『生きよ』
「生きよ!」
と誰かが言った。
誰が言ったのか、そんなことはどうでもいい。
「生きよ!」
その声は頭の奥…脳みその奥底まで響いた。
そんな気がしただけなのかも知れない。
そう思い込みたかったのかも知れない。
それだけが己のより処だったのかも知れない。
そんなことは誰にも分からない。
己にも。
もちろん他人にも。
「生きよ!」
とにかく声がそう言ったことだけは確かなこと。
己の耳はともかく己が聞いた、と思ったのだから。
「生きよ!」
生きてみるしかないのだろう。
世の中に絶望してしまっても。
これ以上生きてみる気がなくても。
ただ己の前にあるであろう、一本の道を感じながら。
己の前に道はない。己の後に道はできる。
そういう言葉もある。
だけど…。
どれだけその言葉を信じられるか。
自分でどれだけの道を踏みしめて歩いたのか。
ただの『つもり』ではないのか。
前に獣道でもいい、かすかに光る足跡を見ながら歩いてきたのではないか?
「生きよ!」
生きて、確かめるしかない。
泥水すすってでも、他人に後ろ指を指されてもいい。
臆病者と罵られてもいい。軟弱者と噂されてもいい。
「生きよ!」
死ぬまで生きてみるしかないじゃないか…倒れて、それでも起き上がろうとあがいて、それでも駄目で…ただ瞳を上げるだけしかできなくなって…周りが見えなくなって…走馬灯が駆け巡りだすまで…。
生きて、しぶとく生きてみるしかないじゃないか。
©2002 江ノ口信天 AllRightsReserved.
Materials: 幻影素材工房, 篝火幻灯, 信天庵

