4.無抵抗主義者

本文

クリストはまた無抵抗主義者だった。それは彼の同志さえ信用しなかったためである。近代では丁度トルストイの他人の真実を疑ったように。――

しかしクリストの無抵抗主義は何かさらに柔らかである。静かに眠っている雪のように冷やかではあっても柔らかである。……


無抵抗主義者・・・暴力に対し、抵抗することなく相手を感化していく。後年のガンジーが有名。クリストはユダが裏切るのを引き止めず、またパリサイ人たちに捕らえられても抵抗せずに十字架にかかった。

同志さえ信用しなかった・・・上記ユダを信用せず、またペテロが裏切ることまで予想していた。

トルストイ・・・トルストイが他人を信用しなかったといえば、芥川の作「山鴫」でツルゲーネフを疑うことが描かれている。


芥川はクリストに<無抵抗主義者>の側面も見出しました。弟子たちの裏切り、兵士たちによる嘲弄などを受けても抵抗しなかった姿のことだと思われます。

しかしクリストの無抵抗は、トルストイのような<疑い>とは違うものでした。相手を全く無視したところが、冷やかであり、また柔らかなのです。この章を<……>で終わらせているところに、柔らかさが伝わってきます。