遠雷
 突然、窓の外が強く光ったと思ったら、あっという間に嵐がやってきた。
 閃く雷光。轟く雷鳴。そして激しく窓を打つ雨。
 仕事の手を止めて外を見ていたら、ふと思い出した。
 20年前。高校1年生の夏。
 私は演劇部に所属していて、秋の文化祭に向けて、残り少ない夏休みを体育館の舞台で過ごしていた。
 体育館ではバトミントン部が練習していたので緞帳は上げられず、 役づくりのために伸ばしていた髪はまとめられるほど長くもなく、暑さは限界。着ていたTシャツは、絞れるぐらいに汗みずく。
 凍らせた麦茶が溶けるのを待ちきれず、水筒の形の氷柱を嘗めながら、舞台の袖から外へ出た。
 上手から下手へ抜ける狭いベランダの手すりに寄りかかって眺めていた空が急に光ったかと思ったら、いきなり嵐がやってきた。
 閃く雷光。轟く雷鳴。そして激しく降りしきる雨。
 ベランダにひさしはあるけれど、そんなもん役にたたない。
 どうせ汗で濡れてるんだからシャワーだとばかりに開きなおって、ずぶ濡れになりながら、あちこちに雷が落ちる度、意味もなく喚声をあげた。
 赤味を帯びた空に走る稲妻が、泣きたいぐらいに美しくて。
 あの頃一緒に空を見上げた友人や先輩には、もう連絡することもめったにない。
 あの頃描いていた未来とは、かけ離れたところで私は今を生きている。
 それなりに幸せではあるけれど、それでも時々帰りたくなる。
 人生のうちでいちばんバカで、いちばん楽しかったあの夏に。