愛の行方



 洗い場に、おばちゃんたちに混ざって、20代の夫婦が働いていた。

 その年代の人が洗い場に入るのは珍しかった。大抵はルーム係やレストランなどの、接客部門につくからだ。何か人前に出たくない事情があるのだろうと、ひそかにうわさされていた。

 2人はすすんで他の人たちと交わろうとはしなかった。仕事の手の空いたときには、周りの人たちに内容がわからぬよう、英語で会話をしていたらしい。家族寮に入っており、隣近所に住む同僚の話によると、毎晩のように繰り広げられるけんかは、凄まじいものだったらしい。

 ある時、従業員食堂で、その二人を含め数人が食事をしていた。誰が見るともなくついていたTVから、行方不明者に呼びかける番組が流れ始めた。

 「**で中学の体育の教員をしていた**さんは、*月*日に家を出たまま行方不明になっています。**さんは、同じ学校の英語の教員であるAさんと一緒にいると思われます。**さんには、奥さんと、生後間もないかわいい赤ちゃんがいて、パパの帰りを待っています。・・・」

 その場の緊迫感は、いかばかりのものだったのか。
 2人以外の誰かの手によって、すぐにチャンネルは変えられた。

 こうして2人の素性は大方の人の知るところとなったのだが、特に問題とされることもなかった。その頃、そこで働いている人たちの中には、いろいろな事情を抱えている人が多かったのだ。

 日々は過ぎた。男の人は、次第に周りの人に馴染んできたようだった。一方女の人は、相変わらず、社交辞令程度の会話をするばかりだった。

 ある日、警官を伴って、男性が訪ねてきた。男の人の親類だそうだ。
 そして話し合いの後日、2人は静かにホテルを去っていった。

 その後男の人は、赤ちゃんのいる妻のもとに戻ったそうだ。
 英語の先生だった女の人は、どうしているのだろうか。何もかも捨てた逃避行のはずだったのに。結局不倫の果てに傷つくのは、女・・・。まだ若かった私が、大人の世界を垣間見たような出来事だった。