猫舌の恋人
「うそ……」
「うへ〜合成シーンが随分あるなぁ、めんどくせーっ」
「役柄から行けば、まだ少ない方ではないか? TVの特番で良かったな。これが映画だったら、プラス特殊メイクだ」
「……どうして?」
「頼久はいいよなァ、ハデなアクションシーンも少ないからよ」
「跳んだり跳ねたりは若者にまかせるさ」
「友雅みたいなこと言うなよ」
「嘘だと言って!」
「……なんだよ? あかね、さっきから?」

 番組改編時期の目玉である三時間枠の特別ドラマに出演することになった業界の秘蔵っ子、元宮あかねは、少々変更されたから……と、渡された新しい台本を手に半泣になっている。
「ベ……ベッドシーンがある……」
「んなもん、最初っからあったぞ? 何言ってんだよ」
「私の台本には無かったもん。だから、出演することにしたのに……」
「ああ?」
 あかねと同じ事務所の天真は、少女の手から読み込まれてくしゃくしゃになっている台本をひったると、ペラペラと問題のシーンを開いた。
「……お前、これ、切り取られてるじゃん? 何で確認しなかったんだよ?」
「だって……だって、橘さんが……」
「友雅が?」
「ここは私に任せておけばいいシーンだから、君には必要ないからって……」
 天真とアクションスターとして名を知られている源頼久は、思わず互いの顔をまじまじと見詰めた後、同時に深い溜息をつく。
 天真は口の中で「お前がこんなラブシーン演るなんて、おかしいと思ったんだよな」と呟いてから、大きな目を潤ませている少女の頭をポンポンと撫でてから言った。

「あかね。お前、人の言う事丸呑みにするクセ、どうにかしろよ」
「……うわぁぁ〜〜〜〜〜〜ん」

 こうして、秋の三時間ドラマ『猫舌の恋人』の撮影は始まったのだった。









■SCENE 1

 一雨ごとに寒くなる。
 生命の息吹が輝く夏が過ぎ、木々の葉は次の世代の為に色を変え、実りを人々にもたらし、そして少し人恋しくなる、秋。
 そんな秋の小雨の中、友雅はマンションの入り口で震えている小さな白い仔猫を拾った。

「にゃう」
 白い毛が雨に濡れ、その細い身体にぴったりと張り付いていてうずくまっていた仔猫は、友雅の視線に顔を上げると小さく鳴いた。
 その弱々しい声は、この仔猫の命がもうそう長くないかも知れないと告げている。だからだろう、そこそこ人通りのある場所にもかかわらず、この白い猫は誰にも省みられなかったのだ。
 友雅はその小さな命を、己の高価な背広の中に抱き込むと自嘲的な笑いをその端整な顔に浮かべ、仔猫の身体をさすりながら囁く。
「女性を部屋に入れた事は無いのだけれどね? 君は特別だ。我が家に招待しよう。来るかい?」
「……にゃぁ」
 仔猫は友雅のシャツに小さな爪を引っ掛けると、その額を男の胸にこすりつけた。
「ふふ、それじゃ、行こうか?」

 生きる事に飽いた男と、生きる場所を無くした仔猫の、それが出会いだった。






 嫌がるかと思った風呂にもおとなしく入り、綺麗に洗った後ドライヤーでその身体を乾かしてやると、仔猫は見違えるほど可愛らしくなった。真っ白な毛に鼻先と肉球、それから耳がピンク色をしているその仔猫に、ぬるく暖めた牛乳をスポイトで与えると、ちゅうちゅうとそれに吸い付く。
「食欲があるなら、もう大丈夫かな? 今日は暖かくしてお休み」
 震えも収まり、お腹がくちくなったのか、小さなアクビをする仔猫にそう告げると、友雅はソファの一角に暖かそうなカシミアのマフラーで寝床を作ってやった。
 仔猫がそのマフラーをこそこそと掻いてから収まると、彼は自分の為にクラッシックをかけウイスキーを無造作に、胃に放り込む様に飲みだした。
 友雅は何をするでもなく、広い部屋の中で安らかな寝息をたてている小さな生き物を指の背中でゆっくりと撫でる。と、その白い毛玉が「くふぅ」と溜息をつく。
「……悪くはないね……自分以外の命の気配も……」
 そう呟いた友雅の顔はやはり少し自嘲気味で、この男の満たされない半生がちらりと垣間見え、彼の孤独の深さを表していた。

 橘友雅は恵まれた環境に生を受けた。
 彼は俗に言う『セレブ』だ。
 有り余る資産を受け継ぎ、今や個人の裁量では潰れ様が無いほど巨大化した企業の筆頭株主として、何不自由なく暮らしていて、他人に干渉されることを嫌う彼は、使用人もおかずマンションの最上階で一人で住んでいる。
 暇つぶしに個人で始めた輸入業も、軌道に乗ってしまえばもうこの男の興味を引く物では無くなってしまい、最近は目端の効く部下に任せきりで、彼自身は山ほど届く招待状を無作為に選び出しては、さして面白いとも思わないパーティで時間をつぶす。という日々を繰り返している。
 そんな彼に群がる人間は男女共に多かったが、彼が財を持つが故に近づく人間はおしなべて同じタイプの者ばかりだったし、尚悪い事に、友雅は容姿が人より抜きん出ていた。
 彼の財力と容姿しか見ようとしない人間に囲まれて、彼は誰もが羨む様な人生を、砂を食むような虚しさを伴侶に生きて来たのだった。
 その友雅の元に現れた白い仔猫は不思議な猫だった。
 出会った頃こそ弱々しかったが、日増しに快活に動き回る様になり、その可愛らしい仕草で友雅を和ませていた。だが、この仔猫は酷く人間の様な行動をする事があって、まず、名前をつけるときから変わっていた。
 気に入りの名前を呼ぶまで、この仔猫は返事をしなかったのだ。
 ほぼ半日を費やしてやっと応えた名前は『あかね』で、これもまたおおよそ猫に付ける名前にしては少々変わっていた。
 この『あかね』の好物がまた猫らしからぬもので、彼女はコーヒーに目がなかった。
 ある日、友雅が毎朝淹れるコーヒーを興味深げに見つめていたあかねは、カップの中の黒い液体をペロリと舐めた。もちろん、猫舌の彼女はしばしテーブルの上で跳ね回り友雅に大いに笑われたのだが、彼がソーサーに入れ充分に冷ましたそれをあかねの前に差し出すと、今度はマタタビを与えられた猫の様に気持ちよさそうにくねくねと転がった。
「カフェインとまたたびが同じ成分だとは、聞いたことがないんだがねぇ」
 半ば呆れながらも、朝の朝食代わりのコーヒーを一緒に楽しむ相手が現れたのは、友雅にとっては少々くすぐったさが残るものの、嬉しい誤算ではあった。
 あかねは友雅が居ない時は猫らしく丸まって眠っているようだが、何故だか真っ暗な暗闇を怖がり、彼の帰りが遅い日は玄関で心細そうに鳴いていて、その寄る辺ない姿は何者にも興味を持たなかった彼の琴線に触れ、友雅の夜遊びは除々に減って行った。
 それは、自分の顔と財産にしか興味の無い女と暇つぶしに寝る事より、闇をおそれて自分を呼ぶ小さな命と過ごす方が、彼にとって安らげる時が持てると知ったからだ。

 ……『あかね』は真っ白な仔猫だった。
 故に『友雅』と言う人間に一片の警戒も持たれず、彼の孤独な魂の中に彼女はまっすぐ踏み込む事が出来た。
 『人間』と『動物』は互いの温もりを求め、寄り添い合った。

 ……いつしか、それが全てに……何者にも代え難いものになると知らずに……



 
■SCENE 2

 漆黒の闇に浮かぶ半月の月。
 仔猫の為に付けられたルームライトが朧気な光を投げかけるリヴィングの窓に、あかねはちょこんと座っている。
 最上階の窓から見えるのは、隣のビルの屋上と街の灯り、帯の様に光る車のヘッドライトだけだ。
 その下界の光の海から、屋根、ベランダ、低いビルの屋上と黒い影が軽やかに駆け上がってくる。
「……」
 あかねは一歩後ずさると、いやいやと小さく首を振った。
 黒い影は何時しか仔猫の正面のビルの給水塔、その不安定な頂上に軽やかに降り立ったかと思うと、ゆっくりと立ち上がり、振り返りった。
 漆黒の闇に溶けるような黒いライダースーツにその逞しい身体を包み、黒いサングラスはその表情を隠し、彼が今どのような瞳をしているのか、夜、誰よりも目が利くはずのあかねにも見ることが出来ない。
「あかね殿」
 闇を縫うように低い声が仔猫の耳を打つ。あかねの身体がびくりと震えた。
「お探ししました」
 しかし、その声を振り切るように白い仔猫は窓からひらりと床に降りると、後ろを見ずにソファの影に隠れた。
「私をお忘れになりましたか?」
 黒衣の男は何時の間にか友雅のマンションのベランダに佇んでおり、その長身は月光を遮って、リヴィングに黒々と彼の姿を映し出している。
「さぁ、私と一緒に帰りましょう」
 そう言いながら長身の男はサングラスを外した。
 その瞳は金色。
「皆も待っています……私も……」
 そう囁きながら一歩踏み出すと、ロックが独りでにカチリと外れ窓がゆっくりと開く。ビル風がカーテンを吹き上げ、一瞬ひょぉと風が舞う。
 と、次の瞬間、玄関のチャイムが一度鳴らされ鍵の開く音が響いた。
 白い仔猫は一目散に玄関めがけて走り出す。
「あ……」
 男の声は、この部屋の主の声にかき消される。
「あかね、ただいま。いい仔にしていたかい? ……っと、こらこら、痛いよ。爪をたてて抱きつかないでおくれ」
 友雅の楽しそうな声が何事も無かったように元通りになっているリヴィングに響く。
「どうしてそんなに震えているの? カラスに虐められた? ……でも、もう夜だしねぇ、最近はあの意地悪なカラスも見なくなったし……いったいどうしたの?」
 愛猫をなだめようと、友雅はその背中を優しく撫でるが、仔猫の興奮は一向に収まらない。彼の背広に必死に爪をたて、しがみついているあかねの瞳には、遥か彼方、ビルの屋上に佇んでいる黒い影が映っていた。



「社長、もうお帰りですか?」
 友雅が個人で始めた輸入会社の最小必要限度の決済を終わらせると、彼は早々に帰り仕度を始めていた。
 ブリーフケースに書類を詰めながら、腕に上着をかけて社長室から出てくる姿に、社員は少なからず驚いた。友雅はどんな時でも悠然と構えており、こんな風に慌てている姿を彼らは見たことが無かったのだ。
「ああ、四半期の収支もちゃんと目を通したよ、順調だね。細かな支持は専務に出してあるから、君達は専務の指示に従ってくれ」
「そんなに急いでお帰りになるなんて……新しい恋人でもおできになったんですか?」
 美女と呼ぶに相応しい容姿の女性が皮肉っぽくそう呟くと、友雅は微笑みながら応えた。
「色白の可愛い子なんだけどね、先日から少しナーバスになっているから、側に居てやりたいんだよ」
「……では、どちらにおでかけでしょうか? デートの最中にお電話などいたしませんが、明日の会談予定なのですが、ロシア領事館の都合で時間が変更になりまして……」
「ああ、なら自宅に連絡を入れてくれてかまわないよ。彼女とは一緒に住んでいるからね」
 社内が一瞬シンとしたかと思うと、次の瞬間には男性社員の冷やかしの口笛が一斉に響いた。
 その口笛に丸めた書類で応えながら友雅は足早に会社を後にする。
 もちろんその後、彼の会社では社長の新しい色白の恋人に関して、あらゆる憶測が乱れ飛んだのだが、ただ一人、あの美女だけはその雑談には加わらず、爪を噛みながら窓の外をじっと見詰めていたのだった。

 橘社長の新しい色白の恋人、あかねは、いつもよりずっと早く帰宅した飼い主を驚いたように見詰めている。
「どうしたの? あかね? あんまり早く帰ってきて驚いたの?」
 あかねはとりあえず「そうだ」と鳴いたが、友雅はそのままベランダの窓を開けると、空を眺めた。
「あの意地悪なカラスはやっぱりいないね? それじゃ、あかねは何を怖がっていたのだい?」
 あかねはびっくりしたように友雅を見上げていたが、彼の早い帰宅の理由を知ると嬉しそうにその長い足に身体をすりつけた。にゃうにゃうと何度も鳴いて、その優雅な尻尾を友雅の足に巻きつける。
「こらこら、歩けないよ」
 友雅は笑いながら白い身体を抱き上げ、肩に乗せると、あかねが喉を鳴らして小さな頭を彼の頬に押し付ける。
 友雅はクスクスと笑いながら、人差し指で仔猫の頬を撫でた。
「臆病なお嬢さん? そんなに元気ならもう平気だね?」
 戯れる仔猫を肩に乗せたまま友雅がそう言うと、あかねは何度も頷いた。

 その日の夜、友雅は件の美女の訪問を受けた。訪問と言っても、彼が女性を玄関から先に上げた事は一度も無い。
 友雅が女性と関係を持つのはいつもホテルのスィートで、数え切れない程の共に夜の一時を過ごした女性たちは、誰も彼も一度もこの男のプライベートに触れた事が無かったのだ。
「すまないね、わざわざ。この程度の書類なら明日でもよかったのに」
「いえ、先に目を通して頂いた方が……」
 そう言いながら部屋の奥に視線を流すその有能な美女に、友雅は苦笑する。
「……君がそんな並みの女の様に振舞うとは、意外だよ」
 びくり、と頬が強張り、その表情のまま絞り出された女の言葉に、友雅は失意の表情を浮かべた。
「誰も……私ですら、この部屋には入った事がないのに……」
「君は、有能な我が社の社員だったはずだが?」
 この女性は一度だけ友雅と寝たことがあった。
 大人の遊びと割り切った一夜だったが、その後、彼女は友雅の会社へ三ヶ国語を操る通訳として転職してきたという経緯がある。
 仕事の出来る人間を個人の感情で処理するのは、企業人の友雅の矜持が許さなかった。が、必要以上にこの女性との関わりは避けていたのは事実だ。
 その有能で、そして危険な女の目がぎらりと光る。
「その女を出して!」
「……嘘だよ、この家に女なんていないよ、いるのは……」
 だが、女は靴を履いたままリヴィングへ向かって踏み込む。その暴挙を友雅が身体で阻むと、逆上した女は腕を振り回し、その長い爪で男の頬を引き裂いた。
「っ……」
 友雅が顔を背け、頬を伝う血を手の甲でぬぐうと、彼の背後からにゃぁと小さな声がする。
「あ……?」
 深いため息の後、仔猫を抱き上げ友雅は唖然としている女に向かって言った。
「可愛いだろう? 今一緒に暮らしている恋人だよ」
 友雅の言葉に女の顔から一気に血の気が引き、真っ青になる。
「橘さん……、私……」
「……残念だよ」
 女はその一言で、自分が一時の嫉妬で男のビジネス上のパートナーとしての立場も失った事を知った。
 ゆらりと後ずさる女の前でドアが静かに閉まる。
「にゃぁ……」
 あかねは小さく鳴くと、残された友雅の傷をそのざらざらする舌先でそっと舐めた。
「くすぐったいよ? あかね?」
 仔猫は友雅の肩に手をかけ、その頬に刻まれた傷をピンク色の舌で優しくなぞる。
「これくらいの傷、舐めれば治るって、そう言うのかい?」
 あかねが応えてにゃぁ、と鳴く。

 あの女性はきっと酷く傷ついただろう。
 だが、あかねは知っていた。
 友雅もまた、傷ついている事を……。
 血の滲む頬の傷よりも、もっと深い傷を癒せないもどかしさに苛まされ、あかねは闇雲に友雅の頬に己の小さな顔を擦り付ける。

『泣かないで……泣かないで……。貴方は一人じゃないわ……私が側にいるから……、だから泣かないで、友雅さん……』

 にゃぁにゃぁと、悲しげに鳴く仔猫の身体を優しく抱きしめて、友雅は微笑むとこう囁いた。
「大丈夫だよ、あかね。お前は優しいね?」
 彼はこんな風にして、少しづつ人生に絶望していったのだろう。
 どんなに恵まれた生活をしていたとしても、自分を理解してくれる人間が一人も側に居ない友雅の孤独を、この小さな生き物だけが知っている。

 あかねが大きな目を潤ませて、身体中で友雅を慰めようとするその姿を、遠くのビルの屋上から、金色の瞳がじっと見つめていた。
 




■SCENE 3

 友雅のマンションは彼が筆頭株主を務める企業の資産で、そのセキュリティたるや都内でも屈指を誇っている。故に、関係者以外がこのマンションの入り口をくぐる事はまずない。
 だが、ある満月の夜、友雅は一階のエレベーターの前で見知らぬ若い男に呼び止められた。
「あんた、白い猫飼ってるだろう?」
 出し抜けの断定に、友雅は眉をひそめた。
「……それが? このマンションはペット可のはずだけれど?」
「あ……」
 若い男は何かを言いかけたが頭をがしがしと掻き回すと、つっかえながらも話し始める。
「俺、あんたの家にいるあ……猫、知ってるんだ……」
「ほぉ? 私の部屋は最上階なのだがね?」
 友雅が皮肉たっぷりにそういうと、青年はとたんに真っ赤になった。
「べ、べつに覗いていたわけじゃねぇよ! えっと、ほら、窓に座っているのが隣りの屋上から見えたんだよ」
「君はずいぶん目がいいんだな」
 友雅の瞳が訝しげにその若い男を見下ろすと、気の短そうなその青年は更に顔を赤くして叫ぶ。
「だから! おめぇの家なんか覗いてねぇって! 俺はあ……! あ、あんたん家の猫が気になるだけだよ!」
 どもりながらもなんとかそう言うと、青年は友雅の手に小さな石のついたネックレスを押し付けた。
「これ、あ、あんたの猫に渡してくれ」
「え?」
「きっとだぞ!」
 そう言うと青年はまるで猫の様に、足音も立てずに一歩後ろに跳び去る。
「君?」
 友雅がその青年に声をかけるのと、エレベーターが一階に到着したのは同時だった。ドアがチンと言う音と共に開き、友雅の視線は一瞬青年から逸れる。
 その一瞬の間に、青年は友雅の視界から消てしまっていた。
 唖然とする友雅の手の中には、透明なムーンストーンのネックレスが握られていた。

「猫にネックレスをねぇ?」
 首を傾げながらも、管理人に入り口の監視カメラのチェックを命じた後、友雅は最上階の自分の部屋の鍵を開けた。
 家主の足音を聞き分けて、玄関ではあかねがちょこんと座って待っている。その首を中指でくすぐってから友雅は、まるで人間に話しかえるように、仔猫に語りかける。 
「そうそう、マンションの入り口でね、若い男から君宛に贈り物を貰ったよ? 箱入り娘のはずなのに、若い男をたぶらかすとは、なかなかやるじゃないか? 向いのビルから君を見たそうだよ、ほら」
 猫のストーカーと言うのも聞いたことがないが、友雅はとりあえず渡されたムーンストーンには何の害も無いと判断し、この宝石を手に入れた仔猫に差し出して見せた。
 友雅の手から、シャラシャラと微かな音をたてて宝石が転がり出る。
 そのムーンストーンは友雅にはわからなかったが、ブルーのアデユラレッセンス(光の散乱)を放つ小さいながらも上質の宝石だった。
 その透明な光は仔猫の瞳に反射して、あかねはとっさに「ぎにゃっ!」と恐怖の叫びを上げた。
「あかね?」
 聞いたことのない絶叫を上げながら、あかねはその光から逃げ出す。苦しそう痙攣したかと思うと壁に爪をたて、品のいい壁紙を切り裂いた。
「あかね!」
 今まで大人しかった飼い猫の突然の変貌に、友雅は仔猫を抱き上げようと腕を伸ばすが、それを目にすると、シャァっと威嚇し、あかねはリヴィングに駆け込んだ。
 友雅はあかねを追って、真っ暗なリヴィング、そして寝室に踏み込む。
「あかね! どうしたの?」
 





2004/09/15 9:00   5割り? げげげ……