修学旅行の決心



 お正月を過ぎると、スキー修学旅行の季節だ。多くは九州・四国などからの学校で、3泊くらいし、たっぷりスキーをして帰ってゆく。
 そんな時は、ほとんど全館貸しきり状態になる。食事、入浴、出発などの時間がきっちり決まっているので、仕事の段取りとしては楽である。あとは、布団敷きを生徒がやるか、ホテル側がやるかというところで、多くの従業員の気持ちの重さが決まる。

 修旅の朝は早い。早く出かけて、存分にスキーを楽しもうという気持ちは分かる。生徒の数にもよるが、6時半の朝食時間なら、レストラン係の出勤はおよそ5時、厨房は4時といったところだろうか。冬なので、まだ星の輝く時刻である。
 そんな朝、タイムカードを押すと、夜警さんがつぶやいた。
 「いやー、今朝は大変だったんですよ。」
 「どうかしたんですか?」
 「女の子がひとりいなくなっちゃって、探し回ってたんですよ。」 

 夜警さんの話はこうだった。
 旅の興奮のためか4時半ごろ目を覚ましてしまった女の子が、同室のBさんがいないことに気がついた。何分たっても戻ってこないので、先生に言いに行った。消灯時間には、皆と同じように布団に入っていたらしい。
 他の部屋に行ってもいないことが分かった時点で、ホテル側も交えて探し始めた。
 外は厳寒の雪景色。それに学校の団体が宿泊の際には、特に施錠に気を付けている。まずは館内を入念に見回る。
 すると、最上階の共用トイレの窓が開け放たれていた。(それを見た時夜警さんは、生きた心地がしなかったそうだ。)
 彼は意を決して、下を覗き込んだ。

 少女の姿があった。
 しかし、彼女のいたところは、地面ではなかった。2階の屋根が、一か所テラス風に地面と平行にのびており、そこにいたのだった。そして、かなりの積雪がクッションの役割を果たした。彼女は、放心したようにぽつんと座っていた。
 最上階が5階とそう高くなかったことも、幸いしたのであろう。彼女は少し鼻血の出たあとがあっただけで、見事に何ともなかった。

 その後も日程は変わることなく、次々とこなされた。先生と彼女との間でどんな話がされたのかは知らないが、親が迎えに来るのではという私たちの予想は外れ、翌日から彼女もスキーに参加した。


 修学旅行のかばんに、彼女は何を詰め込んできたのだろう。他の子達のように、期待や開放感などではなかったに違いない。
 あの時解き放った自分と、同時に生かされた命は、今ごろどうしているだろうか。
 



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