2005/11/23
構造計算書改ざんに留まらない
渡辺秀美
ご指摘の点を確認検査機関について少しフォローする。
「建築確認」というのは、建築基準法(以下「法」と言う。または法名を省略する。)で「確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない」(第6条第1項)と定めらている「確認済証」のことである。
これを交付する「建築主事」は、都道府県または市町村に置くことが定められている(第4条)。しかしみなし規定(第6条の2)によって「国土交通大臣又は都道府県知事が指定した者」から確認を受け、確認済証を得てもよいとされる。
この点について投稿者は次のように指摘している。
「国土交通省が、特定行政庁以外でも民間の検査機関でも確認申請ができるように建築基準法の改悪で建築確認の規制緩和をしていまいました。民間の検査機関では本当に入念なチェックができるか不安でした。」
「国土交通大臣又は都道府県知事が指定した者」(民間の検査機関)とは、法第4章の2第2節「指定確認検査機関」であるが、その資格は「職員、確認検査の業務の実施の方法その他の事項についての確認検査の業務の実施に関する計画が、確認検査の業務の適確な実施のために適切なものであること」(第77条の20第2号)といった一般的な要件をみたすことであり、この法による罰則は、おおよそ50万円以下の罰金である。
この法制度のもとで何が起こったかを見よう。
「建築確認を代行した民間の指定確認検査機関は、こうした単純で重大な不備を見落としており、同省では検査機関に対し、建築基準法に基づく行政処分を検討している。検査機関は同省に対し「審査の方法に誤りがあった」などと説明している。……
偽造物件21棟のうち20棟の建築確認を代行した「イーホームズ」(東京都新宿区)は、読売新聞の取材に対し、「偽造は巧妙で、簡単には見破れないものだった。当社としては適切な業務を行っていたと思っている」と説明。」(読売新聞05/11/18)
民間検査機関が「当社としては適切な業務を行っていたと思っている」と言いはる中で、すでに数百億円の損害が発生し、あはや人命にかかわるところであった。国交省の処分が同法による以上、資格取り消しと100万円規模の罰金ではないのか。損害との懸隔が甚だしい。
このやり方は次の同法の目的を達成しているとは言えない。
「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。」(第1条)
投稿者は、こうした不首尾を引起す現場の実態を次ように指摘している。
「ゼネコンや大手デベロッパー、工務店、大手設計事務所が、構造設計事務所にコスト削減と設計料のダンピング、短期の納期を迫ったりなど十分な耐震設計が疎かになります。」
建築業者等から申請書を受け取る民間確認検査機関は、異議を述べれば仕事が取れなくなるし、細かい検査をするほどコストがかかるので、ロクに検査をしないでOKをだすのが、検査機関の「利益」にかなうことになる。
姉歯建築士は動機等は次のように述べている。
「偽造を始めた理由について「オーナーや元請けの設計会社からコストを下げるようにというプレッシャーを感じ、鉄骨を数本減らすなどした設計をするようになった」などと話した。…
「仕事がなかったわけではなく、金に困っていたわけでもない。しかし、偽造をするようになってから、実際に(構造計算の)仕事が増えて、その処理に追われる中で住民のことも考えなくなった」」(読売新聞05/11/18)
建築確認(検査)を自治体(または公的機関)で行なう、罰則の強化、複数機関での検査など、改善の余地はある。また必要な改善はすべきである。法に基づく政府の責任も当然ある。しかし、ことが起きたら損害を財政で保障することは安易にはできない。なぜなら、財政とは税金であり、マンションを一生購入できない人も納めた税金から支払われることになるからである。原則は損害を与えたものが弁済すべきである。住宅に関して保険の適用範囲を拡大することも検討すべきであるが、その場合モラルハザード防止も必要である。
こうした構図は建築確認制度に限ったことではない。公認会計士、欠陥自動車に関しても幾度か見てきた。様相は異なるが、道路公団、社会保険庁、公害、たばこ、アスベスト、過密ダイヤなど現場関係者が知りつつ、損害を与えてきた。
今までの制度の不十分さがあり、また次々と新しい問題が発生したり、技術の発展とともに事業規模の拡大等によって損害が巨大化、深刻化するという問題も生じている。こうしたことに対して制度の見直し、改善は常に行なわれなければならない。
大きなシステムを少数が開発、運用する場合、その場限りの費用対効果だけでない、損害に対する安全性、システムに対する人間のより広い視野をもった認識、そこから来る責任感(これはモラルとも言える)などが、高度生産技術に追いついていないのではないだろうか?瑕疵、違法を見逃す「理由」(口実)に、会社の存続、競争、省益、権益の保持、雇用の維持、家族を養うため、住宅ローンを払うためなどが挙げられ、なかばやむを得ないという雰囲気が暗にある(「身内」でもらされる)。これに逆らえば、倒産や失業を防いでくれるのかと開き直られるのが現状である。
しかし、我々はこのジレンマを解いていかなければならない。[以上05/11/23]
ここで1つの疑問が湧いてくる。幾ら制度を改善、強化、追加しても結局最後は個人の倫理意識に依存するのであるから、国民のモラルを高めなければ問題は解決しないのでないかという疑問である。確かに国民全体のモラルが高まれば解決に近づくことは事実であろう。特に日本では儒教は廃れ、宗教も希薄になっている。キリスト教が影響力をもっている欧米ではどうであろうか?キリスト教かるくる職業倫理によって今回のような不正が防止されているのかと、オーストラリア人に聞いてみた。答えは意外であった。
欧米でも消費者(個人)は企業を信用(信頼)していない。だから企業は信頼をうるべく、厳格な経営と宣伝にこれ努めている。問題を起こした場合、企業自体はもちろん、監督官庁の責任も厳しくとわれ、罰せられる。ある意味で(狭義の)モラルに頼っていないのである。企業や官庁は信頼できるとは限らない。その前提(認識)の上に立って問題をどう防止するかを思考しているようである。
直接の責任は住宅等を販売した建設業者が負うべきである。そのため住宅品質確保促進法(品確法)に定められた瑕疵保証制度もある(今度は業者の加入義務も必要であろう)。ここで論じたいのは、建設業者は、自治体または指定確認検査機関の検査を受けたと主張し、住宅購入者はじめ国民は、国が法律で定めた住宅建築基準と、国が定めた検査体制があるから安心できるはずだと今まで理解してきた。
しかし、県の検査さえ杜撰で実効性がなかった。このことは国が定めた検査制度は(安全だという)建前であって、現実ではないということである。(実効ある)検査をしてこなかったということである。初歩的、形式的な基準との照合、単純な数値計算程度を調べていたことになる。それでなぜ検査機関は合格(OK)を出せたのかという問題になる。「巧妙」「複雑」だった、忙しかった、検査プログラムを持っていなかったなどとの言訳がされる。そうなら、それは、その官庁または検査機関が合否を判定できない(能力がない)ということであって、「合格」では断じてない。少なくとも現在の技術水準ではビルに関しては、データを再入力して、検査機関が所有するプログラムで再計算しなければ、合否を判定できない。
結局、検査機関が実質的検査をせずに合格印を押せば、合格になるのが今(までの)仕組みである。検査機関(役所も含む)は合格とした根拠を保存し、開示しなければならない。業務に関して個人も企業も委員会役所も根拠なしに勝手なことを言ってはならない。前提(法令、規則など)があり、これを対象データに、定められた必要充分な手続きに従って適用した結果を判断としなければならない。知らないのに知っていると告知していたのである。認証などには、論証(根拠の1つとして)が不可欠である。
今回の件では論証するための検査方法と検査手続きを明確に定め、これを厳格に実施することが肝要である。検査機関の恣意、裁量などは厳禁しなければならない。こうした検査方法と手続きの違反に対しては厳格な処罰を課すべきである。今回の件では検査機関に対しては罰金、役所では口頭謝罪、担当者の配転、減俸程度が予想される。業務が裁量に任されると責任もあいまいになる。
わが国は和を尊び、他人(特に役所)への信頼(させられる)を前提にする精神風土があった。しかし、危険や巨大被害にかかわることについては、旧来の信頼だけでなく、客観的な法令、検査方法、手続き、論証、証拠によっても守っていくことが必要になっている。[05/12/04]