| 熱帯の国で暮らしていた真夏のクリスマス。確か10歳の頃だったと思う。 会社から帰ってきた父が「サンタさんからことづかってきた」と今にして思えば笑える口上とともに手渡してくれたのは、View Masterという玩具のセットだった。 専用のフィルムをセットして覗くと立体的に見える、という他愛もない玩具だが、その日からそれは私の宝物になった。 大好きなスヌーピーのフィルムを、毎日繰り返し繰り返し飽かずに眺めて、1年と少し。帰国の日がやってきた。 思い出の詰まった荷物を船便に預け、日本に帰って1ヶ月。届いた箱は大きく破られていて、大切な玩具たちは消えていた。友人に貰った大事な人形も、弟が大切にしていたラジコンカーや戦車の玩具も、そしてあのView Masterのセットも。 弟とふたり、泣きながら親に訴えたが、なにしろ子供の玩具でしかない。治安の悪い国のこと、手癖の悪い港湾労働者が子供の土産に持ち去ったのだろう、との結論でそのままうやむやにされてしまった。 しばらくは悔しくて悲しくて、夢にまで見たけれど、どうすることもできずに年月は流れて、少しずつ日々の暮らしに思い出を埋め忘れながら私も大人になっていった。 それから20年以上が過ぎ、また巡ってきたクリスマスの季節。 いつものようにネットの海を彷徨っていて、流れ着いたWebサイトで、あのView Masterをみつけた。 フィルム付きの完動品、という商品説明に、誇張抜きで息が止まった。 迷わず注文ボタンを押し、待つこと2日。きっちりと梱包されたView Masterが、私の手元にやってきた。 震える指でガムテープを剥がし、箱を開けて、フィルムをセットし覗き込むと、子供の頃の記憶と寸分違わぬ映像が、目の前に広がった。 同時に目の前に広がるのは、もう連絡もとれなくなってしまった当時の友人たちの顔。家へ遊びにくるたびに「あれ、見せて」とせがんで、奪い合うみたいに覗き込んでいた幼い笑顔と笑い声。 23年ぶりの、思い出との再会。 コマを送る私の視界の中で、映像がじわりとぼやけた。 神様を信じることなどない私だが、クリスマスプレゼントだったView Masterがクリスマスの季節に帰ってきてくれたことが、不思議な魔法のように思える。 Merry Christmas。あなたにも、聖夜の魔法が降りますように。 |