『放棄論』

全部捨ててしまいたかった
まるでザリガニが皮を脱ぐように
まるで息でも吐くように
この身にしがみついた全部を捨ててしまいたかった

お金やら職業やら繋がりやら何やら…
そんなものはもういらない
感じるだけで吐き気がする
そんなものが周りにあると思うだけで体温が上がったり下がったりする
鬱陶しい

全部捨ててみたらどれほど身軽になるだろう
今吸っている、なんだか鉛みたいな空気ですら水素のように軽くなるのだろう
もしかしたらこの目の前にあるクズでカスのような障害物ですら
羽根のように軽く押しのけられるのかも知れない。
何も気兼ねなく動ける様子は想像するだけでわくわくと期待の蜜が湧いてくる

全部捨ててしまおう
もう何もいらない
いるのは己だけ
他に何が必要なのだ?

でも…

本当に要らないのか?
しがらみを全部消してしまって
己だけが世界に一人ぼっち
話に聞く月面のような世界に一人ぼっち
何も生きていない世界に一人ぼっち
誰も自分を見てくれない

何をしてもほめてもくれない
何をしでかしても怒ってくれない
どんな感情も共有できない
周りの全てがまるで造りそこないの石像の目で見ているだけ

面白いか?
楽しいか?

何よりも…生きていけるのか? そんな世界で


今日も俺は全部を捨てようとして…またそれを俺の中に抱えこんでいる。
ちゅうぶらりんな俺。
永遠にそのまんま。


©2002 江ノ口信天 AllRightsReserved.
Materials: 銀のくじら/TeaRoom, 幻影素材工房, 信天庵


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