事例研究

ケース1 個人で商売をしている例

Aさん(50歳)は、平成元年に金融機関のローンにより4800万円の2階建て住宅を購入しました。

その後暫くしてAさんは、会社からリストラをされ、早期退職による上乗せ退職金を原資として、自宅1階の半分部分を店舗に改造してラーメン店を始めました。

開業当初は立地の良さから客足も伸びていたのですが、競合店の進出と景気の低迷等により売上が思うように伸びなくなるのです。

時を同じくして、住宅ローンのゆとり返済期間が終了し毎月の返済額が倍増し、売上の少ない月は消費者金融からの借入れでローンの返済をしていましたが、今度は住宅ローン以外に消費者金融分も含めて返済しなければならなくなり、最終的には、住宅ローン残額3800万円の他、消費者金融系10社、カードキャッシング5社の合計債務額1000万円にまで膨れ上がりました。子供がまだ高校生と中学生であり、商売を諦めて会社勤めをしようと考え面接にも行くのですがどこも雇い入れてくれるところは無く、このままでは一家バラバラになるのではとの不安の毎日を過ごしています。

Aさんは不動産以外の資産(現在評価額2000万円)はなく、また不動産には住宅ローンのみでありその他の担保権者はいません。

 

検討

全ての債務整理手続きを順じ検討してみましょう。

1.特定調停

特定調停の相手方として全債権者と調停をする場合と、住宅ローン債権者を除いて調停を行う場合があります。

そもそも住宅ローンは金利が低利であり、利息制限法による引き直し計算というメリットが活用できません。

この場合は、毎月いくらかの減額があるだけで効果的に債務の圧縮を図ることができない。

一方、住宅ローン以外は、利息制限法上の利率より高い利息を得ているのであるから、取引経過が長期なほど圧縮が期待できる。

しかし、比較的短期間しか返済実績がないと殆ど元本が減ることはなく、毎月の返済額が減るくらいの効果しか期待できない。(これでも今までよりはましですが。)

また調停ですから、支払う原資がなければ話し合いになりませんので、売上を上げる努力をするか、または、支払いを確保できるような仕事に就かなければなりませんが、これは現状では難しいでしょう。

調停成立はそこに記載された事項を履行しなければ、強制執行をその調停調書でされてしまう危険性がありますので、履行可能な内容の調停を成立させる必要があります。

特定調停は、取引経過不開示の債権者に対し文書提出命令という方法が活用でき、取引経過を知ることができる。

2.任意整理

本件は10社以上の債権者がおり、全員の同意を得られるかはやってみなければ分からないのが現状です。

また、取引経過を求めても法的に提出する義務もないため、任意に協力を得られなければまとめることは至難の技です。

しかし、特定調停と異なり、履行しない場合にはいきなり強制執行をされる心配はなく、通常通り判決等の債務名義を取得してから執行してくるという段取りになります。

3.破産

Aさんは履行期にある債務の弁済が継続的にできない支払不能の状態にあり、破産の原因が存在します。

また、免責不許可事由にも該当しないため免責受けることができ、これにより配当後の残債務に関しては免除されます。

通常不動産などの高額な資産がある場合は、破産管財人が選任され管財人の許で手続が厳格に進められます。しかしこれには50万円以上の予納金を裁判所に納付しなければならないため、費用の問題が出てきますが、本件について言えば不動産の価格の1.5倍以上の住宅ローン債務額があるためオーバーローン状態となっており、これにより同時廃止(管財人はつかない)事件となり予納金の問題はクリアーできます。

しかし、不動産を所有し続けることができないため、新たな住まいを確保しなければならない現実が待っています。

けれども直ちに出ていかなければならないわけではなく、半年から1年間はそのまま住んでいられますので、その間に移転先を探すことになります。

また、この期間は一切の債務の支払いをストップしていますので、移転先の敷金・引越費用等のお金は貯めることができるでしょう。

これに伴い商売を続けることができないので、就職先も合わせて探さなくてはなりませんし、復権を得るまでは就けない職種もあるという不利益を受けます。

4.個人民事再生

本件の場合、小規模個人再生手続を選択することになります。

手続要件として「債務者が継続的にまたは反復して収入を得る見込みがある者」「再生債権総額が3000万円を超えない」という要件を満たしていれば、申立ては可能です。

また、2年間の収入の変動が20%以内ということも必要です。

特定調停、任意整理は各債権者の個別の同意を得なければならないのに比較して、小規模個人再生は、書面決議による多数決により再生計画が成立し、裁判所の認可決定により反対債権者をも計画案通りの内容に拘束されるという効果が期待できます。

多数決は積極的同意ではなく消極的同意で足りるので、2分の1を超える反対者が、書面を裁判所に提出することにより反対の意思表示をしなければ、認可されます。

小規模個人再生は、最低弁済額が法律で定められていますので、利息制限法がどうのとかの話しではなく、要件通り元本カットが実現します。(しかし清算価値を下回ることはできません。)

本件では、住宅ローンを除く債務総額が200万円となり、これを原則3年間で弁済していくという事になります。(月額5万5000円位)特別の事情があれば最長5年まで伸長できます。(月額3万3000円位)

住宅ローンについて

住宅資金特別条項を定める要件として、本件では店舗付き住宅であり適用できるのかが問題となります。民事再生法で定める住宅とは「床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の住居の用に供されていること」ということで2階部分と1階の住居部分が床面積の2分の1以上であれば要件を満たします。

また、住宅ローン以外の担保権者もなく、かつ保証会社の代位弁済を受けて6か月が経過しているという事情もないので住宅資金特別条項を定めることができます。当然土地についても住宅の敷地ということでまとめて考えることができます。

住宅資金特別条項は、4パターンあります。

1 期限の利益回復型

再生計画認可の決定時までに弁済期が到来する住宅資金貸付債権の元本及びこれに対する再生計画認可の決定の確定後の住宅約定利息並びに再生計画認可の決定の確定時までに生ずる住宅資金貸付債権の利息及び不履行による損害賠償は、その全額を再生計画定める弁済期間(原則3年・最長5年)に支払うという事を定めなければなりません。

2 最終弁済期延長型

1による方法では再生計画認可の見込みがない場合に、一定の範囲内(約定の最終弁済期から10年を超えずかつ、変更後の弁済期における債務者の年齢が70歳を越えないもの)で約定の最終弁済期を延長し、支払期間を延長させて、毎月の返済額を少しでも減らそうということです。

3 元本据置型

2による方法では再生計画認可の見込みがない場合に、一般弁済期間(原則3年・最長5年)中は、住宅資金貸付債権の元本の一部及び住宅資金貸付債権の元本に対する元本猶予期間中の住宅約定利息のみを支払うものとすることができる。

つまり、一般債権の弁済期間中は住宅ローンの元本の一部を猶予してもらい(これにより一般債務と住宅ローン双方の支払が可能となる)、一般債権弁済後に猶予してもらったものも合わせて支払い、さらに期間の延長も取り入れて弁済していこうとするものです。

4 同意型

これは、住宅資金貸付債権者と個別の同意を得て、より柔軟な返済方法で弁済していくものです。

同意を得れば、上記のような、延長は10年を超えず、70歳を超えてはならないというような要件はなく、自由に定めることができます。

しかし、実務では個別の同意はなかなか難しいのが現状です。

まとめ

収入の変動が少なく今後も再生計画で定めようとする額の返済が可能であれば、小規模個人再生手続を選択し、今後とも売上が減りつづけ弁済の可能性が低いと考えられる場合には破産手続ということが本件ではいえると思います。