『残った二人』

「何をしている」
「…川を、見ていました」

 小さな川。澄んだ水は冷たそうだ。
「楽しいか」
「いいえ…でも、見ていると落ち着きます」
「そうか」

 見渡す限りの荒野。そこにあるのは小さな小屋。そして小さな川。
 あとは…女が一人に男が一人。
「ま、他にすることもない、か…」
「そうですね」
 少し身を乗り出して川に手を浸そうとする。
 しかし、そっとその手を押しとどめる。
「やめておけ。この水に触れてはよくない」
「でも少しだけですよ?」
「少しでも、だ。触るなら地下水にするがいい」
「まだましですね」
「そうだ。まだ…ましだ」

 さらさらと流れる川べりに二人は座っている。
 照りつける陽射しはじりじりと地面を灼いている。
「何か食べるか」
「…欲しくないです」
「食べないと体によくないぞ」
「でも、欲しくないです。どうぞお先に」
「…要らないのは同じだ」
 しばらく二人は黙っていた。

「静かですね。川の音の他…何も聞こえない」
「まだ慣れないのか?」
「だいぶ慣れましたけど…いつまで続くのでしょう?」
「さあな」
「空もきれいですし…水もきれいです」
「見た目だけだ」
 ぽん、と川に小石を投げ込む。かすかな土煙が溶けるように水の中で舞う。
 ゆらりとゆらめく小さな石。二三度体を震わせるようにちらついて…そのまま川底に収まった。
 しばらくそれを見ていた。
 だが…。
 小石はころり、ころりと転がり始めた。
 川の流れに押されて仕方ない、とでも言いたげに。

「終わらせたいのなら、すぐに終わる方法もある」
「それは嫌ですね」
「だろう? ここは終わって始まる場所だ」
「始まる…できるのでしょうか?」
「できると思う」
「時間はないのでしょう?」
「たしかに…それほどない」

 やがて一人が立ち上がり、小屋に入って行った。
 もう一人を呼ぶ声がした。
 それきりで人の声はしなくなってしまった。
 小さな川は誰にも聞かれることのないせせらぎを立てている。

 夜になっても朝になっても小川は流れつづける。
 小屋がなくなっても、二人の姿が消えても。
 何もないこの地に小川は流れつづける。

 永遠に。

 見渡す限りの荒地。この二人の他に人の姿を見ることは…もう、できない。


©2002 江ノ口信天 AllRightsReserved.
Materials: WindSeeds, 幻影素材工房, 信天庵


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