5.生活者

本文

クリストは最速度の生活者である。

仏陀は成道するために何年かを雪山の中に暮らした。しかしクリストは洗礼を受けると、四十日の断食の後、たちまち古代のジャーナリストになった。

彼はみずから燃え尽きようとする一本の蝋燭にそっくりである。彼の所業やジャーナリズムは即ちこの蝋燭の蝋涙だった。


蝋燭の蝋涙・・・ろう涙とは、ろうそくが燃えることにより出てくる。ここの譬えは、ジャーナリズムとはクリストがみずからの命を燃焼させることで生み出したものであり、再び燃える命を持つ、という意味もあるかと思われる。


ここでロウソクに例えられるクリストの一生ですが、<情熱に燃えた>という言葉が各所に現れる通り、みずからの命を燃焼させている姿を芥川は見ています。

蝋燭といえば、正編の27には次のような記述があります。

 我々は蝋燭の火に焼かれる蛾の中にも彼を感じるであろう。
 蛾は唯蛾の一匹に生まれたために蝋燭の火に焼かれるのである。

ジャーナリズムを生み出すことによって、クリストの余命はますます短くなります。しかしクリストは<聖霊の子>として生まれたがために、自分の命を燃焼させてさらなるジャーナリズムを作り上げていきました。情熱に<燃えた>一生であることを、芥川はクリストを蝋燭にたとえることで表現しました。