超大国アメリカの驕り


編集長:アメリカだ! 今回のテーマはアメリカ!

青柳:興奮しないで下さい。怒っているのはわかりましたから。

編集長:今回のテーマはアメリカの驕り。以前から気になってはいたんだけど、さすがに今回はもう許せない! アメリカは、いったい何様だと思っているんだ!

流しの竜:まあ、落ち着けよ。とにかく、アメリカが大使館爆破の報復として、アフガニスタンとスーダンにミサイルを撃ち込んだのは事実で、逃げも隠れもしないんだからさ。いつもみたいに、反対派と賛成派に別れて、冷静にやりましょう。

編集長:反対! 断固反対!

青柳:僕も反対です。

RRR:オレは……アメリカか……でも、やっぱり反対だな。

DL:それじゃあ、私は賛成派に回るわ。ホントはあんまり興味ないけど。

流しの竜:じゃあ、俺も賛成派やるよ。俺もあんまりいい気はしないけど、討論にならないもんな。

編集長:それじゃあ、早速聞くけど、いったいアメリカはなんの権利があって ミサイルを撃ち込んだんだ?

DL:急に落ち着きましたわね。いいたいことをいって、すっきりしたのかしら?

青柳:いえ、敵を見つけたので、感情のはけ口ができたんですよ。こうなると、この人は怖いですよ。

編集長:俺のことはいいから、今はアメリカだ!

流しの竜:それは、クリントン大統領の発表どおり、この間のアメリカ大使館爆破事件に対する報復じゃないですか。

RRR:でもよぉ、なんでテロリストに対する報復が、スーダンやアフガニスタンにミサイルを撃ち込むことなんだ? 犯人を逮捕して、しかるべき刑に処するのが本道じゃないか。

青柳:あっ、ちょっと待ってください。やっぱり僕、賛成派に鞍替えします。

DL:あなたの場合、賛成するといっておきながら、内側から破壊するのが趣味じゃなくって? いつだったかも、そうでしたし……。

青柳:いいじゃないですか。とにかく、賛成します。

RRR:それで、答えは?

青柳:犯人逮捕ですか? そんなものでは、根本的な解決になりません。テロの芽は根から絶たないと。

RRR:両国がテロリストの大元だというのか?

青柳:そうですね。スーダンはテロリストの支援国とされていますし、アフガニスタンも内戦中ですがイスラム原理主義勢力が優勢です。特にオサマ・ビン・ラディン氏の関連施設が多くあるといわれています。

流しの竜:そのラディン氏なんだけど、いったい何者なんだ?

編集長:アメリカが今回のテロの首謀者と見ている人物だ。

青柳:サウジアラビア出身の大富豪です。その資金力で、テロリストをバックアップしているといわれています。

DL:本当に?

青柳:と、いわれています。僕だって、本人にあったわけじゃないのでわかりませんよ。アメリカ政府がそういうんだから、そう信じるしかありませんよ。

編集長:なんか、アメリカを馬鹿にしてるような発言だな。

流しの竜:いつものパターンだ。気にするな。

RRR:それで、そのラディンとかいう野郎と、スーダン、アフガニスタンの両国がつるんでいるっていう確証はあるのかよ。

編集長:クリントン大統領はあるっていってるよな。

青柳:大統領があるといえば、あるんです。不倫疑惑なんて、無いといいながらあったんですから、あるといえば絶対あるでしょう。

流しの竜:……そういわれるときつい。

DL:まったく、あなた本当に味方ですの?

青柳:僕は僕です。どちらでもいいでしょ。

編集長:でも、スーダンはラディン氏を追放したはずだ。アフガニスタンには、たしかにラディン氏の施設が多くあるらしいけど、本当にそれがアメリカのいうようなテロリストの訓練施設とは限らないし、もしそうだとしてもミサイルを撃ち込んで良いわけがないと思うぞ。

青柳:編集長も、末端のテロリストさえ逮捕していけばいいと思うんですか? 黒幕をのさばらせておくというんですね。

編集長:そんなこといってないよ。ただ、ラディン氏がテロに関係しているという証拠を本当につかんでいるのなら、それを公表してしかるべき場で争うべきだといっているんだ。そのために国連や、国際司法裁判所もあるんだろ?

青柳:国連はともかく、国際司法裁判所は機能してませんけどね。それに代わる機関の設立も、アメリカの反対でなかなか進みませんし。

流しの竜:なんで、反対してるの?

青柳:おそらく、そんなもの作られたら、勝手にミサイル撃ち込めなくなるからでしょ。

編集長:まあ、当たらずとも遠からず、ってとこか。戦争犯罪なんかを取り締まるのが目的なんだけど、それを恐れて行動に支障が出ては困るっていうわけだ。裏を返せば、そのギリギリのラインに自分たちがいることを、アメリカもわかってるってことだよな。

流しの竜:でもさ、アメリカとしてはテロに対する断固たる姿勢を表明するためにも、この攻撃は必要だったんじゃないかな?

編集長:それだ! もっとも憎むべきは、それなんだよ。アメリカは、自分の力を誇示するためにやってるんだよ。本当なら、ひとつひとつ手順を踏んで、法に則ってやらなきゃいけないところを、見た目の派手さと手っ取り早さで武力による解決という方法を導き出した。それが俺には許せない。アメリカは仮にも民主主義の総本山なんだ。その総本山が、民主主義に反するような行動に出ていることが許せない。

DL:アメリカでは今回の攻撃に、6割から8割の市民が賛成しているということですけど? 国民の支持を得ていれば、それが民主主義ではなくって?

編集長:彼らは気づいていないんだよ。今はその力が外に向けられているけど、このやり方に慣らされてしまうと、そのうち内側にまで同じやり方で臨むことになりかねない。証拠も、裁判もなしに、いきなりミサイルなんて、絶対に民主主義じゃない!

青柳:編集長が民主主義をそんなに評価しているなんて知らなかったな。いつもアメリカを批判しているじゃないですか。

編集長:民主主義が最高だとはいわないけど、アメリカは中国や他の国にも民主化を要求しているぐらいなんだから、自らが民主主義の立前を崩すべきじゃない。今のアメリカがやっていることは、暴君による専制主義だよ。たまたま民衆がその暴君を支持しているだけで、このままでは大変なことにもなりかねない。ヒットラーだって、最初は民主的な手段で政権についたんだ。まあ、クリントンにそんな度胸があるとは思わないけど、将来とんでもない人物が大統領になって、暴君と化す恐れがないとはいえないよ。

RRR:衆愚政治ってやつか? 政治への無関心も問題だけど、熱狂的な支持ってやつはもっとやばいんだよな。支持を受けるほうも、勘違いしちまうから。

編集長:極端な話、民衆が民主主義を拒否すれば、どうなってしまうんだ? それは自殺だぜ。今のアメリカは、自殺に向けて転がり初めているんだ。大統領のおこなった非民主的行為に、国民は反発すべきなのに、賞賛とまではいかなくても黙認しちゃってる。このままでは、絶対にアメリカは狂ってしまう! 俺はそれが怖いんだ。

流しの竜:そりゃ、気に入らないやつにはミサイルを、っていうのはゾッとしないけど、本当にそんなことになるか?

青柳:ヒットラーだって、最初はあんなふうになるとは誰も思わなかったでしょ? だったら、今後アメリカにヒットラーみたいな大統領が現れないとも限らない。

編集長:民主主義ってやつは、権力者の能力に期待しちゃいけない政治形態なんだ。だから、大統領とはいえ独断で軍を動かしたりしてはいけない。そりゃ、突然攻撃されたりとかした場合は別だけど、今回みたいな緊急性のない軍事行動は、議会にかけて、国民の支持を得てから行わなければいけない。そうじゃなきゃ、大統領に全て任せることになってしまう。権力者に権力者自身の判断をさせてはいけないのが民主主義だと思うんだけど、どうだろう?

DL:む、難しいことは、わかりませんわ。テーマを戻しません?

編集長:そうだな。──ようするに、アメリカは手順を踏まずに、武力によって解決しようとした。それを批判したいんだ。

流しの竜:クリントン大統領の発言を見ると、「新たなテロ活動が計画されており、それを防ぐためにアメリカが行動せざるをえなかった」ということなんだけど、いうなれば正当防衛か緊急避難だよな。それでもダメだったというのか?

RRR:もしそうだったとしたら、その証拠を見せてくれないと。それに、内戦中のアフガニスタンはともかく、スーダンはれっきとした独立国だ。その了解もなしにミサイルを撃ち込むっていうのは、どう考えてもおかしい。

青柳:ミサイル撃ち込むって、そんなこと了解するはずが無いじゃないですか。

編集長:スーダンを対等の国家と見ているなら、まずは問題となった工場が本当に化学兵器の工場なのか調査を要求し、その結果を得てから行動すべきだったんだ。

青柳:でも、スーダンは化学兵器禁止条約に批准していませんから、国連による査察もおこなわれていません。そんな国が、正直に報告するとは思えません。逆にアメリカは衛星からの偵察で、工場が化学兵器を作っていたか知っているわけですからね。

RRR:ちょっと待てよ。衛星からの偵察って、人んちの庭を勝手にのぞいていていいのか? それに、衛星からでそんなことまでわかるのかよ。

青柳:やっぱり、公言するわけにはいかないのかな? だから、証拠の公表もできないんでしょうね。衛星からの画像に関しては、かなり鮮明なものが撮れるみたいですよ。人物の判定ぐらいなら、なんとかわかるみたいです。

編集長:「こいつに違いない」っていう程度だけどな。かなり希望的観測が入っていると思うぞ。

青柳:少なくとも、双子の区別はできないでしょうね。

RRR:オレはやっぱり、衛星からのぞいていることからして納得できない。なんかこう、信頼っていうか、お互いを尊重すべきじゃないのか?

青柳:なにいってるんです。アメリカは世界の警察ですよ。世界の平和を守るためなら、衛星によるのぞき見も、ミサイルによる破壊活動も、全てはアメリカと正義を守るためです。

編集長:それが間違い。驕りなんだよな。まず、アメリカは民主主義こそが最高の政治形態で、それ以外は悪だと考えている。それが間違いだ。アメリカは民主主義という形態をとっているが、他国までがそれを真似る必要はない。

流しの竜:ちょっと待て、編集長の民主主義論はいいからさ、本題に戻そう。長くなりそうだし。

編集長:すまん。アメリカには、恨み辛みが山ほどあるもんで……。

RRR:で、アメリカが他の国を対等の存在として見ていないってことなんだけど、それはどう思う?

流しの竜:それは当然だろ? アメリカは今や世界唯一の超大国で、経済、軍事、全ての面で飛び抜けた存在だ。世界のリーダー足るべき存在だろう。

編集長:ようするに、金持ちで、用心棒をたくさん雇っているというわけだよな。それって、リーダーに必要なことか? 立派なことか? 財力と兵力をかさにきてるだけじゃないか。

流しの竜:そんなこといたったら、元も子もないじゃない。でも、実際問題として人間社会なんて、金のあるやつが一番えらいんだよ。

RRR:だから、他の国を一段低い存在と見ていいというわけか?

青柳:少なくとも、アメリカは自らを最高の存在だと思っているでしょうね。民主主義は最高の政治形態で、アメリカ合衆国は正義であると信じているでしょう。かつての国王たちが、自分たちの権力は神から与えられたものだと信じて疑わなかったようにね。

DL:やっぱり、あなた反対派でしょ?

青柳:別に批判しているわけじゃありませんよ。専制政治と同じだといってるだけです。専制政治を批判していないのと同じように、アメリカだって批判しているわけじゃありませんよ。

編集長:こいつの屁理屈は置いといて、まずアメリカはその独善的な態度を改めるべきだ。テロに対して怒るのはわかるけど、だからといって報復攻撃なんて、ハンムラビ法典じゃないんだから。一気に歴史を四千年もさかのぼらせるつもりだというんなら別だけど……。

青柳:アメリカの独善というのは、ある意味伝統なんですよ。西部開拓時代の保安官というのは、いうなれば歩く法律で、裁判にも法にもよらずに、犯罪者の逮捕、処刑ができたんですよ。日本人に武士道的な精神が残っているように、アメリカ人には保安官的な性質がどこかに残っているんでしょう。

RRR:それによぉ、例の不倫疑惑のまっただ中っていうのも、時期的に最悪だよな。これじゃあ、どっから見ても国民の目をそらすためだとしか思えないよ。

編集長:間違いなく、そうだと思うぞ。大統領の個人的なスキャンダルをうやむやにするために、アメリカは無関係な人々を何十人、何百人と殺したんだ。

流しの竜:そこまでいうことないだろ。たまたま、時期が重なっただけかもしれないし。

青柳:この際、重要なのはそういった疑惑を持たせないことだったと僕は思いますよ。もし、その意志がなかったとしても、こんな時期にミサイルを撃ち込めば、誰だって疑惑隠しのための攻撃だって思うじゃないですか。そう思わせない配慮を欠いただけでも、大統領の行為は疑惑隠しのためだったといえるでしょう。

DL:あら? 完全に反対派に寝返りましたわね。

青柳:僕は攻撃自体は賛成派ですよ。理由はクリントン大統領が不倫疑惑──というより、もはや疑惑じゃありませんから、不倫事件から国民の目をそらすために、この攻撃は有効だったという点から、賛成しているんです。

流しの竜:なんで、それが賛成する理由になるんだ?

青柳:アメリカ大統領は、この世界で最も権威のある人間ですよ。その人間が娘みたいな年齢の子と不倫して、しかもその会話をテープに録音され、必死になって隠そうとして嘘までついて、それでも隠し通せないと見ると全然関係ない国にミサイルを撃ち込んで、罪のない市民を殺すことによって、なんとかして不倫のことは忘れてもらおうとあがいている。おもしろいじゃないですか。人間ってやつは、ここまで利己的になれるものかって、しかも、あの超大国アメリカの大統領がですよ。これだったら、ちっぽけな東洋の島国の政治家や官僚たちが、風俗店で接待を受けて、大企業に利益供与をしているのも当然と思えるでしょ? そりゃ中学生もぐれるし、銃も乱射しますよ。

RRR:そういわれればその通りだな。アメリカの大統領も、北朝鮮の首領閣下も、所詮は同じ人間ってわけだ。こりゃ、人類は滅ぶな。ノストラダムスじゃなくっても、ちょっと考えりゃすぐわかることだ。

編集長:そういうなよ。少なくとも、まだアメリカには救いようがあるんだしさ。

DL:救いようって、なんです?

編集長:民主主義だってことだ。

RRR:あれっ? 編集長、民主主義嫌いなんだろ?

編集長:別に、民主主義自体が悪いわけじゃない。アメリカ民主主義の問題点は、民主主義でありながら、大統領という個人にあまりに大きな権力を与えていることだ。核ミサイルのスイッチは、大統領個人の手の中にあるんだぞ。それは絶対に民主主義の理念に反する。権力の集中を避けるのが民主主義だと俺は思っているから、強力な権力を持つ大統領制度っていうのは民主主義とは相反するものだと思うんだ。

流しの竜:それで、どうしろと?

編集長:今回の件で反省し、もっと大統領の権力を弱める。理想は日本の天皇なみに有名無実の存在にすることだな。立憲君主制、もし、国家を象徴する個人がいるというのなら、なんの権力もない飾りものであるべきだ。頂点に立つ人物が、即決即断が可能な政治形態は、紛れもない専制政治だから……。と、まあ、このへんで締めようか。これ以上長くなると、メモ帳で開けなくなるかもしれない(笑)。

流しの竜:──なんか、けっきょく、編集長の怒りをぶちまけただけみたいになってしまったな。

DL:いいんじゃなくって? いつかもいってましたけど、このコーナーの原動力は”怒り”なんでしょ?

青柳:でも、もうちょっとちゃかしていかないと、重くなってしまいますね。

編集長:その点は反省してます。次回からは、もっと楽しくやりましょう。


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1998.8.21