 |
水辺の災害と防災
都市の水辺は「親水」をはじめとする快適で親しまれる空間としての機能の他に,河川本来が持っている治水の機能や,近年では地震災害時の防火帯,緊急避難場所としての機能も期待されています.ここでは,都市に存する水辺を日常時には「快適空間」として,非日常時には「防災・減災空間」として機能すると仮定し,特に後者についての機能を「水害」と「地震災害」に分けて各々についての評価や対策,今後の整備のあり方について考えていきます.
CONTENTS
−はじめに
−都市の水辺と防災・減災
−水害リスク意識,地震災害リスク意識
−水害対策の「情報」+地震災害対策の「水辺空間活用」
|
|
 |
●都市の水辺と防災・減災
都市の水辺は「親水」をはじめとする快適で親しまれる空間としての機能の他に,河川本来が持っている治水の機能や,近年では地震災害時の防火帯,緊急避難場所としての機能も期待されています.ここでは,都市に存する水辺を日常時には「快適空間」として,非日常時には「防災・減災空間」として機能すると仮定し,特に後者についての機能を「水害」と「地震災害」に分けて各々についての評価や対策,今後の整備のあり方について考えていきます.
近年の都市災害対策においては,水害に対しては堤防工事,地震災害に対しては建物強化工事などの「ハード整備」が継続して行われてきましたが,近年では「ハザードマップ」の公開が進められるなど「ソフト整備」も積極的に行われてきている.こうしたハード,ソフト両側面での対策は,近年のリスクマネジメントにおけるゼロリスク達成を目指す「防災」(prevention)からFail-safe的な「減災」(mitigation)方向へのシフトが行われつつあります.すなわち居住者自身にも日頃からの災害に対する認識や情報活用行動が求められています.
●東京の都市型水害
東京都区部で発生した水害を統計的にまとめてみると,右図のようになります.本図からは水害対策の進展により浸水する面積自体は減少しているものの,床上浸水率(浸水総棟数÷床上浸水総棟数)が上昇しており,局地的な浸水被害が甚大になる傾向を示しています.また,近年の床上浸水地区は都心域や城南地域にも拡大しており,商業空間への被害の他,地下鉄や地下街への被害が拡大傾向にあることから,これに対する厳重な警戒が必要です.
| 1966-1970年 |
|
1986-1990年 |
|
1996-2000年 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |
| 東京都区部における床上浸水率の推移 |
都市河川の特徴のひとつに,雨天時に急速に水位が上昇する現象が見られることがあります.右写真は東京都杉並区を流れる善福寺川の平常時と雨天時の同一地点から撮影した水位変化です.わずか数時間で数メートルの水位上昇が見られます.住宅地が密集している地域を流れているため,基準水位を超えると水位の警戒警報が作動する装置が設置されています(写真撮影 坪井塑太郎)
|
 |
 |
 |
| (平常時の水位) |
|
(雨天時の水位) |
|
|
|
 |
●水辺の整備と災害
水害については,2000年の東海豪雨水害以後,東京都でもハザードマップの整備,公開が進められており,現在は各区ホームページからの閲覧が可能です.しかし,2003年調査時点においては,ハザードマップの認知はどの年齢層においても約半数にとどまっており,今後も継続した認知の徹底がもとめられます.また,その方法論的課題についても検討していく必要があります.一方,地震災害時の河川・水辺の機能については,1995年の阪神淡路大震災後の調査において,延焼防止帯機能や緊急時の生活用水(洗濯,トイレなど)に利用されたことが明らかになっています.稠密な都市空間において,防災のために新たな空間を創出することは現実的には困難な場合が多く,そのため,水辺空間などの「既存」の空間を利用・活用する方策が求められます.都市の水辺空間には,親水機能をはじめとする「環境」整備と,水害対策などの「防災」整備が同時に要求されています.もちろん,完全な防災技術は理想ですが,現実的には困難な場合も多く,近年では被害をできるだけ最小限に食い止め「安全制御」を居住者自身が図っていくことも大切になってきています.そのためには,都市河川に対しては日頃からの万一の備え,心構えをもち,河川本体(線)だけでなく,流域(面)単位での防御(浸透枡設置や地域遊水地等)を図りながら環境面(親水)との共存を目指すことが大切です.
震災時の困窮施設として挙げられるトイレ・ベンチ等の施設(親水公園内)
災害時の利用・活用が可能 |
 |
|
 |
|
 |
| トイレ |
|
ベンチ |
|
消火用取水スポット |
●東京都区部における洪水ハザードマップ公開の現状と課題(水害情報)
洪水ハザードマップは,2000年の東海豪雨水害を契機に作成に着手され,現在では東京都区部(23区)中,16区において公開されています(2007年6月現在).また,これらハザードマップは各区より情報発信が行われており,区役所ホームページから閲覧をすることができます.
+浸水実績図…過去10年程度の水害を対象に各市町村ごとに作成.(5年毎更新を基本とする)
+浸水予想図…河川や下水道施設の整備水準を上回る降雨によって予想される浸水区域を示すもの.都内の中小河川流域を対象に作成,公開が進められている.
+洪水ハザードマップ…「浸水実績図」「浸水予想図」をもとに,想定される浸水区域や,程度(浸水深),避難路や避難場所の情報を図示したもの.(各区市町村単位で公開) |
 |
| 洪水ハザードマップ公開区(東京都区部) |
|
|
|
 |
●福井豪雨水害(2004/07/18)
日本海から北陸地方(福井県)に伸びる梅雨前線の活動が活発化し,嶺北地方を中心に7月18日明け方から昼前にかけて猛烈な豪雨となり最大一時間雨量87o,降り始めからの総降雨量が285oに達し福井市中心部での足羽川(あすわがわ)の決壊破堤や上流部での土砂土石流災害,さらにJR越美北線の橋梁が流出するなど人身,構造物にも甚大な被害を及ぼしました.
しかし,発災後ただちにボランティアセンターが立ち上げられ,数多くのボランティアスタッフにより住宅に堆積した土砂の除去や清掃作業が進められました.今後は住宅復興から生活復興へと段階を移し,また防災対策として洪水ハザードマップの全戸配布実施が実施されています.

●杉並区・中野区豪雨水害(2005/09/04)
2005年9月4日の午後八時過ぎから降り始めた雨は,時間最大雨量100oを記録し,九時三十分過ぎには妙正寺川の警戒水位を突破に伴い,流域住民への避難勧告が発令されました.流域では,地下貯水池の整備が進められていますが,溢水による床下・床上の浸水被害が多発し,また,老朽化していた護岸の一部が崩落するなどの被害も出ました.ハザードマップの公開は行われていたものの,住民自身の水害への日頃からの注意,関心の必要性も改めて求められるなど,都市型水害に対する「ハード(堤防・地下貯水池)」と「ソフト(情報活用)」の両立のあり方を今後より「身近な問題」として考えていくことがもとめられています.

 |
 |
| 洪水被災地図 |
ハザードマップ(杉並区) |
|
|
|
 |
●震災時における水辺の防災機能
1995年1月に発生した阪神淡路大震災以降,寸断麻痺した陸上交通網の補完として舟運の有効性が着目され,東京都においても地震災害時における住民の避難や救急物資の輸送機能を有効にするための拠点として「防災船着場」が,避難経路としての機能:被災直後に火災からの避難や傷病人の医療施設への輸送,避難場所や自宅への避難経路の確保,物資輸送経路としての機能(応急復旧期に必要な機能):水・食料や医療物資等の緊急物資を速やかに輸送するための経路確保,および移動経路としての機能(復興期に必要な機能):通勤・通学や避難場所,疎開先から自宅の復旧のために移動する場合等における交通手段の確保の3つの機能確保をもとに整備推進されています.
防災船着場は,現在までに東京都内の航行可能な河川に50箇所が整備され,計画箇所とあわせ将来的には総計70から80箇所の整備が計画されています.これらの防災船着場は,概ね2q圏内(被災直後に徒歩で30分圏域)を網羅するよう配置計画され,医療施設や道路,鉄道等の結節点を考慮し水上ネットワークが構築されています.
 |
|
 |
 |
 |
 |
| 防災船着場拠点 |
|
防災船着場(神田川和泉橋・荒川・横十間川) |
|
|
●善福寺川の洪水警報装置
河川に隣接し住宅地が密集する都市河川では,降雨時の急速な水位の上昇などにより現在でも洪水災害の危険性が高く存在しています.東京都杉並区を流れる善福寺川では,水位が警戒水位を超えるとサイレンが鳴る警報装置が設置されています.

|
|
|
 |
●GISの援用による地域危険度の可視化と震災時の避難・防災空間としての水辺機能
都市内部における水辺のある空間は,街区の公園とは異なり,矩形ではなく線形の形態を持ち,また「水」の存在を持つという点において特徴を持っています.狭隘な街区における震災時の危険については,現在,東京都都市整備局から「倒壊危険度」「火災危険度」「避難危険度」およびこれらの総合的な指標としての「総合危険度」が1(安全)から5(危険)の5段階評価で情報が公開されています.ここでは,東京都江戸川区を事例に,その危険度をGISを用いて可視化し地域的特長を把握していきます.
東京都江戸川区は比較的早くから集落の発達した総武線沿い地区の「平井」や「小岩」などの北部と,近年になって新興住宅・マンション建設が進んだ南部では,住宅構造や街路構造が異なるため,地域の危険度に偏重が見られます.特に,北部の地域では現在でも立て替えや4m未満接道住宅割合の高い箇所が存在していますが,これらの地域における防災力の向上のためには,新たな施策や立て替え補助などの事業のほかに,既存の「水辺の空間」(親水公園)の活用を進めていくことが重要な課題になってくるものと考えられます.そのひとつに,火災発生時における親水公園内の水を防火用水(消火用水)として利用可能な取水スポットが設置や,さらに避難生活時の困窮施設のあげられることの多い「トイレ」の設置が進められています親水公園の持つ空間は,日常的には「快適空間」として,地震災害等の被災時には「防災空間」としてリニアかつデュアルに機能するポテンシャルをもっているとかんがえられます.
荒川下流域における洪水災害に関するリスク意識の構造  |
 |
|
東京東部を流れる荒川は,明治43年(1910年)に大洪水を引き起こし,首都圏に甚大な被害を与えました.この災害を機に翌年から20年をかけて水害防御の目的をもって北区岩淵から江東区砂町地先に至る22キロにも及ぶ開削された「放水路」がその原型です.同地域における地形の特徴は,広く海抜下の地域(ゼロメートル地帯)を含む沖積層の低平地ですが,右岸には台地との境界が存在し,一部比高のたかい場所も存在しています.
下図は,本地域に位置する10市区を対照とした水害に対するリスク意識を恐怖感と身近感に分類し,さらに荒川からの距離別に示したものです.本図からは,上述の地形に依拠すると考えられる右岸地域(台地上の自治体)における恐怖感の低さが特徴となっていることが分かります.本地域は幸い荒川開削以来大きな水害には見舞われていませんが,地形的には一部,ハリケーン「カトリーナ」で被災したニューオリンズなどとも類似した海に面した海抜下地域であるため,居住者自身の日頃からの「自分が被災するかもしれない」という意識を持つことも大切です.(調査:あらかわ学会調査2007 調査研究代表者:坪井塑太郎 より) |
| 荒川下流域(数値地図5mメッシュ標高) 坪井作成 |
|
 |
|
 |
| 左岸(恐怖感・身近感) |
|
右岸(恐怖感・身近感) |
兵庫県神戸市灘区 都賀川−2008/07/28 水難事故− 都市の水辺の親水性と防災−  |
 |
|
●ハードの対策,ソフトの対策
本災害を契機に,ハザードマップや河川沿いの警報装置,水防訓練,防災教育などが見直されています.一般に洪水災害は,地震災害とくらべて発災までの情報が比較的多いことから,必ずしもリスクとしてそれら認知されにくいことが特徴となっています.近年の豪雨の特徴や河川の構造を考慮したとき,「河川のみ(線)」での洪水防御にはやむを得ず限界があり,洪水流の一時貯留や別配管の整備,また各家庭における雨水貯留などハードでの面的な対応も考えていく必要があります.
●洪水時=危険空間,震災時=避難空間(+用水利用)
都賀川は,1995年の阪神淡路大震災の被災直後から,河川水を利活用した避難生活用水としても機能してきました.このように,洪水災害とは逆の空間としても機能することから,日常からその利用を通して都市の水辺の存在を考えることも大切です…
|
| 2008/08/26 毎日新聞朝刊(大阪版) |
 |
|
 |
|
都賀川は,その地形的特性上,後背に急峻な山地地形をもち,河口までもわずか3キロメートル弱の流路しかないため,降雨時には集水しやすい河川となっています.かつては低湿地に発生する特徴を持っていた水害は,1958年に発生した狩野川台風時に,東京においてこれまで発災しにくいと考えられていた都市化の進んだ台地内や中小河川沿いで大きな被害を出したことから「都市型水害」と呼ばれるようになり,近年ではこれに加え,ゲリラ豪雨と称される突発的で激甚性の高い局所的な雨がその被害を拡大させています. |
| 晴天時(日常の都賀川) |
|
降雨時(事故時の都賀川) |
|
|
|
|
|
    |