個人債務者にとっては手続の負担が重くほとんど利用が困難とされていました。
また,担保権は破産の場合と同様に,別除権(53条)とされているため,住宅ローンを抱えた個人債務者にとっては自宅を保持できないという問題点もありました。
B 実務上の問題点
次に実務上は,特定調停や任意整理によって多重債務者の再生を図ることも多く行われてきましたが,これらの手続は債権者との間での個別の合意が必要であり,多重債務者の残元本総額を分割で支払ができる状況になければ,合意は困難でした。また,残元本を分割払いにできる債務者であっても,一部の業者が利息の減免に応じなかったりして,再建を図ることが困難になる場合もありました。
そこで,住宅ローンなどの債務を抱えた多重債務者が,破産せず,自宅を保持しながら再生することができ,かつ,債権者にとっても,債務者が破産したときよりも多くの債権回収を図ることができる新たな倒産処理手続が個人にも必要ということで成立しました。
2 小規模個人再生に関する特則(法第13章第1節)
小規模個人再生手続とは,継続的収入の見込みがある「個人」で,無担保債務総額3000万円以下の者が利用できる個人債務者再生の1つの手続ですが,この申立てができるのは債務者からのみとされています(注:平成17年1月1日より,5000万円まで拡張される)。
申立時には債権者一覧表を作成・提出することを要します(221条3項)が,正確な債権額が不明な債権者については,とりあえずの金額を記載して,この額について異議を述べることがある旨を併記することができます(221条4項)(これを併記しておかないと債権者一覧表に記載した金額について後日異議を述べることができません。226条1項但書)。
費用対効果を勘案して,小規模個人再生の機関としては,通常の民事再生のような監督委員や調査委員は置かれず,代りに個人再生委員が置かれることになりますが,この個人再生委員は,再生債権評価の申立てがあった場合を除き必要的な機関ではなく,裁判所が必要と認めるときに選任されます(223条1項)。
手続開始後,債権者は再生債権を届け出ますが,届ける義務まではなく,債権届出期間内に何も届出をしないと債務者が申立時に提出した債権者一覧表の記載内容で届出をしたものとみなされます(再生債権のみなし届出。225条)。
債務者及び届出再生債権者は,届出再生債権に対して異議を述べることができ(226条),異議を述べられた債権者は異議に納得できない場合は評価の申立てをなし(227条1項。なお有名義債権に対する異議の場合,異議者が評価の申立てをしなければならない同項但書),個人再生委員に調査させた上で裁判所が当該再生債権額を評価します。異議のなかった債権と評価済債権は,手続内で確定します。
再生計画案は,債務者が作成して提出をします。再生計画は,弁済期が3か月に1回以上,原則3年間の弁済をする内容でなければなりません。
提出された再生計画案は,各再生債権者に送られ,書面による決議を受けることになります。議決権を有する債権者の消極的同意,すなわち,不同意と回答した者が頭数で半数未満かつ債権額で2分の1以下により可決とみなされます(230条5項)(消極的同意)。
通常の民事再生手続ですと,議決権者の過半数であって,議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意が必要となります(積極的同意)。
また,再生計画で支払うべき弁済額が弁済の基準となる債権の5分の1又は100万円のうちいずれか多い額(ただし,債権総額が100万円未満の場合はその全額,上限300万円)を下回っていたり,破産の場合における配当額を下回っているときは再生計画は認可されません(231条2項5号,230条2項,174条2項4号,241条2項2号)(注:平成17年1月1日より,5000万円まで拡張される結果,3000万円を超え5000万円以下の場合においては,10分の1を下回ることができない)。
認可決定の確定により手続は終了し,再生計画に基づく履行は,債務者自らが行い裁判所や再生委員がその後も関与することはありません。
3 給与所得者等再生に関する特則(法13章第2節以下)
給与所得者等再生手続とは,小規模個人再生の対象者中「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者で,その額の変動の幅が小さいと見込まれる者」(典型はサラリーマン)が,小規模個人再生とともに自由に選択して利用できる手続ですが,小規模個人再生のさらなる特則として位置づけられております(239条)。
この手続においても裁判所は書面による債権者の意見を聴きますが,それには拘束されず,再生債権者の決議の制度はありません。そして,法定の弁済総額(生活保護基準を参考にして定める生活費及び所得税等を収入から控除した額を可処分所得とし,この可処分所得2年分以上の額)を原則3年で弁済していくことになります(241条2項7号)。
4 住宅資金貸付債権に関する特則(法第10章)
住宅資金貸付債権手続は,住宅ローンの支払対処の制度であり,小規模個人再生,給与所得者等再生だけでなく,通常の民事再生手続を選択した個人も利用できる制度であります。
今までの通常民事再生手続では,前述のとおり,抵当権等の担保権には別除権が与えられ,手続の開始後も自由に担保権を実行することができること(53条)とされており,また,再生計画案が認可されても,その効力は抵当権等の担保権には及ばないこととされております(177条2項)。このため,住宅ローンを抱えた債務者は,再生手続外で住宅ローン債権者の個別の同意を得ない限り担保権の実行を回避することができませんでした。
そこで,住宅資金貸付債権に関する特則において,個人債務者が,生活の基盤である自宅を手放さずに経済的再生を果たすことを可能にするため,特別な扱いをする必要性からこの制度が誕生したのです。
この制度は,再生計画の中に既に弁済期が到来している住宅ローン債権の弁済期について新たに条項を盛り込むことができるようになり,@期限の利益回復型(199条1項(原則型)),すなわち債務不履行部分を再生計画期間内に支払って約定返済に戻るようにするものと,Aリスケジュール型(同条2項(最終弁済期延長型)),すなわち@の原則型で遂行できる見込みがない場合には10年以内で債務者が70歳以内の期限まで弁済期を延長することができる,B(同条3項(元本据置型)),一定期間(一般再生債権の弁済期間)元金の一部を据え置くものやC同意型のものが予定されております。
住宅資金特別条項を設けた再生計画案の決議においては,住宅ローン債権者や保証会社は議決権を有しないものとされており(201条1項),その代わり,裁判所は,住宅ローン債権者の意見を聴取しなければならないとされております(同条2項)。
そして,住宅資金特別条項を定めた再生計画案が無事認可されたときは,その効力は自宅に設定された抵当権等にも及び(203条1項),再生債務者が再生計画に基づく弁済を継続していく限りにおいては自宅に設定されている抵当権等の実行を回避することができるのです。
@ 保証人等への影響
特別条項による権利変更は保証人や物上保証人に対しても効力を及ぼすこととされております。
A 保証会社の代位弁済
住宅ローンは保証会社の保証で組まれている場合も多く,この場合,個人債務者が住宅ローンの支払いを何度か遅滞した場合,保証会社は住宅ローン債権者の求めに応じて保証債務を履行して代位弁済することになります。
この場合に,保証会社が,保証債務を全部履行した日から6か月以内に再生手続の申立てがされたときに限り,住宅資金特別条項を定めることができるとされています(198条2項)。
そして,住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可され確定した場合には,保証債務は最初から履行されなかったものとみなされ(巻き戻し),住宅ローン債権者は元の債権者に復帰し,保証会社が銀行等に支払った金員は保証会社に返還されて元の住宅ローン債権者が引き続き債権者として債権を管理していくことになります(204条)。
5 破産手続きとの関係について
債務者がこれらの手続の申立てをするか,自己破産の申立てをするかの先後関係については法律上の制限はなく,この法律に規定がないのは,何れの手続きも自由に選択できる趣旨になっています。
前述のとおり,個人債務者再生では将来の収入の一部が弁済原資とされ,かつそれは破産の場合の清算価値を下回らないものとされているので,破産免責を受けるほうが債務者にとって有利であるかに見えますが,将来収入の一部を弁済することになってもそれと引換えに破産者となることを免れるメリットもありますし,住宅を手放さないで債務の整理ができるという利点,さらにハードシップ免責の制度もあるので,破産者になると資格を失う債務者や自宅だけは維持したいという債務者にとっては破産手続きよりも利用しやすいといえます。
6 個人債務者再生と,他の手続との違い
(1) 手続選択面における違い
@個人債務者再生と通常の民事再生との関係
個人債務者再生は,通常の民事再生とともに「再生手続」という「再建型の倒産処理手続」の一つとして,民事再生法の一部となります。
これは,開始手続については,共通の手続が用意され,開始決定において「通常の民事再生手続」「小規模個人再生手続」「給与所得者等再生手続」という3つの種類の民事再生手続についていずれかを開始するかが決定されるという構造になっています。
この3つの再生手続に関してその種類の選択は,債務者のみが行えます(221条・239条)。再生債務者が再生手続の開始を申立てた場合には,債務者は開始される再生手続の種類に優先順位をつけることができますが,債務者が手続開始の申立てをした場合には,それに加えて,債務者は開始される再生手続の種類を限定することもできます。
A個人債務者は,その利用資格を充たす限り,小規模個人再生,給与所得者等再生と破産免責のいずれかによるかを選択できます。
これは明文の規定はありませんが,特に制限を設けていないのはその趣旨です。
(2)相違について
@個人債務者再生と通常の民事再生との相違
個人債務者は,通常の民事再生に比べて,いわば個人債務者限定の再建手続といえるもので,利用者を個人の債務者に限定してそれにふさわしいように手続を簡易化・省力化・合理化し費用もかからないようにしたものといえます。
A個人債務者再生と破産手続きとの相違
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小規模個人再生 |
給与所得者等再生 |
通常民事再生 |
破産免責 |
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債権者申立 |
不可 |
不可 |
可 |
可 |
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債権者の計画案提出権 |
なし |
なし |
あり(163条) |
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手続の追行 |
債務者中心 |
債務者中心 |
債務者中心だが原則監督委員の監督あり |
裁判所または破産管財人 |
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要件 |
支払不能のおそれ |
支払不能のおそれ |
支払不能のおそれ等(個人の場合) |
支払不能 |
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債務額の要件 |
住宅ローンを除き3000万円まで |
住宅ローンを除き3000万円まで |
なし |
なし |
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債権者同意の要否 |
債権者の半数以上,債権額の過半数の不同意がないこと |
不要 |
債権者の過半数及び債権額の半数以上の積極的同意 |
不要 |
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資格制限 |
なし |
なし |
なし |
あり |
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再申立て |
可 |
認可から10年間不可 |
可 |
免責確定後10年間は不許可事由 |
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支払に必要性 |
あり |
あり |
あり |
破産宣告時の資産の範囲で有無が決定 |
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手続中の執行 |
不可 |
不可 |
不可 |
管財事件では不可だが同廃は可 |
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自宅の維持 |
可 |
可 |
可 |
不可 |
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確定力・ 執行力 |
なし |
なし |
債権者にあり |
債権者にあり |
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不許可要件 |
なし |
なし |
なし |
限定列挙であり |
【各論】
1 小規模個人再生
(1)特則の概要
小規模個人再生は,将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあり,かつ,再生債権の総額が3000万円(平成17年1月1日より5000万円)を超えない個人債務者が,原則3年間で一定の額を支払えば残額の免除が受けられる制度です(221条1項)。
ア 法人は申立てることができず,個人債務者に限ります。
イ 主に小規模な個人事業主が主体となるが,サラリーマンでも利用は可能です。
ウ 3000万円には,次のものを除いた残額です。
・住宅資金貸付債権の全額
・別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額
・再生手続開始前の罰金,科料,刑事訴訟費用,追徴金,過料
また,利息制限法適用後の残額について判断します。
手続開始後の利息・損害金も除きます。
(事例)
サラ金・・・700万円
信販会社(オートローン)・・・200万円(自動車の時価100万円)
住宅ローン・・・3000万円(不動産の時価1500万円)
(住宅資金特別条項を定める場合)
この場合の再生債権額は,800万円
(住宅資金特別条項を定めない場合)
再生債権額は,2300万円
エ 弁済期間は原則3年間ですが,特別の事情があるときは,5年間まで伸長することができます(229条2項2号)。
オ 弁済の総額は,無異議債権及び評価済み債権の総額の5分の1または100万円のいずれか多い額を下回ってはなりませんが,無異議債権及び評価済み債権の総額が100万円を下回っているときはその額を,無異議債権及び評価済み債権の5分の1が300万円を超えるときは300万円を下回ってはなりません。
つまり,
・基準債権額の総額が100万円未満・・・基準債権総額
・基準債権額の総額が100万円以上500万円以下・・・100万円
・基準債権の総額が500万円を超え1500万円以下・・・基準債権額の5分の1
・基準債権の総額が1500万円を超え3000万円以下・・・300万円
ただし,平成17年1月1日より,基準債権額の総額が3000万円を超え,5000万円以下の場合には・・・基準債権額の10分の1
※基準債権額とは,再生手続開始前の原因に基づいて発生した請求権から,住宅資金特別条項を定める住宅貸付債権及び別除権の行使によって弁済を受けると見込まれる再生債権を除いた無異議債権と評価済債権の合計額をいう。
かつ,再生債務者が仮に破産をした場合の予想配当額(清算価値)を上回らなければなりません。
※ 清算価値保証
(ア)現金
(イ)預貯金 → 1年分の取引記帳のもの
(ウ)不動産 → 不動産評価額証明書の額
借地権や使用貸借の場合は,不動産業者の査定書
相続の場合注意
(エ)退職金 → 退職金の8分の1(資料15)
退職金証明書または退職金社内規定に基づく計算書
(オ)自動車 → 自己所有(自動車ローンなし)場合
所有者信販会社等(所有権留保)
原則引上げで売却代金をローン残から控除(担保不足見込額)
(カ)賃貸住宅に住んでいる → 敷金,保証金
(キ)生命保険解約返戻金 → 保険証書記載か保険会社に計算してもらう
(ク)電話加入権 → 1万4000円
(ケ)株券等有価証券 → 時価額
(コ)財形貯蓄 → 給与明細書で確認
カ 再生計画案に同意しない旨を書面で回答した議決権者が議決権者総数の半数に満たず,かつ,その議決権の数が議決権者の議決権の総額の2分の1を超えないことを要する。
キ 再生計画の認可後,やむを得ない事由で弁済が著しく困難になった場合は,再生計画で定められた債務の最終期限から2年を超えない範囲で弁済期間を延長することができます。
(2)小規模個人再生の要件
ア 個人債務者が「支払不能のおそれ」が要件となります。
自然人の申立て要件は,「破産の原因たる事実の生じるおそれ」(21条1項前段)が存在しなければならない。
この「破産の原因たる事実」とは,破産法126条1項の支払不能を意味し,支払不能とは,「債務者が債務弁済の能力(これは単に財産のみで判断するのではなく,信用や労力を含む)が欠乏していることにより,即時に弁済すべき債務を一般的,継続的に弁済することができない客観的状態」を指すものとされている。
つまり,支払不能または支払停止であり,「生ずるおそれ」とは,支払不能や支払停止が確実に到来するのではなく,客観的に近い将来支払不能になる蓋然性が高いことをもって足りるということです。
また,事業者については,「事業の継続に著しい支障を来たすことなく弁済期にある債務を弁済できないとき」(21条後段)が申立て原因とされていますが,これは,事業者が資金を調達して弁済期にある債務を弁済しようとすると,事業の継続に重大な支障が生じる必然性がある場合とされています。
イ 個人債務者のみが申立権者であり,債権者に申立権はありませんが,通常の民事再生では債権者申立てが可能であり,この申立てがあった場合は,個人再生債務者は,再生手続開始決定までに小規模個人再生を求める旨の申述を行うことができます。
ウ 利用者
将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあることが必要です。
具体的には
(ア)給与収入を得ている人(サラリーマン)
(イ)自営業者
(a)小売業,喫茶店,美容院,クリーニング店等の個人商店で日銭収入がある者
(b)農業・漁業者など
農業者は,収入が一定時期に限られていたりしますが,農業者は,少なくとも1年に1回以上は収入が見込まれ,この1回の収入から弁済原資を貯めておくことによって3か月に1回以上の弁済をすることが可能ですから要件に該当します。
漁業者についても,例えば遠洋業業者も上記と同様に一時弁済原資をプールしておき,これを3か月に1回以上の割合で弁済することは可能と考えられます。
(c)不動産業者
安定した収入があるとはいえませんが,一定期間を均せば安定しており,再生計画の履行が可能と見込まれれば要件を満たします。
(ウ)不動産賃貸業者
不動産を有しており,家賃収入で生計を立てている者も,労働の対価といえませんが,要件を満たします。
しかし,不動産を有しているということにより,清算価値の問題が発生するので,実際には難しいと考えられます。
(エ)年金生活者
(オ)アルバイトやパートタイマー
(カ)会社役員
エ 利用できない者
(ア)生活保護受給者
生活保護とは,国が最低限の生活を保障する制度であることを考えると,再生手続による救済は予定していないと考えられます。
(イ)無職
ただし,就職が決まっており,再生手続開始決定までには収入を得ている見込みがあれば可能です。
(ウ)失業保険受給者
3年間は弁済が継続するため,失業保険での弁済はできないと考えられます。
(エ)専業主婦
個人再生手続では,夫の収入で弁済をしたりなどはできません。これは,債務者以外の者が債務を引き受けたり,保証人になったりする規定が適用除外となっており,また,対人主義を採っているため,申立人である個人債務者自身が,継続的に反復して収入がなければならないのです。
(オ)養育費受領者
養育費は,子供の養育のために支払われる性質のものであるため,個人再生債務者に帰属することはないためであります。
オ 個人債務者が,小規模個人再生を行うことを求める旨の申述をしなければなりません。
この申述は,再生手続開始の申立てをする際に行わなければなりません(221条2項)。
(3)給与所得者等再生
ア (2)小規模個人再生の要件であるア,イは同様である。
イ 利用者
給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって,かつ,その額の変動の幅の小さいと見込まれること(239条1項)。
具体的には,源泉徴収票等の客観的な資料に基づいて過去の収入を把握できる者で,その収入の変動幅が年収単位で20パーセントに満たない程度の者であること(年単位で)。
(ア)サラリーマン
(イ)アルバイトやパートタイマー
継続的に勤務している場合は,年収を基準とした場合に,変動幅が少なければ利用することができます。
(ウ)歩合給のタクシー運転手
固定給部分と歩合給部分が併存している業務であっても,変動の幅が少なければ可。
(エ)生命保険外交員
これも(ウ)と同様に可。
(オ)使用者兼取締役
変動の幅が少なければ可。
(カ)現在無職
給与所得者等再生を行うことを求める時点では,「定期的な収入を得る見込みがある者」(239条1項)で足り,再生計画の認可・不認可の判断の時点までに「定期的な収入を得ている者」(241条2項4号)に該当していればよいため,現在内定等があり将来の安定した収入が確保できそうであれば申立てが可能。
(キ)兼業農家
農業収入が収入全体のうち20パーセントを超えることがあり得なければ利用ができる。
(ク)年金や恩給受給者
(ケ)不動産賃貸業者
賃料収入は,給与に類するとはいえず,一般的には認められていない。
ウ 最低弁済額
(ア)弁済の総額は,無異議債権及び評価済み債権の総額の5分の1または100万円のいずれか多い額を下回ってはなりませんが,無異議債権及び評価済み債権の総額が100万円を下回っているときはその額を,無異議債権及び評価済み債権の5分の1が300万円を超えるときは300万円を下回ってはなりません。
つまり,
・基準債権額の総額が100万円未満・・・基準債権総額
・基準債権額の総額が100万円以上500万円以下・・・100万円
・基準債権の総額が500万円を超え1500万円以下・・・基準債権額の5分の1
・基準債権の総額が1500万円を超え3000万円以下・・・300万円
(平成17年1月1日より)
・基準債権の総額が3000万円を超え5000万円以下・・・基準債権額の10分の1
かつ,再生債務者が仮に破産をした場合の予想配当額(清算価値)を上回らなければなりません(清算価値保障の原則)。
(イ)可処分所得
給与所得者等再生手続では,再生債権者の同意が不要であるので,この債権者の同意に代るものとして可処分所得要件(241条2項7号),これをも満たす弁済額でなければなりません。
T 可処分所得の算出方法(資料1)
(T)再生債務者の実質収入額については,再生計画案を提出する前2年間の再生債務者の「給与」または「給与に類する定期的な収入」の額から,所得税,住民税(市県民税)及び社会保険料に相当する額を控除した額を2で除して1年分の収入額を算出します。
そして,その金額から再生債務者及びその扶養を受ける者の最低限度の生活をするために必要な政令で定める1年分の費用を控除し,その額を2倍したものが可処分所得となります(241条2項7号ハ)。
可処分所得={(2年間の収入の合計−所得税−住民税−社会保険料)÷2−最低生活維持費}×2
※最低生活維持費とは,「民事再生法第241条第3項の額を定める政令」によって,生活保護法による保護の基準をベースに,再生債務者及び扶養を受けるべき者の年齢,居住地域,世帯に応じて一律に定められています。
(U)次に,リストラなどによって再生計画案提出前2年間の間に5分の1以上の収入の変動があった場合は,当該事由が生じた時から再生計画案を提出した時までの間の収入の合計額から,これに対する所得税や住民税,社会保険料に相当する金額を控除した額を1年間あたりの額に換算して計算する(同号イ)。
可処分所得={(変動後の収入−所得税−住民税−社会保険料)÷変動後の日数×365日−最低生活維持費}×2
(V)再生債務者が,再生計画案提出前2年間の途中で給与所得者等再生の要件を満たすこととなった場合(例えば3年間無職あったが再生手続申立時の前に就職してサラリーマンになったようなとき)は,その時点から再生計画案提出までの間の収入合計額からこれに対する所得税,住民税及び社会保険料に相当する額を控除した額を1年分に換算して算出します(同号ロ)。
可処分所得={(該当後の収入−所得税−住民税−社会保険料)÷該当後の日数×365日−最低生活維持費}×2
U 具体的な可処分所得の算出(資料の見方について)
2年間の収入合計,所得税額,社会保険料は,過去2年分の源泉徴収票の「支払金額」欄「源泉徴収税額」欄「社会保険料等の金額」欄記載を参照します。
次に,住民税は,過去2年分の課税証明書に記載された額を参照することになります。
もっとも,住民税は,前年度の所得を元に算出された税額が翌年に課税されますので,場合によっては対応関係にない場合もありえます。
http://www1.ocn.ne.jp/~matsuo3/
再生債権とは何か?
1 「再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」(84条1項)が,原則として再生債権となります。
(1)再生手続開始前の原因に基づくこと
(2)再生債務者に対しての人的請求権であること(物権的請求権である所有権に基づく再生債務者に対する物の返還請求権などは再生債権ではない)
(3)再生債務者に対する財産的請求権であること(再生債務者の一般財産により弁済を受けることができるものでなければならないので,離婚請求権などの親族法上の請求権は再生債権ではない)
2 再生手続開始後の原因に基づいて発生した請求権でも例外的に再生債権となるものがある。
(1)再生手続開始後の利息や遅延損害金の請求権
(2)再生手続後の不履行による損害賠償及び違約金の請求権(再生債務者が再生手続開始前に行った請負工事を,再生手続開始後に行った工事が失敗し物に損害を与えた場合における,注文者の再生債務者に対する損害賠償請求権等)
(3)再生手続参加の費用の請求権(再生手続開始後に再生債務者が裁判所に納める各種再生手続のための費用など)
3 再生債権の効力
再生手続が始まった後は,原則として,再生計画に基づいた弁済しか行うことができず,計画に定めていない弁済や弁済の受領その他債権を消滅させる行為(免除は除く)はできません(85条1項)。
共益債権とは?
債権者の共同の利益のために随時弁済をする必要性のある債権であり,民事再生法上の手続を経ることなく,再生計画における権利内容の変更や弁済条件の変更も受けず,再生債権に先立って(優先的に)随時弁済を受けることができる債権のことをいう。
(1)再生債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権(債権者が再生手続開始の申立てをした申立費用や保全処分の費用等)
(2)再生手続開始後の再生債務者の業務,生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権(再生債務者の経済的再生に必要不可欠な再生債務者の業務に関する原材料の仕入れ費用や,従業員の給料,商品の保管費用,店舗の賃料や生活に必要な電気料,水道料など)
(3)再生計画の遂行に関する費用の請求権。ただし,再生手続開始後に生じたものを除く(再生計画に従って再生債権を弁済をするための資金を調達するために必要な費用)
(4)個人再生委員の費用の前払い及び裁判所が定めた報酬請求権
(5)再生債務者の財産に関し再生債務者が再生手続開始後にした資金の借入その他の行為によって生じた請求権(その他としては,再生債務者が再生手続開始後に売買や請負などの契約をすることによって負担する債務や,再生債務者が再生手続開始後に不法行為をした場合における損害賠償請求権が考えられる)
(6)事務管理または不当利得により再生手続開始後に再生債務者に対して生じた請求権
(7)その他再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で,再生手続開始後の発生したもの(冠婚葬祭費等)
これらが119条に規定する一般的な共益債権の内容ですが,法で個別に規定されているものとして,
(8)再生手続開始決定により中止または効力を失った破産,強制執行等の手続のために再生債務者に対して生じた債権及びその手続に関する再生債務者に対する費用請求権,手続が続行された場合の費用請求権(39条3項)
(9)双務契約について再生債務者及びその相手方が再生手続開始当時共にまだその履行を完了していないときに,債務の履行が選択された場合の相手方が有する請求権(49条4項)
(相手方が再生債務者に商品を販売する契約を締結したが,未だ商品の引渡しと代金の支払いがなされていない場合,再生手続開始後は再生債務者はその選択に従って契約を解除するか,再生債務者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができ(49条1項),また,相手方は,再生債務者に対し,相当の期間を定め,その期間内に契約を解除するか債務の履行を請求するかの確答すべき旨を催告することができる(49条2項)。)
(10)再生債務者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方が再生手続開始の申立て後再生手続開始前にした給付に係る請求権(50条2項)
(継続的な商品仕入れ代金,電気料金,ガス料金,電話料金等の生活や事業に不可欠なもので,再生手続開始申立てまでに行った給付に係る請求権は再生債権とされるが,再生手続開始の申立て後再生手続開始までに行った給付に係る請求権は共益債権とされる。一定期間ごとに債権額を算定する継続的給付については,申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権は共益債権とされ(50条2項),再生手続開始後に行った給付に係る請求権は,それが再生債務者の業務,生活,財産の管理及び処分に関する費用であれば共益債権となる。)
(11)再生債務者が再生手続開始の申立て後再生手続開始前に資金の借入れ,原材料の購入その他再生債務者の事業の継続に欠くことのできない行為をする場合で,裁判所がその行為の相手方の請求権を共益債権とする旨の許可したもの(120条)
一般優先債権とは?
民法や商法等により,一般の先取特権その他一般の優先権のある債権で共益債権以外のものを言います。
これも再生手続によることなく随時弁済を受けることができます。
(1)民法306条から310条までの先取特権
(2)会社使用人の先取特権
(3)租税債権及びその他国税徴収法の例により徴収することのできる請求権や各種社会保険料等の請求権
開始後債権とは?
再生手続開始後の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって,共益債権,一般優先債権,再生債権でないものを指します。
具体的には,再生債務者が業務や生活に関係なく行った不法行為を行った際の損害賠償請求権や,再生手続開始後に業務や生活に関係なく借り入れた金銭や保証債務に関する請求権。
再生手続が開始されたときから再生計画で定められた弁済期間が満了するとき(再生計画認可決定が確定する前に再生手続が終了した場合は,その終了したとき,その期間満了前に再生計画に基づく弁済が完了したときまたは再生計画が取り消された場合にあっては,弁済が完了したときまたは再生計画が取り消されたとき)までの間は,弁済をし,弁済を受け,その他これを消滅させる行為(免除を除く)をすることができず,この間は,強制執行や仮差押,仮処分の申立てを行うこともできません(123条)。
別除権とは?
再生債務者の財産の上に存する特別の先取特権,質権,抵当権または商事留置権者は,その目的である財産について別除権を有しています(53条1項)。
これらは,再生手続拘束されることなく,抵当権の実行等を行うことができます。
なお,非典型担保物権である譲渡担保や所有権留保権者も別除権者として考えられます。
例外的に,別除権の目的物が再生債務者の事業継続に欠くことができないものである場合,再生債務者は裁判所に対して当該財産の価格に相当する金銭を裁判所に納付して当該財産上に存する全ての担保権を消滅させることについての許可の申立てをすることができる規定になっていますが,小規模な個人事業主を想定している個人再生では,余程のことがない限り,利用されるケースは稀でしょう(事業再建に向けてのスポンサーが現れるなどしなければ困難と思われます)。
(別除権付再生計画案)
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3 再生債権額が確定していない再生債権に対する措置 別除権者の再生債権について 別除権が行使されていないものについては、別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の部分(以下「不足額」という。)が確定したときに、前記1、2の定めを適用する。なお、再生債務者が別除権者から不足額が確定した旨の通知を受けた日に既に弁済期が到来している分割金については、当該通知を受けた日から2週間以内に支払う。 |
実務上問題になる債権
1 滞納家賃
再生手続開始前から賃料を延滞していた場合には,債権者の賃料請求権は再生手続開始前の原因に基づくものであるから,再生債権(再生手続きによってしか弁済をすることができない)といえ,再生手続開始前には滞納がなく,手続開始後に滞納分が発生した場合には,119条2号の「再生手続開始後の再生債務者の業務,生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権」ということで,共益債権となり再生手続によらずして弁済をすることが可能。
→再生債権に該当した場合は,保証人または第三者弁済も考慮
2 養育費
再生手続開始前に履行期が到来したもの → 再生債権
再生手続開始後に履行期が到来するもの → 共益債権
※平成16年度の民事再生法改正により,次の請求権については,当該再生債権者の同意がある場合を除いて,権利の変更等を行うことができない。
@再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
A再生債務者が故意または重過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
B次の義務に係る請求権
a 民法752条の夫婦間の協力および扶助義務
b 民法760条の婚姻から生ずる費用の分担義務
c 民法766条の子の監護に関する義務
d 民法877条から880条までの規定による扶養義務
3 電気・ガス・水道・電話代等
再生手続開始申立前までの発生した分 → 一般優先債権(民法306・310条)
再生手続開始申立後の分 → 共益債権(119条2項)
従って,何れも随時弁済をすることが可能
4 リース料債権
再生債務者が個人タクシーや宅配の請負業,飲食店などを営んでいる場合,この個人事業者は事業に必要な自動車や冷蔵庫をリース契約により使用している場合がある。
しかし,通常のリース契約において,リース料の支払いを遅滞した場合や民事再生の申立てをした場合,リース物件を引き上げて,これを換価し,リース料の弁済に充てられることになります(別除権付再生債権)。
そうすると,事業継続に必要な商売道具を失う結果,廃業等をしなければならない事態も想定されます。
このような場合に,リース料債権者と弁済協定を締結して,事業を継続していく必要があります(資料3)。
この根拠は,119条2項「再生手続開始後の再生債務者の業務,生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権」に該当する結果共益債権となるということです。
しかし,弁済協定を安易に締結することは,85条1項(再生手続によってのみ弁済をすることができる)に反する結果,不認可事由に該当する場合もありえるため,事前に裁判所に対して上申しておく必要があります。
なお,サラリーマンが自動車を通勤に使用するという理由では不可。
再生手続開始決定の要件
次の事由に該当すれば棄却されます。
1 費用の予納がされていない
2 既に破産手続きが開始されていて,その手続によることが債権者一般の利益に適合するとき
3 再生計画案の作成若しくは可決,認可の見込みがないことが明らかなとき
4 不当な目的若しくは不誠実な申立て
5 申立てをした債務者に破産の原因たる事実(支払不能)に陥るおそれが客観的にない場合。ただし,事業者の場合は,事業の継続に著しく支障を来たすことなく弁済期にある債務をできないとき
以上が,通常の民事再生でも同様な要件で次に各特則の要件を述べると
小規模個人再生の場合(上記の事由も含めて)
6 将来において継続的または反復して収入を得る見込みがない
7 再生債権の総額(再生手続開始前の罰金等,別除権として扱われる債務がある場合は,担保権で回収できる額,住宅資金特別条項を定めようとする場合で住宅資金貸付債権の額を除く)が,3000万円(平成17年1月1日より5000万円)を超えているとき
次に給与所得者等再生については,通常の民事再生の特則であると同時に小規模個人再生についての特則となるので上記に加えてさらに
8 給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり,かつ,その収入の幅の変動が小さいと見込まれない
9 給与所得者等再生手続を過去に行い再生計画を遂行していた場合,前回の再生計画案認可決定の確定の日から10年以内(平成17年1月1日より7年以内)の申立て
10 過去にハードシップ免責を受けており,前回の再生計画案認可決定の確定の日から10年以内(平成17年1月1日より7年以内)の申立て
11 過去に破産免責を受けており,前回の免責決定の確定の日から10年以内(平成17年1月1日より7年以内)の申立て
ハードシップ免責は債権者の同意もなく,債務が免除されるという点で破産免責と共通しており,給与所得者等再生は,債権者の意思にかかわりなく権利内容を一律に変更してしまうため,要件が厳しくなっております。
開始要件を欠いた場合の取り扱い
1 再生手続の申立てをし,小規模個人再生を求める申述をする場合には,同時に小規模個人再生固有の開始要件に該当しない場合には,通常の再生手続の開始を求めるかどうかを明らかにしなければなりません(221条6項)。
(1)小規模個人再生の申立人が通常の民事再生手続を希望しない場合
(2)通常の民事再生を希望した場合
2 再生手続の申立てをし,給与所得者等再生の利用を選択する場合は,給与所得者等再生固有の要件を欠いていた場合に,小規模個人再生手続の開始を求めるかどうかを明らかにしなければなりません(239条3項)。
(1)給与所得者等再生の申立人が小規模個人再生の申立てを希望しない場合
(2)小規模個人再生を希望する場合
執行停止とは?
民事再生開始決定の効力
1 訴訟手続は中断しない。つまり,法律上の取立て行為は止まりません。(通常の民事再生では中断事由となる)
仮に手続期間中に債務名義をとられても,次のように強制執行ができず,再生計画案に沿った権利変更がなされる。
2 強制執行等の禁止等
(1)再生債権に基づく強制執行,仮差押,仮処分などを行うことができず,既になされている場合は,中止されます(238条・245条は39条1項の適用を排除していない)(資料4)。
(2)開始決定がされるまでの間については
開始決定があるまでの間,利害関係人の申立てか職権で,再生裁判所が再生債務者に対する破産手続き,強制執行等を命令によって中止させる制度があります(26条)(資料5)。
例えば,給与債権が差押を受けている場合,申立てと同時にこの申立てを行えばよく,さらに開始決定が出たら直ちに差押命令の取消命令を得る必要があります。その後,これを執行裁判所に上申書で報告することになります(仮差押も同様)。
再生手続開始決定後
1 再生債権の確定
@債権届出期間内に債権の届出がない場合 → 届出期間の初日に債権者一覧表に記載した債権額で届出がなされたものとみなす(225・244条)。
A異議期間内に再生債権者および異議を留保した再生債務者は届出債権(みなし届出含む)について異議の申立てを行うことができる(226・244条)。
B異議を述べられた場合に評価の手続に進む場合,評価の申立てを行うが,無名義債権は,再生債権者,有名義債権は,異議を述べた者が申立てを行う必要がある(227条1項・244条)。
C異議を述べたが,評価の申立てがない場合
ア 有名義債権 → 異議はなかったものとみなされる(227条2項・244条)。
イ 無名義債権 → 異議額について,無異議債権や評価済債権に劣後した取り扱いとなる。(つまり,その額について,再生計画案で定めた弁済期間が満了するまでは,弁済,その他債権を消滅させる行為(免除を除く)ができない。
2 再生計画案の作成
(1)再生債権者間平等の原則
例外
@不利益を受ける再生債権者の同意がある
A少額再生債権の弁済時期につき別段の定めをする(資料9)
B再生手続開始後の利息,再生手続開始後の不履行による損害賠償および違約金請求権,再生手続参加の費用については,何れも再生手続開始後のものでも例外的に再生債権(84条2項)とされ,再生債権に派生ないしは附従するものであり,劣後的な取り扱いをしても不合理ではないため,実務上は,「再生手続開始決定の日以降の利息・損害金については全額について免除を受ける。」という内容になります。
C平成17年1月1日より次の例外が加わります。
T 再生債務者が悪意で加えた不法行為による損害賠償請求権
U 再生債務者が故意または重過失により人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権
V 次の義務に係る請求権
(@)民法752条の夫婦の協力および扶助義務
(A)同760条の婚姻費用の分担義務
(B)同766条の子の監護義務
(C)同877条から同880条までの扶養義務
(D)(@)〜(C)までの義務に類する義務であって,契約に基づくもの
(2)再生計画案の及ばない範囲
@別除権者 A保証人 B連帯債務者 C物上保証人
3 再生計画の変更
(1)認可後の再生計画案の変更
やむを得ない事由で認可された再生計画の履行が著しく困難になった場合は,再生計画変更の申立てが可能(234条)。
この場合,再生計画の最終弁済期日より2年を超えない範囲で延長できる(234条1項)。
(2)ハードシップ免責
再生計画履行中に,再生計画に基づく弁済が極めて困難になった場合,次の要件を満たせば,それ以後の再生債務は免責される。
なお,給与所得者等再生にも適用されます。
ア 再生債務者が,その責めに帰することができない事由により再生計画を履行することが著しく困難になった場合
イ 再生計画における各弁済が4分の3以上終えている
ウ 免責を決定することが再生債権者の一般の利益に反するものではない(清算価値保証の原則) (つまり,破産の場合の配当を下回らないこと)
この場合の清算価値は,ハードシップ免責時ではなく,再生計画認可時における清算価値をいう
例えば,100万円を弁済する再生計画が認可され,このときに50万円の配当可能な財産を有していた場合,75万円を支払った段階でイとウの要件を満たしますが,認可時に80万円の配当財産があった場合には,80万円を支払って初めてこの要件を満たすことになります。
エ 再生計画の変更をすることが極めて困難であること
(3)再生計画の取消し制度
再生債権者は,次の事由があるときは,再生計画の取消しを申立てることができる。
ア 再生計画が不正の方法で成立した
イ 再生債務者が再生計画の履行を怠った
この場合は,再生計画の定めによって認められた権利の全部について(履行された部分を除く)裁判所が評価した額の10分の1にあたる再生債権者で,かつ,履行期が到来しているにもかかわらず履行を受けていない債権者に限られる(再生債権者が数人で未履行部分を有する場合,その数人で申立てることは可能)
ウ 再生債務者の一定の行為について裁判所の許可にかかるにもかかわらず,それに違反した場合
エ 再生計画が認可確定した後,弁済総額が再生計画認可決定時において破産配当金額を下回ることが明らかになった
オ 給与所得者等再生手続終了後(認可決定確定後)可処分所得要件を満たさないことが明らかになった
「住宅資金貸付債権に関する特則」
1 経緯
バブル経済崩壊後の経済の長期低迷により,住宅ローンを抱えた個人債務者が急増している。
リストラや収入減によって,将来の昇給を見越してゆとり返済制度により返済額が増えたにも拘わらず,支払いが困難となり,サラ金等から借金をして住宅ローンの返済をするという現象が起こっています。
今までは,自宅を保持して債務を整理する方法としては,特定調停か任意整理という方法がありましたが,債権者の個別の同意を得なければならず,必ずしも,自宅を確保しながら債務の整理ができるという状況にはありませんでした。
そのため,急増する住宅ローンを抱えた債務者を救済するために,平成12年の民事再生の改正によって,この特則が制定され,平成13年4月1日から施行されることになりました。
2 目的
民事再生,破産の何れも住宅に設定された抵当権は別除権とされ,原則として,各手続に拘束されることなく担保権を実行することは可能です。
しかし,この特則では,担保不足見込み額に関係なく,住宅ローンの全額について一般再生債権とは別扱いして,住宅を保持しながら(抵当権の実行を回避できる),他の一般再生債権を処理するということを目的としております。なお,一般サラ金等からの借入れは一切なく,債務は住宅ローンだけであるという債務者についても,民事再生申立ての要件が整えば,利用することが可能です。
3 特色
(1)債務の支払期限等の変更(199条)
(2)住宅ローンの減免はない
(3)住宅ローン債権者の同意は不要
(4)特別条項を設けて認可されれば,保証人にも対しても効力を有する(203条1項)
(5)住宅ローンの保証会社が代位弁済をした後でも,6か月以内であれば,この特則を利用でき,認可されれば,代位弁済はなかったことになって,元の住宅ローン債権者に債権が戻る(巻戻し)(198条2項,204条)
(6)民事再生法には,担保権実行中止の申立て制度があり,これには厳しい要件があるところであるが,この特則を利用する場合には,住宅資金特別条項付再生計画案が認可される見込みがあるかないかだけの要件に緩和される(197条)
(7)民事再生法の特則であることから,この住宅資金特別条項を設ける場合には,通常の民事再生,小規模個人再生,給与所得者等再生の何れかの申立てをしなければなりません。
3 適用要件
(1)住宅(196条1号)
@個人である再生債務者が所有していること
所有には共有も含む
A自己の居住の用に供する建物であって,その床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるもの
・投資用マンション等は除かれます
・「供する」とされており,「供している」とはなっていないため,生活の本拠として自宅を購入したが転勤に伴って,その自宅を賃貸しており,将来自己の居住のために使用する予定があれば,要件を満たす
・居住用の建物を2つ以上所有しているときは,主として居住している建物(1棟)のみである
(2)住宅資金貸付債権の要件
@住宅の建設,購入,改良の何れかにかかる貸付金であること
・住宅の購入には土地や借地権の取得も含み,改良とは増改築やリフォームを含みます。
A上記借入金について,分割払いの定めがある。
B上記貸付金またはその貸付金を保証することを業とする保証会社の求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されていること
・土地建物の共同担保でも構わないし,その他の不動産との共同担保でも構わない(しかし,抵当権の実行手続中止命令の対象にはならない)
・根抵当権や1号仮登記も含む。
・親族等が保証人になっており,代位弁済をしても,要件を満たさない。
・抵当権は住宅に設定されていなければならず,例えば,土地には設定されているが建物に設定がされていない場合には,この特則を利用することはできない。
(3)住宅資金特別条項が定められない場合
@住宅の上に,住宅資金貸付債権(住宅ローン)以外の債権を担保するための担保権が設定されているとき(198条1項但書前段)。
・住宅資金特別条項は,住宅資金貸付債権(住宅ローン)にのみ効力が及び,それ以外の担保権は別除権として,手続外で担保権の実行等を行うことができる結果,自宅を保持することができなくなり,特則を利用しても無意味になってしまうから
事例
土地
夫 持分10分の9
妻 同10分の1
抵当権
1番(あ)債務者 夫 抵当権者 住宅金融公庫
1番(い)債務者 妻 抵当権者 年金資金運用基金
2番 債務者 夫 抵当権者 東京海上火災保険
3番 債務者 夫 抵当権者 日本信販
※1番抵当権については,住宅ローンの変更契約によって,連帯債務関係が生じているが登記には反映されていない。
※なお,2・3番は住宅ローンに関する保証会社の求償権を担保する住宅資金貸付債権である。
A住宅以外の不動産に対しても共同担保として抵当権が設定されている場合で,当該不動産に住宅資金貸付債権以外の債権を担保するために住宅ローンの後順位抵当権が付着している場合(198条1項但書後段)。
・住宅以外の不動産に対する後順位担保権者が当該不動産の抵当権を実行した場合,住宅ローン債権者は,当該不動産の売却代金から債権額に満つるまで弁済を受けることができますが,後順位担保権者は,住宅ローン債権者に代位して,住宅ローン債権者が住宅の代価から弁済を受けることができた金額まで住宅に設定された抵当権を実行することができるようになり,この結果,後順位担保権者は代位によって住宅の上の抵当権を取得し,自由に抵当権を実行することができ,自宅保持ができなくなってしまうため。
B保証会社の代位弁済後6か月が経過した後に再生手続の開始の申立てをした場合
・保証会社が代位弁済後に再生計画の認可決定が出た場合は,当該保証債務に履行はなかったものとして(204条1項),債権が元の債権者に復帰します(巻き戻し)。
C住宅ローンの借り換えで,住宅ローン以外に一部事業資金等を併せて抵当権を設定した場合
4 住宅資金特別条項の内容
住宅資金特別条項とは?
再生債権のうちで,住宅資金貸付債権を含む場合に,住宅資金貸付債権について,(1)期限の利益回復型(199条1項)(2)最終弁済期延長型(同条2項)(3)元本据置型(同条3項)(4)同意型(同条4項)(5)原契約書通り型の何れかの型で変更することを内容とする再生計画の条項をいいます。
(1)期限の利益回復型(原則)
再生計画認可決定確定時までに弁済期が到来する住宅ローンの元本部分+これに対する再生計画認可決定確定後利息+上記元本部分に対する再生計画認可決定確定時までの利息・損害金を再生計画で定める一般弁済期間内に支払えば期限の利益を喪失しなかったものと扱われ,再生計画認可確定後に到来する部分は原契約書に従って支払うとするもの
(2)最終弁済期延長型(例外1)
(1)によっては,住宅ローンに返済が困難であり,再生計画が遂行できる見込みがない場合に定めることができる。
最終弁済期を延長させるものであるが,次の要件を満たさなければならない。
@住宅ローンの元金及びこれに対する再生計画認可決定確定後の約定利息並び再生計画認可決定確定時までに生ずる住宅ローンの利息及び不履行による損害賠償の全額を支払うこと
A約定の返済日より10年を超えず,かつ,再生債務者の年齢が満70歳を越えない範囲での延長しか認めない
B住宅ローンの元本と利息の支払方法については,概ね従前の契約の通りでなければならない
・従前の契約が元利均等払いであれば,計画案も元利均等払いにし,元金均等であれば,元金均等でなければなりませんが,ボーナス併用返済を毎月のみにしたりすることは可能である(併用でも毎月の返済ということは変わらないし,一年の返済総額も大きく違わないため)
(3)元本据置型(例外2)
(2)の方法によっても住宅ローンの返済が困難である場合,最終弁済期の延長に加えて,一般再生債権弁済期間中は,住宅ローンの元本の一部及び住宅ローンの元本に対する利息のみを支払うというもので,かつ,上記(2)@ABの要件を満たさなければならない。
(4)同意型
住宅ローン債権者の同意により,いかなる計画案の策定も可能
(5)原契約書とおり(そのまま型)
個人再生の開始決定がでると,弁済禁止効(85条)により,再生計画認可確定まで弁済を行うことができず,これまで住宅ローンを遅滞無く支払ってきたとしても,期限の利益を喪失し遅延損害金等がついてくるのが通常でした。
これを回避するために,第三者弁済や保証人からの弁済を行ってきたこともありましたが,平成14年の法改正により,許可弁済の制度ができました(197条3項)。
要件
@再生債務者が,再生手続開始後に住宅資金貸付債権の一部を弁済しなければ住宅資金貸付債権の定めにより(期限の利益喪失約款),当該住宅資金貸付債権の全部または一部について期限の利益を喪失することとなる場合であること
A住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがあること
を条件に裁判所に対して許可を求めるというものです。
(注:約款によれば,再生手続の申立てをしただけで期限の利益を当然に喪失するという条項があるが,しかし,実際は,再生債務者が分割弁済をしていれば期限の利益を喪失していなかったものとして扱われているため,この一事をもって要件を満たしていないとはいえない)
抵当権の競売手続の中止命令(31条・197条)
1 通常の民事再生における競売手続の中止命令(31条)
要件
(1)再生手続開始の申立てがあった
(2)再生債権者の一般の利益に適合する
(3)競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがない
※「一般の利益に適合する」とは,再生債務者が誠実に手続を進行させており,再生する可能性が高く,再生には,当該競売物件が不可欠または有益であり,競売を進行させてしまっては,再生が不可能もしくは困難になる場合,または,再生にとって不可欠ではなくても,換価の時期または方法によっては高額に処分が可能であって,再生債権の弁済率を上昇させることが認められる場合。
「不当な損害を及ぼすおそれがないとき」とは,仮に損害があったとしてもそれが受忍すべき限度内であることをいい,具体的には@目的物の価格が被担保債権額を超えているA生産設備・在庫商品のように利用や売却によって急激に価値が下がってしまうような場合,目的物に代る他の物を提供したり,価値の低下に見合う弁済をしたり,弁済をする見込みがあるときなど
(個人住宅の場合には,ほとんど考えられない手続である。)
2 抵当権競売の中止命令(197条)(資料14)
要件
(1)再生手続開始の申立てがあった場合
(2)住宅資金特別条項を設けた再生計画案の認可の見込みがある場合
3 「抵当権の実行としての競売」(住宅ローン以外)
共益債権(法119条)や一般優先債権(租税債権等法122条1項)の場合は,再生手続によることなく随時弁済を受けることができる。
これらの支払いをしない場合は,訴訟を提起され,また,強制執行をされてしまう。
この競売手続きを中止させるには,法121条3項,122条4項によって中止または取消しを求める必要があるが,要件が,@強制執行が再生に著しい支障を及ぼさない,A再生債務者が他に換価容易な財産を十分に有している。
現実的には,個人の場合,不可能
この場合,結局は,自宅を失うことになり,住宅資金特別条項が定められず,再生計画不認可決定を受けることになる。
その後,住宅資金特別条項を設けない個人再生の手続を再度なすか,破産をせざるを得ない
事前協議
1 再生債務者は,住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する場合は,予め住宅ローン債権者と協議しなければならない(規則101条1項)。
住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出しようとする場合は,再生計画案の立案段階までに住宅ローン債権者に対して,自己の収入・家族状況・一般再生債権の弁済額等の情報を開示して,具体的に履行可能性の高い計画案の立案を住宅ローン債権者の助言を受けながら行う必要があります。
事前協議に必要な書類として
・源泉徴収票
・3か月分の給与明細書(同居者がいれば同居者のものも)
・住民票
・返済計画表
・当該住宅等の登記簿謄本
・家計表
住宅資金特別条項を設けた再生計画案の不認可事由(202条2項)
1 174条2項1号または4号に規定する事由があるとき(202条2項1号)
2 再生計画が遂行可能であると認めることができないとき(同項2号)
3 再生債務者が住宅の所有権または住宅の用に供されている土地を住宅の所有のために使用する権利を失うこととなると見込まれるとき(同項3号)
4 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき(同項4号)