戦艦というシステム

 戦艦。それは、圧倒的な戦闘力を持って海上に在り、あらゆる兵器の頂点に立つ、究極の力であった。新鋭技術と強大な経済力を要求する戦艦を保有する事は、世界を動かす強国の証であり、その価値は現代における戦略核をも上回るものであった。その堂々たる鋼の肢体を目の当たりにするとき、人はある種の感慨を覚えずにはおれない。
 そのせいか、多くの場面で登場してきます。しかし、案外とそれがどんな物なのか、知られていないようです。ようこそ、大艦巨砲主義の世界へ。ここでは、その大まかなアウトラインを、軽く触れてみましょう。

最後の戦艦
“最も進化した戦艦”HMSヴァンガード

戦艦とは何か

 水上戦闘に於いて最強ないし無敵である軍艦。
 なお、現在現役の戦艦は存在しない。廃れた理由は、主に、発達した魚雷、対艦ミサイル等に防御が対応出来ないためである。

軍艦における大砲の撃ち方

 さて、まずは火力である。最終世代の戦艦は、大体20kmから30kmの距離で巨砲を撃ち合うことを想定していた。そんなに遠くの、それも自在に動き回る敵艦に、どうやって砲弾を当てるのか。コンピュータもないのにどうやって計算したのか。何故主砲は6〜12門くらいなのか。これを見ていこう。

最初(19世紀末まで)

 とにかく撃ちまくる。近付いて撃ちまくる。大砲は一発撃つと反動で後ろの方に下がっちゃうので、狙い(射撃諸元)を修正なんて事は物理的に殆ど不可能だった。

その後

 駐退機と復座機が発明され、大砲を撃ってもその狙いは保持されるようになった。というわけで、一発撃ったら何処に行ったか確認(弾着観測)して、狙いを修正するという事が出来るようになった。命中率向上、遠くでも当てられる。しかし、軍艦には沢山大砲が付いているわけで「俺が撃った弾はどれだ?」という問題が出てきた。

斉射法の実用化(日露戦争期)

 やがて、全部の砲が一斉に同じ狙いで撃って、その外れ具合を見て狙いを修正、また一斉射撃、という撃ち方(斉射法)が考案された。軍事機密が絡んだせいか、誰が最初に考案したのか定かでないが、実用されたのは日露戦争だとハッキリしている。
※ザックリわかりやすく単純化した話。本物はもっと色々。

 さて、大砲で物を狙うには、旋回(左右)と俯仰(上下)という要素を使う事になる。また、敵艦も自艦も動いているので、それぞれの位置を参考にして狙いを付けなくてはならない。速度や加速度は、位置の情報から算出することになる。

例示
未成戦艦ソヴィエツキー・ソユーズ

 その撃ち方の詳細であるが、大まかに以下の通り。下の図も参照されたい。
 まず、時刻1と時刻2における観測により、自艦から見て敵艦がどの位置にいるか把握する。その間の時間を考慮すると、敵艦がどっちにどれだけの速さで動いているか(的針的速)が計算出来る。これに自艦の針路と速度を加味すれば、こちらが大砲を撃って、弾が飛んでいる間に敵艦は何処に行くのかも計算出来る。それを基に照準し、時刻3で発射。
 通常、第一弾は外れるが、敵艦の針路と速さが誤っていないとすれば、それは風などの影響という事になる。従って、時刻4で弾着の外れ具合を観測して、その辺を計算機(コンピュータではなく、歯車を使った機械式の物)に放り込んでやれば、より精度の高い照準が可能になる、という具合である。(実際には、的針的速の方も洗い直せるし、そうするだろう)
 ちなみに、戦艦が撃ち合うような距離では、砲弾はある一定範囲(散布界)内に、一定確率で着弾するとしか言えない。敵艦を挟んで手前と奥に砲弾が着弾する場合、その一定範囲に敵艦を捉えているという事になり、狙いが正しい事を意味する。この状態を夾叉という。夾叉の際に、何発くらいの砲弾を同時に送り込めば、実用的な命中率が出るか。その答えが、主砲門数が6〜12程度となる理由である。

斉射法
水上戦闘艦による砲撃

戦艦の装甲

 戦艦の防御は、その時点で世界最高の攻撃力(通常は自分の主砲火力)に対応した物になる。
 まず、対象である主砲がどのようにして砲弾を送ってくるのか、知る必要がある。ここでは主砲の一例として米海軍の45口径16インチ(406mm)Mk.6砲からMk.8徹甲弾を発射した場合の特性を示す。

着弾時の速度は単純に減少しない
落角は距離のn乗比例

 表その2は砲弾が着弾するときに持っている速度を、その3は落下してくる角度(落角)を示す。落角は水平面との成す角。その2を見てもらうとわかるが、戦艦主砲クラスになると、どんなに遠くまで飛ばしても、いわゆる“ひょろひょろ弾”などではなく、むしろ一定距離を境にすると、逆に距離と共に速度が増大さえする(=威力が増大する)傾向がある事がわかる。
 こういう特徴によって、下の様な性能が得られる。この砲が活躍した時代の戦艦(最終世代の戦艦群)は概ね15000m〜30000m程度で戦う兵器なので、その付近の値に注目されたい。

舷側威力は距離と共に減少するが、甲板威力は増大する
甲板に命中する確率の方が大きい
ちなみに、乾舷を1としたとき、最大幅がその5倍として計算している。

 砲弾は遠くになると深い角度で落ちてくるようになり、甲板への威力が増大する事が理解出来る。遠くから撃った砲弾だから遅くなるなどとは言えないということは、先ほど確認した。よって、甲板の防御については、遠ければ安全というわけではなく、むしろ逆であるという点を押さえるべきである。
 このような事から、「舷側装甲は○○m以上、甲板装甲は××m以内で、□□という大砲から発射された△△という砲弾の命中に耐える」という風な表現になる。ここを基本として、想定される戦闘距離はどの程度で、その範囲と、そこへ到達するまでに貫徹されない事、といった風な考え方で装甲厚は決定される。決して「全ての距離で貫徹不能」などという事はしない。重量の無駄だからである。
 戦艦の場合、特に重要な「主砲」「射撃指揮装置」「司令塔」「機関」等を中央に集めて重装甲する「集中防御方式」が多く採用される。ただ、他の部分も伊達や酔狂で存在しているわけではないので、破壊されて良いわけではなく、それなりに装甲を施されるのが普通。

落角の違いは大きい
戦艦の装甲例(改装された初期の超弩級戦艦を想定)

 (主に水雷による攻撃で)水線下に被弾した場合は基本的に完全防御は無理で、なにがしかの浸水が発生する。これに対抗する水中防御は、それを大きくしない、エンジンのような大事な部分にまで広げない、という方針で施される。水雷等の破壊効果は爆圧と破片(水雷自体の弾片の他、破壊された自艦の外板も)の2種で、前者は空間により、後者は装甲や注水された空間などで防ぐ。また、帝国海軍が狙っていた「水中弾」は装甲による防御が必要。
 基本的に大きくすれば強くなるわけだが、それでも被弾すればなにがしかの浸水が発生するわけで、止めてしまえば中には(ほとんど)被害の及ばない、装甲による防御とは毛色が異なる。水雷(魚雷、機雷)、水中弾の他、砲弾爆弾の至近弾によっても、水中への被害が発生することがある。

戦艦の機動力

 戦艦に於いては、速力は重視されない。まずは火力と防御力が重要であり、これを疎かにするなら、敵戦艦に撃ち合いで負ける事になるからである。撃ち合いで負けるようでは、戦艦の意味がない。
 ところが、低速のために戦場に間に合わないとか、戦場に着いても味方艦隊に付いていけないとか、敵に振り回されるようでは、やはり困る。従って、味方の戦術とか、仮想敵の水準と適正なところで折り合いを付けていく事になる。
 また、戦場に到達出来ないなどというのも困るので、航続力も問題になる。太平洋の反対側まで出掛ける必要のあった米超弩級戦艦群などは重視していたようだ。相応の居住性も考える必要が出てくるし、当然嵐の海でも戦闘能力を発揮出来なければならない。これも一種の機動力と言える。

 

参考文献

NavWeaps
 以前はWarships1の一部だったサイト。古今様々の艦載火器を幅広く扱っています。情報量は多く、ここだけで大まかな事は全てわかるでしょう。英語サイトです。
 ちなみに、ここでグラフにして示している16インチMk.6砲のデータは、このサイトの記述から引用してます。
WarBirds
 日本最強の軍事サイト。見かけは二次大戦時の軍用機に限っているように見え、実際その方面も強いのですが、実際には軍事系の殆ど全分野をカバー出来るほど多くの博識な皆様が揃っています。基本的に日本語です。
 それから、多数存在する別館も興味深いですね。
「世界の艦船」誌各号/海人社
 国産の艦船総合誌です。軍民問わず、年代も問わず、船の事は何でも扱っています。記事の信頼性も(まあ一概には言えませんが)かなり高いようで、写真も豊富なほか、様々な増刊号も魅力です。「○○戦艦史」シリーズはお手頃で良いですよ。
 ウェブサイトもあるのですが、リンクは許可制とのことなので貼ってません。ググればすぐ見つかるので、そちらで探してください。
「日本の戦艦 上/下」 泉 江三氏/グランプリ出版
 他の艦種と合わせて軍艦メカニズム図鑑シリーズを構成する書籍です。分厚い本ですが2400円(上下巻合わせて4800円)と、まぁ比較的安価で、入手も容易なようです。
 主に技術的な面からの記述になっておりますが、図も多くて読みやすいです。従って厚さに怯む必要はないですよ。

 他にも沢山、書籍でもウェブサイトでもあるのですが、今回使ったのはこんなところです。ここで扱った事は本当に初歩の初歩、それも後期の戦艦に限っているので、深く知ろうと思われる方は、ご自分で色々と調べてみると良いでしょう。

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