2005/11/11
未定稿
仏移民暴動に見る日本の課題
渡辺秀美
 はじめに

10月27日夜から続いているパリを中心とした移民の暴動は重要な問題をはらんでいる。本稿は、国際問題としてではなく、社会民主主義が直接とりあげなけ ればならない問題として提起する。暴動の要因と背景に注意は払わなければならない。日本の新聞などでは余り詳しく報道されていないが、事態の内実は深刻で ある。
 暴動を起こしたのは、アフリカ・アラブ系移民の息子達と伝えられている。親はそれなりの覚悟と仕事の目途があって仏移民となり、不況期の失業が増えて も、多くは仕事を 続けていると推測されるが、仏で生まれ育った2世、3世は当初から就職が困難である。大量の失業と貧困、加えて進学の困難、スラム様相となる住居、生活空 間、こうした状況が将来への希望を 失わせ、モラルの「喪失」、怒りの激発へと繋がっていった。

  経緯と問題の所在

 暴動の様相は日本でも比較的報道されているので、移民の若者をとりまくこうした状況、原因の分析を中心にIHTの記事によって見ていこう。

  「CLICHY-SOUS-BOIS,  France:  パリのこの荒廃した北郊外にあるビラル(Bilal)モスク周辺にいる人々に話しかければ、何が間違ったのか、なぜ暴徒は1週間も車に放火し、投石し、発 砲さえしながら、夜通し街頭怒りを暴発させて警官とぶつかり、この10余年来のフランス都市部での最悪な騒擾をなったかを語ってくれる。
 きらびやかなフランスの首都を取り囲むみすぼらしい移民居住地域での生活からくる貧困と絶望をのり越えるべく、暴徒化した若者に影響力をもつ者のは全く いなかった、と地域のイスラム人は言う。 彼らは、親たち、警察、そして政府は接点を失っていたと言う。
 木曜日、暴徒がシラク大統領の平静を呼びかける訴えを無視し、初めて警官に発砲した後、政府は終日緊急閣僚会議を開いた。しかし、ドビルパン首相が『法 と秩 序が最後の力をもっている。」と明言したにもかかわらず、夜になるにしたがって警察はいっそうの暴力に備えていた。
 週の初めに比べて激しさは弱まってきたとはいえ、騒擾は木曜で八夜連続で燃え上がった。APによると、若者達は、Neuilly-sur-Marneで 機動隊の車に向けて散弾銃を発砲し、30 - 40人の集団は Stain 東部でシナゴーグ近くにいた警官を襲撃したと、Seine-Saint-Denis の最高責任者である Jean-Francois Cordet 警視総監(Prefect)は語った。
 パリ首都圏で、前夜より多い、少なくとも400台の車が放火されと、当局者(複数)は述べた。しかし、不安定なパリ北郊外全域に配備された警 官との直接衝突は減った。
 Clichy-sous-Bois にあるBilalモスクに催涙ガス手榴弾が落ち、警察に対する憤激をまねいたが、このモスクで木曜火夜おこなわれた、1月間のラマダン断食明けの祝いは、 広がる混乱からくる暗雲に覆われていた。
 このモスクに集った人々の暴動に対する見方は様々だったが、副導師から地域協議会職員、正午の礼拝を終えて出て行く人々まで全ての人は、混乱が道徳的権 威の喪失によって増幅されたという点で一致していた。
 『これら年少者に対して権威を保とうとするなら、彼らから尊敬を得る必要がある。しかし、権威の正常な全経路はずっと以前から尊敬を失っていた』と、こ の町に20年住んでいる Ali Aouad (42才)は言った。『彼ら若者は政府から無視されていると感じている。警察は彼らを刺激したのだ。』
 Azouz Begag 機会均等(担当)大臣は、彼自身 Lyon 近くの移民家庭で育ったが、ここでは権威を全くもっていないと、住民が言った。
 『彼はどこに居たのだ?彼は何の、また誰の代表でもない。』と、自分を H2B とだけ名乗った Algeria 系若者は言った。『彼[Azouz Begag]は、我々のために何もしなかった。そして今 Sarcozy』仏内相『を批判することによって、その埋合わせをしようとしている。しかし、遅すぎる。』
 危機は仏政府の最高レベルにまで及んだ。そこでは最重要閣僚の2人、Nicolas Sarkozy と Villepin が暴力にどう対処するのかをめぐって激論し、両者とも暴力の統制に失敗し、非難を浴びている。」IHT051105

 以上で記事の半分程度になるので、著作権の関係からこれ以上引用できないが、ぜひ IHTを読んでください。
 仏の移民政策(の失敗)が暴動の大きな要因となっているとする厳しい批判が以下の記事に表れている。

 「[米と]対照的に仏の施策は現在まで、貧しいイスラム教徒に支給する多額の食費、住宅、教育費に依存してきた。
 しかし、それは、彼らが仕事と住宅での差別から感じる、社会的、政治的孤立(感)にたいして有効に応えてこなかった。そして、それ[施策]は、彼ら[イ スラム教徒]が政治に関与する集団として自分達自身を明確にする能力を制限してきた。
 米での取組みの要石である、積極的差別是正措置(affirmative action)は、ここ仏ではタブーだった。
 ここ数日の暴動にみまわれ、荒廃しているパリ南郊外にある E'vry の議員を兼ねる Manuel Valls 市長は、次のように分析した。『我々は、統合モデルの失敗とともに、人々にとって登っていける階段のない、ゲットー化1という最悪 の結果を招いてしまった。』
 『米英では、共同体は昇進機会をつくる手助けをしている。』と彼[市長]は続けた。しかし、仏では、『国と政治家は、実際の現場を政治・宗教的対応に明 け渡してきた。それは否定できない。』
 それでもなお、仏の困難は比較的最近のことだから、仏は、米での深刻な問題を回避できるチャンスがあるかもしれない。
 その1つは、これら[仏の]居住地区の物質的条件は、米の都市貧困地域のように[ひどく]はなっていないことである。最低の[仏]政府開発住宅地におい ても、緑の芝生と小綺麗いな花壇が、単調な灰色コンクリートの合間に見える。
 仏にはこのような地区が700以上あり、人口の8%にあたる500万人が住んでいる。
 米の少数派貧困地域の学校と比べてより良い仏の学校は、こうした低所得者向け公営住宅団地[住民]の絶望を和らげてきた(仏では教育費は、住民税によっ てではなく、国家予算でまかなわれる)。
 政府が補助するアパートに住む標準的4人家族は、雇用されていても、家賃を月$200-300払うだけで、種々の援助を月$1,200以上受けることが できる。失業者はもっと受け取る。医療費と教育費は全員無料である。 」IHT051107 

   低所得者にたいする仏の福祉政策は日本より徹底していることが見受けられる。しかし、福祉給付は行なうが、結果的に集団として閉じ込め、自立と共存を支援 しない(ゲットー化といっている)政策に基本的誤りがあったことが明らかにされている。
 さらに、次の記事は、社会を構成する理念にまで踏み込んで分析している。

 「仏市民権制度にも問題がある。米が多元[的共存]主義(pluralism)に重点を置くのに対して、仏は、仏政体を民族的相違によって傷つける虞れ のあるもの全てを妨げ続けてきた。『共同体主義(communautarisme)』という言葉は、ゲットー化とおおまかに[英]訳されるが、なかんづく 米を当惑させる有害な影響力をもつとしてフランス人全てに知られている。
 政府との対話においてイスラム系フランス人を代表できる全イスラム人組織の結成を仏政府が歓迎したのは、やっと2003年である。あらゆる形の積極的差 別是正措置を禁止し、イスラム教徒女生徒が学校でヴェールを着用するのを禁ずるような手段で[民族・宗教的]文化を抑圧することによって、政策全般はイス ラム教徒の憤りを増大させただけである。
 米と同じように、多数の専門家は、長期的には完全雇用が問題を解決し、統合を加速する最良の道であると同意している。米と仏の少数派集団の歴史はたいへ ん類似している。
 アラブおよびアフリカ系フランス人の失業率は、ある地域では全国平均の3倍の30%にも達する。
 アラブ系フランス人は、履歴書(identicalrejume)を、1つはアラブ名で、もう1つはフランス名で提出すると、フランス名の方が優先され ると、きまったように主張する。」IHT051107

 少数派に金は出すが、ゲットーに閉じ込め、政治、文化、高度技術術などは旧来のフランス人が独占するという体制がゆきづまったことを今回の暴動が露にし たと言える。民族や宗教によって就職などが差別(または閉ざ)され続けるのなら、アラブ、アフリカ系の青年はどうすればいいのだろうか。就職や社会参加の 機会が開かれている(公平である)からこそ、若者は勉学や活動に意欲をもち、努力することができる。

 日本の課題

 日本はこうした問題に無縁だとは決していえない。現に外国人労働者の就労条件、人権などで発生している問題は拡大していく虞れがある。民族に係らなくと も、部落差別、障害者、季節労働失業者などでは、社会保障や是正措置が遅れただけでなく、それぞれ地域や家庭内、地区などに結果的にではあれ「閉じ込め」 ていたことを忘れてはならない。

 さらに、非正規雇用者、フリータ、失業者、ニート、生活保護受給者、高齢者は、ちゃんとした条件の働き場所、再起・向上の機会、人との触合いから排除さ れ、全くではないが、家や施設内に「閉じ込められ」ているといえる。
 以下、本稿では非正規雇用の問題を取上げる。 Abe05
 社会は、不正規雇用のをもたらす公正平等な雇用機会からの排除をどのように説明できるのだろうか。現に正規雇用で就労している人々と同等(または以上) の (full time で働く) 能力と意思をもっているにもかかわらず、若者は、どうして自分が非正規雇用なのか、アルバイトなのか、就職できないかについて、まともな説明を見出すこと も受けることもない。人間が社会的存在だというのなら、社会は若者にたいして説明しなければならない。非正規雇用者は昨年、次のように、雇用者の31% (1500万人)にもなり、極めて大きな問題となっている。
 「総務省統計局「労働力調査(詳細結果)」によると、2004年には役員を除く雇用者(4,975万人)のうち、正規雇用者が3,410万人 (68.5%)、パート・アルバイト、契約社員、派遣社員等の非正規雇用者が1,504万人(31.4%)となっている。役員を除く雇用者数に占める非正 規雇用者の割合を男女別にみると、男性は16.3%、女性は51.7%と、女性では半数を占めている。また、非正規雇用者の人数、割合とも前年を上回って おり、非正規雇用の拡大が続いている。」MWL04
 10年間の時系列をみると、非正規雇用の大勢はパートが占めるが、最近は契約社員・嘱託等の急増が顕著である。表1契約社員と は、「特定職種に従事し専門的能力の発揮を目的として雇用期間を定めて契約する者」(厚労省の定義)であるが、パートより厳しい労働条件にもなりうる。
  非正規雇用と正規雇用の1時間あたりの賃金は、2.5倍の格差がある。表2非正規雇用者が正規雇用者と同じに月 170時間働いたすると、賃金だけでみても、非正規雇用者の17万円対して、正規雇用者は41万円になる。実際には、年金と医療保険の事業主負担、退職金 積み立て、休暇制度などの違いを加えると、格差は3倍前後と見なければならない。
 こうした格差の理由として、非正規労働は責任が軽い、非専門、定型、単純、季節、繁忙期の臨時、家事との両立(できる時間帯)などが持ちだされる。これ らの理由に該当するケースがあることは事実である。しかし、非正規雇用者1500万人の相当部分が、責任をもった仕事で、自分の専門を生かし、full- time での継続的就労を望んでいるいるにもかかわらず、非正規雇用しか得られないころに問題の核心がある。加えて上記の責任、定型などの理由に基づく格差が何故 3倍(または2.5倍)であって、1.5倍でないのかの説明はない。
 これに対して次の主張がありうる。
 正規労働者が法律で保護、確立されている団結、団体行動権に基づいて契約した(賃金、解雇制限をふくむ)労働条件や先任権は、正当なものである。非正規 労働者や労働予備軍(失業者、ニート等)をつくり出し、採用しているのは資本家であるから、非正規労働者は正規労働者と争うのではなく、政府、資本家と 闘って労働条件の改善を得るべきである。正規労働者も彼らの雇用条件向上のため努力している。さらに、正規労働者といえども労働強化と搾取で生活は楽では ない。資本主義に根本的原因がある。
 この言い分はそれなりに理屈がとおっているように見えるが、理屈にとどまっている。すなわち、正規雇用者等のこの主張によって、例えば10年で格差が半 減する見通しを誰も持てない点に基本的問題がある。きちんとした(責任ある)主張なら格差是正の具体的目標とそれへの達成計画があるずである。
 たとえば、現在2.5倍の賃金格差を10年で2.0倍まで、つまり年に5%引下げる案である。現在の両者の構成比率(3 :7)と賃金比率(1 : 2.5)を乗ずると、その比は(1: 6)なので、賃金格差是正の負担をすべて正規雇用者がする仮定では、正規雇用者は初年度は賃金の0.7%を負担し、次年度には0.7%追加し、10年後に は賃金の7%の負担となる。企業や財政負担を仮に年0.2%とすれば、正規雇用者の負担が年0.5%、10年後で5%,となる。実質経済成長を2%とし、 労働分配率が同じとすれば、実質賃金2%のうち 0.5% をふりむけるのであるから、非現実的な数値ではない。このための政策手段は、最低賃金の引上げ、所定外労働時間の規制、諸手当ての見直しなどから始めるこ とができ、種々あるうる。
 ところが、実際にはこうした具体的目標と計画はない。 そもそも非正規格差は、形式的(機会の)平等に背馳しているところに基本的問題がある。つまり、同一労働差別賃金や、雇用機会不平等が大量(全雇用者の 30%)、かつ長期に続いていることである。実質的不平等とは厳密には、公正な労働市場において、技術・資格などの能力や経験等の差に基づいて賃金格差が 生ずることである。存在するのがこの(狭義の)実質的格差だけなら、若者達は(全てでなくとも)進学や研修に努力し、希望を持つことができる。しかし、形 式的不平等によって排除され続けるなら、若者の相当部分が挫折、諦めに陥る。そのとき若者は、政府、社会、大人、企業、正規労働者等に対する敬意を失わ れ、それらに権威を見出すことはできなくなる。
 機会不平等が引起すものはここまでは、仏での暴動と日本の若者がおかれた状況において基本的要素を同じくしている。日本において次は暴動だなど言うつも りはない。暴動ではなく、軽蔑、無関心がいっそう広がり、活力とモラル(どのようなモラルかは別として)の低下をまねき、社会全体の退廃と衰退の要因とも なりうる。
 世界と日本は、貧困、癌、エイズ、SARS、環境、核兵器廃止、科学、文化の発展など若者の挑戦を待っていることがたくさんある。こうしたに大きな課題 に取り組むためにも、すでに久しく原理(理念)として確立され、実現方法(政策手段)も明らかなはずである雇用機会平等は一刻も早く実現しなければならな い。

表1 雇用形態別雇用者数
(単位 万人、%)

役員を除く雇用者
正規の職員・従業員
非正規の職員・従業 員

パート・
アルバイト
派遣社員、契約社
員・嘱託、その他
うち派遣社員
1995
4780
3779(79.1) 1001(20.9) 825(17.3) 176(3.7) -
 96
4843
3800(78.5) 1043(21.5) 870(18.0) 173(3.6) -
 97
4963
3812(76.8) 1152(23.2) 945(19.0) 207(4.2) -
 98
4967
3794(76.4) 1173(23.6) 986(19.9) 187(3.8) -
 99
4913
3688(75.1) 1225(24.9) 1024(20.8) 201(4.1) -
2000
4903
3630(74.0) 1273(26.0) 1078(22.0) 195(4.0) 33(0.7)
 01
4999
3640(72.8) 1360(27.2) 1152(23.0) 208(4.2) 45(0.9)
 02
4940
3489(70.6) 1451(29.4) 1053(21.3) 398(8.1) 43(0.9)
 03
4948
3444(69.6) 1504(30.4) 1089(22.0) 415(8.4) 50(1.0)
 04
4975 3410(68.5) 1564(31.4) 1096(22.0) 468(9.4) 85(1.7)
MWL04, p.14、第16表から抜粋

表2 雇用形態間賃金格差


パート労働者1時間
当たり賃金&(円)
現金給与総額(月 額:円)
総実労働時間
1時間当り賃金#
パート労働者
5人以上規模
一般労働者*
5人以上規模
パート
労働者
一般
労働者*
一般労働者* パート
労働者
格差
(倍)
  1993 1,046 832 93,719 396,218 98.7 170.4
2325
950
2.45
    94 1,037 848 94,206 403,379 97.7 169.7 2377
964
2.47
    95 1,061 854 94,704 408,425 97.8 169.8 2405
968
2.48
    96 1,071 870 94,716 413,573 98.0 170.8 2421
966
2.51
    97 1,037 871 94,735 422,678 96.8 168.8 2504
979
2.56
     98 1,040 886 95,026 419,095 96.8 167.5 2502
982
2.55
    99 1,025 887 92,870 416,867 94.9 167.4 2490
979
2.54
  2000 1,026 889 95,226 421,195 94.9 168.8 2495
1003
2.49
    01 1,029 890 94,074 419,480 96.2 168.1 2495
978
2.55
    02 991 891 93,234 413,752 95.1 168.1 2461
980
2.51
    03 1,003 893 94,026 414,089 95.9 168.7 2454
980
2.50
    04 1,012 904 94,229 413,325 95.8 170.0 2431
984
2.47
& この2列はMWL05、第14表、他の列は MWL06による。
* 「一般労働者」とは、パート以外の常用労働者をいう(「毎月勤労統計調査」での定義)
# 現金給与総額 / 総実労働時間 によって計算した。


1 ghetto ジーニアス英和大辞典によると次のとおりである。
 1 (ヨーロッパ各地にあった)ユダヤ人(強制)居住地区、(ある都市の)ユダヤ人街
 2  少数民族のスラム街《米国では主に黒人・プエルトリコ人のスラム街》
  3 差別される人々の集団[階級]
Abe05 阿部知子(社民党政審会長)は、TV討論会で年金等に関してパート、フリータの問題を熱心に繰り返しとりあげてきた。 
IHT051105 International Herald Tribune, 'In Paris suburbs, untamed anger riot', by Katrin Bennhol 、日本語訳は拙訳です。
IHT051107 International Herald Tribune, 'In French underclass, no way to move up'', by Craig S. Smith 、日本語訳は拙訳です。
MWL04 厚労省 「平成16年版労働経済の分析」
MWL05  厚労省「平成16年賃金構造基本統計調査(全国)結果の概況」
MWL06  厚労省「毎月勤労統計」 JIL DB から引用した。