ユーゴ空爆──アメリカ・NATOに正義はあるのか?


参加メンバー
 高城陽介(以下、高城):司会進行役。基本的に正義の味方。
 葉山有紀(以下、葉山):普段から権力者としての発言が気になるが……。
 真崎孝治(以下、コージ):必要悪という言葉にこだわる男。
 金谷登(以下、金谷):権力者の横暴が大嫌いなロックンローラー。
 エイミ・ワシントン(以下、エイミ):愛国心溢れる、生粋のアメリカ人。
 ジョー・ライオネル(以下、ジョー):元フランス軍人。武士道にひかれ来日。
 斉藤(以下、斉藤):ミリタリーマニアということで参加。

高城:今回は、NATOによるユーゴスラビア空爆を取り上げたいと思う。このメンバーになってからは、始めての海外の問題だし、深刻さでもこれまでで一番だからね。ちょっと緊張してます。

葉山:でも、担当者が変わる前は、さんざんアメリカ批判してたじゃない。緊張することなんかないわよ。

金谷:そうだ、そうだ! アメリカ許すまじ! 権力者の横暴を許すな!

葉山:あら? 私は空爆賛成派よ?

コージ:おっ、今回は意見があったね。俺も賛成ね。

金谷:なんだよ! 反対派は俺だけか?

高城:あっ、僕も反対。いちおう、司会役だから、あんまり強くはいえないけど……。

コージ:それで、今回のメンバーはこれだけ? まさか、新のヤツはいないだろうな。

高城:新さんはいないけど、いちおう専門家というか今回のテーマについて詳しい人を呼んでます。

エイミ:ハーイ! アメリカから来た、エイミ・ワシントンでェす。

ジョー:元フランス陸軍、ジョー・ライオネル中尉であります!

葉山:あと、斉藤くんにも来てもらったわ。

斉藤:……よろしく。

高城:さて、それでは始めましょうか。それでは、まず、この事件の背景というか、ユーゴスラビアっていう国についてなんだけど……。

ジョー:ユーゴスラビアは元々連邦国家で、多くの民族、言語、宗教が入り乱れた、極めて不安定な国だったのです。一時はかなり激しい内戦となって、いくつかの国が独立しました。

コージ:その程度は知ってるよ。それでアメリカワールドカップ、出られなかったんだろ?

ジョー:そうです。しかし、その後、いくつかの国が独立したことによって内戦が一段落し、国際社会にも復活しました。ですが、ユーゴスラビアに残ったコソボ自治州では、独立したアルバニアと同じ民族系の住民が多く、ユーゴスラビア政府の高圧的な政策もあって、ふたたび独立を求める声が高まったのです。

葉山:そこで、国連やらNATOやらが出てきて、和平会議がおこなわれたわけね。

高城:だけど、その会議は物別れに終わったと……。

ジョー:そうです。ユーゴスラビア側が、コソボへの国連軍駐屯を受け入れなかったのが最大の原因ですね。

高城:どうして受け入れなかったんだろう?

コージ:そりゃ、国連軍とはいえ、他国の軍隊が国内に駐屯するなんていうのは、異常事態だからさ。

葉山:そうね。日本でさえ、アメリカ軍に反感を持っている人が多いんだから、当然といえば当然ね。

高城:まあ、会議が失敗に終わったことを悔やんでも仕方ないんで、本題に入りましょう。たしかに、ユーゴスラビア──ミロシェビッチ大統領にも非はある。だけど、空爆という手段に訴えることが正しいかどうかなんだけど。

金谷:何度もいうけど、俺は反対ね。まずは賛成派の意見を聞きたいところだけど。

コージ:ユーゴに非があるのなら、制裁は当然。最初から、和平会談が失敗したら空爆するといってるんだから、空爆しないとユーゴはつけあがる。

高城:それは確かだね。もし、空爆しなかったら、ユーゴはNATOもアメリカも何もできないと決め込んで、ますます好き勝手するだろう。でも、空爆で苦労するのは、民衆であって、ミロシェビッチ大統領としては、それほど痛くないんじゃないのか?

葉山:だったら、痛い目にあわせてやればいいのよ。大統領官邸でも、国会議事堂でも、空爆してやればいいわ。

金谷:俺も、それならそんなに文句いわないよ。でも、実際はコソボの人たちや、大統領とは関係のない人が怪我したり、死んだりしている。大統領が悪いんなら、大統領だけを攻撃すればいいじゃないか。

葉山:ものには順序というものがあるわ。まずは国境の対空防衛設備を破壊して制空権を握り、首都上空までなんの障害もなしに航空機が侵入できる状態にする必要があるのよ。

金谷:そんな遠回りなことしないで、もっと直接的なことはできないのかよ。国連に警察みたいなの作ってさ、逮捕しちゃえばいいじゃん。

コージ:おとなしく捕まるかよ。それに、今回は国連の承認なしの空爆だしな。これに関しては、俺もどうかと思うんだけど……。

葉山:国連なんて、しょせんはお飾りよ。今、世界を動かしているのは、アメリカよ。

エイミ:そのとおりでェす。アメリカのォ、軍事力はァ、世界一ィィ!!

高城:そ、そのセリフは……。

ジョー:アメリカとしては、国連決議にかけた場合、ロシアと中国が確実に反対することがわかっていますから、NATOとして処理したかったんだと思います。ユーゴスラビアが国連に加盟していないというのも、国連を通さずに空爆を開始できたひとつの要因だと思いますが。

高城:えっ、ユーゴスラビアって、国連に加盟してないの?

ジョー:はい、現在のユーゴスラビアは、かつてのユーゴスラビア連邦を継承したかったのですが、それが認められず、結果として国連加盟をはじめ、旧ユーゴの権利を引き継いでいません。

葉山:国際社会は、新ユーゴを旧ユーゴが分裂した国のひとつとして捕らえたのに対して、ユーゴはあくまでもかつてのユーゴそのものでありたいと望んでいるのよ。分裂したひとつじゃあ、格が落ちるじゃない。独立した国と対等になっちゃうものね。

コージ:でも、それによってユーゴスラビアとミロシェビッチ大統領は、威光を取り戻すべく躍起になっているんじゃないのかな? コソボの動きに対しても過敏になるし、諸外国が見下す視線にも我慢できない。それで意地を張っちゃってる。

葉山:だから、その意地を粉砕しなきゃいけないの。そのための空爆よ。

高城:なんか、説明的なセリフが続いちゃったけど、そのユーゴの意地を砕くのに、どうして罪のない民衆が被害を受けなければいけないわけ? 最終目標が、ミロシェビッチ大統領の政権を倒すことだとしても、その課程で傷つくものが多すぎるよ。

コージ:結局、ユーゴを変えられるのはユーゴの国民だけだから、奮起を促しているんじゃないの?

ジョー:それはあるかも知れませんね。ユーゴは東欧諸国の中でも民主化が遅れています、大統領が巨大な権限を持ち、軍と議会、それにマスコミまで完全に掌握しています。このままの流れでは、アメリカの望むような民主化は、いつまでたっても達成できません。あえて、強攻策に出たともいえますね。

葉山:ねえ、ジョー中尉。さっきから、説明ばかりしてるけど、あなた自身の意見はどうなの? 元軍人として、空爆の効果はあると思う?

ジョー:私ですか? 私個人の意見をいわせてもらえれば……。

葉山:いわせてもらえれば?

ジョー:アメリカは卑怯でござる。

高城:ご、ござる?

ジョー:一方的に攻撃するだけの空爆など、もののふのすることではござらん。正々堂々と正面から攻撃をおこない、そして勝利を収めるのならまだしも、決定的な打撃となり得ない空爆によって、いくさとは関係のない民衆の生活を圧迫するなど、論外でござろう。

葉山:結局、いいたいことは、少々の被害が出ても短期決戦でミロシェビッチ政権を倒し、ユーゴの民衆への被害を押さえようってことね。

ジョー:そうです。いうまでもなく、攻撃側のNATO軍、そしてアメリカ軍を構成するのは軍人です。それが死を恐れて安全な場所からの空爆に頼り、敵国とはいえユーゴの民間人に出血を強いるというのは間違いです。ユーゴ軍と直接対峙し、これを粉砕すれば、それで戦争は終わるのです。

高城:軍人らしいといえば、らしい意見なんだけど……。あっ、でもアメリカ軍にも被害が出たよね。最新鋭の戦闘機が撃墜されたじゃない。

斉藤:ようやく、僕の出番ですね。今回、墜落したのはF117ステルス戦闘攻撃機です。なにぶんにも最新鋭機、しかもレーダーに映りにくいステルスということで、情報もあまりないのですが、アメリカにとっては相当なショックだったでしょう。

コージ:墜落なの? 撃墜じゃなくて?

斉藤:それはわかりませんね。そもそも、現代の戦争において敵軍と戦って戦死する者はごく一部──かなり極論ですが──に過ぎません。味方からの誤射、事故による死亡者が実際にはかなりの数に上るのです。湾岸戦争ではアメリカ軍の戦死者のほぼ半数が味方の誤射によるものです。はるか後方から、味方部隊の頭上を越えてミサイルを撃ち込むのですから、当然といえば当然なのですが、今回の墜落に関しても、単純な操縦ミスということも考えられますし、機体のトラブルで墜落したとも考えられます。パイロットが無事だったという点でも、その可能性が高いのではないでしょうか。

高城:ふーん、まあレーダーに映らなくても、墜ちないわけじゃないもんな。

葉山:でも、新しい情報では、ついに米兵が捕虜になったっていうじゃない。

コージ:アメリカは大変な騒ぎらしいね。戦争なんだから、当然のことだと思うけど。

高城:いや、アメリカは戦争をしているつもりはないと思うよ。クリントン大統領の「ユーゴには米兵を拘束する根拠はない」っていう発言からも明らかだ。彼らが国連平和維持軍に所属していたとしても、それ以前にアメリカ人なんだから。

ジョー:戦争であったとしたら、ユーゴが逆にアメリカ本土を攻撃しても良いわけですからね。もちろん、それは不可能ですし、それを知っているからこそ、アメリカも攻撃できるのですが……。

葉山:そうね。アメリカは相手が無抵抗だと、決めてかかってたんじゃない? 一方的に殴りつけていた相手が、頭をかばおうとして上げた手が鼻先をかすめたもんだから、慌てているのよ。

高城:鼻先をかすめた程度なの?

葉山:ユーゴでは百人以上死んでいるんだから、そんなもんでしょう。

金谷:これで、空爆が止まるようなことになるのかな? アメリカ世論は、米兵に死傷者が出ることに批判的なんだろ?

エイミ:あたりまえでェす。人命は地球より重いのでェす。

高城:ユーゴの人命は?

エイミ:彼らが悪いのですから、仕方ありません。

金谷:勝手なもんだな。いつもアメリカはそうだ。

高城:まあまあ、アメリカ批判は程々に……。

コージ:たしかに、アメリカのやってることは表面的には悪だけど、仕方のないことだと思う。このままユーゴを放って置くわけにはいかないんだから、ミロシェビッチ政権は倒さなきゃいけないんだ。空爆によって、ユーゴの市民がミロシェビッチ政権に不満を持つようになり、民主化への革命を起こすようなことになれば、それは正しいことだと思うよ。

金谷:おいおい、アメリカは間違いなく加害者だぜ。加害者が自分たちを正当化し、被害者に対して政権への不満をかき立てるやり方は、テロリストと同じじゃないのか? それも無差別テロっていう最低の方法と同じだぞ。

コージ:テロも時には必要。大いなる目的のためには、少々の犠牲はやむを得ない。

葉山:それはちょっと違うわよ。私もミロシェビッチ政権を倒すってことには賛成だけど、その犠牲はアメリカ軍が負うべきで、これ以上ユーゴの民衆に負担をかけるべきじゃないわ。

コージ:自分たちのことだ、自分たちで血を流さずにどうする? アメリカに頼ってしまっては、ミロシェビッチに代わってアメリカが君臨するだけだ。

高城:賛成派同士で争わないでよ。じゃあ、取り合えあえず二人ともこのまま空爆を続けることには反対なんだね。

コージ:目的のない空爆は、意味がない。悪役になるのなら、徹底して悪役になれ。「死にたくなければ、ミロシェビッチを倒せ」ぐらいのことはいうべきだ。

葉山:地上戦よ、地上戦。短期決戦。このまま泥沼化するよりは、ずっといいはずよ。ゲリラ戦になればNATO側の被害者も増えてくるだろうし、そうなる前にガツンと一撃でけりを付けてやらないと。

高城:ミロシェビッチ大統領ばかりが批判されてるけど、コソボ側には問題はないの?

ジョー:コソボにも、当然過激派は存在します。独立を勝ち取るためには、セルビア人をすべて駆逐すると主張する組織がゲリラ戦を展開しています。ユーゴ軍も、これらを鎮圧するために最初は動いたのでしょうが……。

葉山:そのあとは典型的な民族主義に走ってしまったのね。なんといっても、民族主義っていうのは、わかりやすいもんね。

ジョー:コソボは、ちょっとしたエルサレムみたいな場所になってしまっているんですよ。どちらの民族にとっても、大切な土地で、手放したくはないんです。

高城:最終的には、両者が仲良くやっていくしか、解決法はないわけだね。

葉山:それは解決法じゃないわ。それは結果でしょ? 解決法っていうのは「どうやって仲良くするか」っていうことじゃない?

金谷:それは、ここで俺たちが言ってても仕方ないことじゃない。当事者の問題だからね。もちろん、手助けをすることはできるかも知れないけど、今アメリカがやっているのは、明らかに両者の仲を裂くことだろ?

葉山:そうかしら? 長い目で見れば、ミロシェビッチ政権を倒すことによって、両者の関係が修復されるかも知れないわよ。

金谷:本当に、その気があるのかね。イラクも、フセイン政権を倒すまで空爆を続けるといいながら、どうなってる?

葉山:あれはいいのよ。もう目的は達成したんだから。

金谷:やっぱり、目的っていうと……。

葉山:そう、弾劾裁判よ。あれさえ終わってしまえば、もうフセインなんて用済み。もっとも、また支持率が下がったりしたら、もう一度ぐらい必要になるかも知れないけどね。

コージ:そういう意味では、今回のユーゴ空爆についてはどう思う?

葉山:もし、途中で放り出すようなことがあったら、今度こそあの大統領はおしまいね。

コージ:ああ、歴史上には、不倫と空爆好きの大統領としか評価が残らないだろう。それだけでも、残らないよりはマシか?

金谷:日本の宇野総理と同類だけど、スケールはずっとでかいもんな。でも、これでモニカ・ルインスキーも歴史に残ると思うと、ちょっと腹立つな。

葉山:十数年後には、教科書に名前が載るのね。テストに出たりして。

コージ:ビル・クリントン大統領が弾劾裁判に掛けられる原因となった、不倫相手の女性の名前は──とか?

金谷:でも、あの大統領にはセクハラ疑惑もあったよね。それに比べれば、相手が同意していただけ不倫を認めてしまった方が良かったのかも……。

高城:テーマから外れてるよ。で、これからの問題なんだけど、ミロシェビッチ政権がどうなるか。反米感情の高まったセルビア人たちに対するアフターケアっていうか、フォローをどう入れるか。──最悪の場合、反米感情を利用して、現政権がより強固な権力基盤を作りかねないから……。

葉山:そうね、そういう意味でも、アメリカ──NATOには徹底的にやってもらわないと。

金谷:いや、やっぱり即時停戦、和平会談のほうがいいよ。傷口が広がる前にさ。

高城:いちがいに、どちらが良いか──っていうふうにはいかない問題だからね。中途半端に終わらないことだけを期待したね。

エイミ:なんか、終わりそうな雰囲気でーす。もう終わるのですか? ワタシ、出番少なかったネ。

高城:なにか言いたいことがあったのなら、最後にどうぞ。

エイミ:アメリカのォ、軍事力はァ──。

一同:やめなさいって!


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1999.4.5