都市化と水環境

 
人間にとっての水と水辺の役割は,文明の発達とともに拡大し,生命維持のための飲み水や食料摂取のための水辺から生産活動のための農業・工業用水という生産基盤としての水が求められるようになってきました.そして,さらに現在では「水辺の存在自体」に価値がある景観形成や微気象緩和,生物生息といった役割やレクリエーション機能,非生産(非日常)的利用である災害時の防災利用などが注目されいます.ここでは,都市化の進展と共に水辺が機能的にどのように変化してきたのかを,地域の変化と対応をあわせてみていきます.都市化による水辺環境の変化には「水質汚濁」や「水域減少」といった事例が挙げられます.ここでは,水域減少に着目して,東京都区部を事例に,"どの地域"の水辺が"どのような過程"で変化してきたのかを見ていきます.

CONTENTS

−地図でみる水域変化の様子
−東京都区部の水辺地域分類
−写真でみる水環境・水利用の変化

●地図でみる水域変化の様子
 
東京都区部(特別区23区)の河川・水辺のある場所を地図でみてみると,全体的にそれらが随分減少していることが分かります.東部の地域においてかつて毛細状に展開していた河川・水路の減少が著しい反面,しかし,東京湾岸に埋め立てが進み,お台場をはじめとする新たな水辺(ウォーターフロント)が展開していることがわかります(作図:坪井塑太郎).

1919年 1932年 1970年 1980年


●地図でみる水域変化の様子
東京都区部を流れる河川や水域をそれらの立地と水系を考慮して右図のように水辺地域を五種類に分類して特徴をみていきます(分類名称 by 坪井塑太郎).
 東部川手水辺地域(足立・葛飾・江戸川) A地域
 湾岸運河水辺地域(江東・墨田・中央・港・品川) B地域
 西部山手水辺地域(練馬・杉並・中野・板橋) C地域
 都心遺構水辺地域(千代田・中央) D地域
■ 城南山手水辺地域(目黒・大田・世田谷) E地域
※ A地域(荒川・新中川・江戸川・綾瀬川),B地域(隅田川・横十間川),C地域(石神井川・白子川・善福寺川)D地域(外濠・内濠),E地域(目黒川・呑川)

東部川手水辺地域
 この水辺地域は,沖積低地にあたりかつては水害の常襲地域でもありましたが,1910年に着工し20年の歳月をかけて完成した荒川放水路(現:一級河川荒川)や1963年に完成した中川放水路(現:一級河川新中川)など水害対策事業が継続的に進められました.
 また,地形的条件から1970年代半ばまでは水田を中心とする農業が展開していましたが,東京オリンピック(1963年)を契機に急速に広がりつつあった宅地化のなかでそれらは徐々に衰退し,代わって市街地の中で集約的かつ収益性の高い,コマツナ,ほうれん草などの葉菜を中心とする「都市農業」が展開することにより,それまで灌漑用として利用されてきた河川・水路(農業用水路)はその役割を終え,徐々に埋め立てが進んで減少していきました.こうした中で,下水道の普及率が都心部に比べやや遅かったため,一時期は水路への家庭排水の流入による汚濁が深刻化しましたが,近年その普及が行き渡り,現在ではかつての農業用水路跡を再生した「親水公園」として整備している様子を見ることが出来ます.

沿岸運河水辺地域
 江戸湊,木場を原型とし,埋立地造成に伴う人工的に創出された水辺で,水運(舟運)から陸運への交通形態の変化により,水上交通としての機能は減少したため一部は埋め立てられるものもありましたが,オフィス街と集合住宅地の混住地区に立地するものが多く災害時の活動施設としてリバーステーションが整備されている様子を見ることが出来ます.また,近年では,大型コンテナ輸送基地としてガントリークレーンを擁する国際埠頭が整備されたり,国際会議,展示場や住宅,オフィス,観光地機能を有する「お台場」のウォーターフロントが展開し,新たな都市の機軸にもなっています.

西部山手水辺地域
 東京緑地計画(1939年)において位置づけられた河川緑地空間は,しかし急速な市街地化による雨水等の不浸透域が拡大した結果,沿川地域では1960年代以降都市型水害が頻発し,最近では河川の水位が上昇したときに洪水の一部を流入させて貯留する「地下調節池」が整備され,下流部で川が溢れるのを防いでいます.中でも、神田川環状七号線地下調節池は,水害の頻発している神田川中流域の安全性を向上させるため、環状七号線の道路下に延長4.5k m、内径12.5 mのトンネルを建設し,神田川と善福寺川の洪水約54万立方mを貯留するものです。現在までに約24万立方m分の施設が完成しており,さらに30万立方m分の整備が進められています.

都心遺構水辺地域
 旧江戸城の濠や水路を原型とし,東京都心部(千代田区,中央区)に位置するこれらの水辺は,終戦後の都心の戦災残土処理場として投棄の対象地となったほか,東京オリンピックを契機にその多くが首都高速道路高架の橋梁設置場所として利用されていくなかで,徐々に水域が減少していきました.しかし,これらの水辺はオフィス街に近く,憩いの場としての他,防災用水,防災避難空間や最近ではクールアイランド効果が期待されるなど貴重なオープンスペースにもなっています.(右写真 東京都千代田区外濠公園 JR市ヶ谷駅下車)

城南山手水辺地域
 この地域の水辺は,西部山手水辺地域と同様河川周辺からの汚水流入による慢性的な汚濁に陥っていたことから1961年にその昭和年号から名付けられた,通称「36答申」により不要河川の埋め立てや覆蓋化が進められ水域が減少していきました.しかし,本地域も都市型水害の発生が懸念されており,石神井川から本水辺地域の目黒川に至る「地下河川ネットワーク」の建設による局地的豪雨水害への対応が進められています.また,清流復活事業の一環で下水上の処理水を通水し,小川を復活させる事業の試みも行われています.


●写真でみる水環境・水域の変化
都市化による水利用の変化−洪水対策(治水)→農業用水(利水)→親水公園(環境)−

 食糧生産基盤としての農業用水の歴史は古く,水管理には組織や規律(水利権など)が厳格に定められていました.しかし,わが国の高度経済成長以降,農地の宅地化が急速に進み,農業用水機能も徐々に変化,衰退してきました.かつての農業用水路は灌漑機能を担ってきましたが,農用地の高度利用により畑地化,栽培施設化(ビニールハウスなど)が進み,現在では,水道水による灌漑が行われています.

蓮田(レンコン作り) 蓮田(施肥) ビニールハウス(水道水灌漑)

下肥(しもごえ)運搬−河川水路の農業的輸送機能−
 東京都東部地域一帯では,1960年代半ばまで屎尿による農地への施肥が行われていました.屎尿の運搬には「汚穢船」といわれる船舶輸送により江戸時代から運搬路,販路,管理組織が確立していましたが,化学肥料の流通や農地の減少により徐々にその姿を消し,「運搬機能」としての水路の役割を終えました.


親水機能の今昔
 従来,河川・水路が特別に意識されることなく果たしてきた「あそび」や「ゆとり」の機能が1970年代初頭に親水という用語により改めて提示されてきた背景には,高度経済成長期の治水・利水に偏重した河川行政が,生活環境の質的低下を招いたことへの反省があるものと考えられます.都市化の過程で消滅していった水辺空間が地域住民のとって快適性の高い空間であることが再認識され「水のある空間」は「緑のある空間」と同様に都市における良好な環境を形成する上で不可欠な空間であることが広く認識されるようになってきました.現在では,水辺空間は,水遊びの場としてはもちろん,環境学習や親水公園沿川の自治体や町会が結束し,新たに地域祭りもはじまっています.




●ヒートアイランド現象と打ち水大作戦
 ヒートアイランド現象とは,アスファルト舗装,ビルの輻射熱,冷房の排気熱,自動車の排気熱などにより,特に夏季において周辺地域よりも温度が高くなり,等温線を描くと,都市部が島の形状に似ることから呼称されています.その原因には,市街化の進行による地表面被覆の変化やエネルギー使用の増大,都市形態の変化による弱風化などが挙げられています.現在,東京都ではその対策として「壁面緑化」「屋上緑化」等の事業を展開しているほか,近年では全国的な取り組みとして「打ち水大作戦」と銘打ったイベントも展開されるようになっています.下写真は,新宿都庁前で行われた「環境戦隊エコレンジャー」による打ち水イベントの様子です.(左図は,関東地方における夏季の等温線地図)

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青色棒グラフ=平年差(年平均気温と平年値との差)
赤色線グラフ=5年移動平均
緑色線グラフ=長期変化傾向(Trend)
左図は,東京都における1900年から2000年までの100年間における気温変化のTrendを図化したものです(気象庁資料を用いて坪井塑太郎作成).本図からは,1980年頃を境に,平年差がプラスに転じ,長期変化傾向の温度から見ると,約3℃の気温上昇があることがわかります.こうした状況を受け,2007年より気象庁では,気温30度以上の「真夏日」に加え,気温35度以上の「猛暑日」を追加するなど,都市の高温化傾向が顕著になっています.

●佐藤卓ディレクション 「Water 
2007年10月5日から2008年1月14日にかけて,東京六本木,東京ミッドタウン21_21 Design Siteにて開催された水を主体とした“デザイン”による水資源問題を提起する展示会です.このなかでは,近年注目されている「見えない水(Vertual Water)」として,わが国で食すことのできる牛丼一杯に,2000リットルもの水が使用されていることや,雨水の積極的利用を提案,提唱する展示が行われています.

雨水利用を呼びかけるシンボルマーク −逆さ傘=サカサカサ−
 このシンボルマークは、水をテーマとした今回の企画展のシンボルマークでもありますが,この機会に「雨水(あまみず)利用を呼びかけるシンボルマーク」として世界で共通使用されることを願い制作したものでもあります.
 雨水は,時に豪雨となり災害となって生活を脅かすものでもありますが,今世界中で天から降ってくる雨水(天水)をどう利用するかが大きな課題となっています.汚染された河川水や地下水だけに依存したり、遠くのダムからエネルギーを使って横に引っ張ってくる水ではなく,自然に天から降り注ぐ縦の水.この有り難い水の利用を考えることは、21世紀のデザインを考えることに他なりません.ありふれた傘を人が逆さに持つ姿は,水と人の営みの関係を意味し,あたりまえにある環境を見直してみようという発想の転換をも表しています.(佐藤 卓)


出典:「Water」展,公式ウェッブサイトよりシンボルマーク使用ルールを遵守し上記文面および左記デザインロゴを掲載しています.

近年では,都市部の高温化に伴い,急速な上昇気流の発生などから以前では想定できなかったような降雨量が局所集中的に多発し都市型の水害を引き起こす要因ともなっており,こうした雨水の排水は都市管理の観点からも重要な課題となっています.しかし,一方で,雨水を一旦家庭建物等で貯留(雨水貯留槽)することにより,「ゆっくり排水」し急激な都市河川の水位上昇を抑制しようとする取組みや,雨水浸透ますなどを設置することで地下水を涵養する取組みなどが広がりつつあり,最近では,多くの自治体がこの雨水利用に関する助成制度を設けています.
これまで,直接排水されていた雨水を一旦貯留することで,植物の散水や自動車等の洗浄などにも利用することができ,雨水を「資源」として活用する取組みがもとめられつつあります.
(参考:NPO法人雨水市民の会  日本雨水資源化システム学会


天水槽(雨水貯留槽) 雨水浸透ます



 
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