赤の部 02 『切腹』
おのおの方、油断召されるな。これは我が藩の存亡を賭けた一大事にござるぞ…。
――なんだか時代がかってるねえ。
「まことにござろうか、幕府よりの下知、とは」
「何ゆえにいつわりなど申そうか。まことにござる」
「なんということじゃ…我が藩はこれでしまいじゃ…ご先祖になんとおわびしてよいやら…」
――なんかあたふたしてるねえ、面白い、面白い。
――あんまり面白くはないけど。
――じゃあ、なんで覗いてるのさ。
――うふふふ。
――いやな笑い方するね、まったく。
「いや、おのおの方。まだ一つだけ我が藩が生き残る道があり申すぞ」
「そのような道が、まだ…?」
「なんと。早うに申せ、申すのじゃ。神君の御代よりお仕えする我が藩が」
「残れるのなら何とでもしようぞ。さ、申せ。申さぬか」
「うむ。それは…」
「うぬぅ…まだ言わぬか。そこもとは幼少の頃よりそうじゃ。知らぬことも知ったと申すばかり」
「そうじゃそうじゃ。それにその家紋は何じゃ、まるで童の戯れ書きじゃ」
「ぬしの嫁御はそもそもわしのものじゃったんじゃ」
「大体そこもとの家では晩酌ができるそうではないか。この危急時に何をしておる」
――…何してんの? こいつら。一人を囲んじゃってさ…。
――もめてる。
――見りゃ分かるよ。
「ええい、静まれ、静まれ。ここを何処と心得る。畏れおおくも殿の御前なるぞ!」
――あ。殿様、いたんだ…。
「さ。申されよ。…皆は落ち着いて聞けい! この存亡の危機、如何とすれば脱することができようぞ?」
「それは簡単なことにござる。まずは事の経緯を詳細に幕府に報告されよ」
「それはもうやっておる」
「ならば…うむ。ここは一つ、殿にお手間をとって頂きたく…」
「……」
「かような事態じゃ。申せ。殿に何をして欲しいのじゃ?」
「我が藩の誠意を示すため、殿に切腹して頂くのでございます」