水辺のまちづくり

 水に対する取り組みが,「治水」「利水」から「環境」へと変化をしてきた中で,特に環境においては現在では親水公園の整備や多自然型護岸整備の推進などが全国的に進んでいます.一方,こうした整備の成熟化とともに着目されるにようになってきたものに,地域の住民との連携・参加による河川整備や,新たな法枠組みの中での水辺づくり,また高齢者やハンディキャッパーにも対応できるユニバーサルデザインをもつ水辺のあり方や,景観法の施行と連動した水辺づくりなどが挙げられます.ここでは,それらの最新の情報を現地調査を踏まえながら検討していきます.

CONTENTS
−運河ルネサンス
−福祉の河川づくり・荒川における河川散策 自立移動支援システム


●運河ルネサンス
 かつて,内陸への物資輸送に不可欠な水路としてその役割を担ってきた運河は、近年に入ると物資輸送の形態は徐々にトラックなどの陸上輸送が主流となり,これに伴う船舶輸送量の低下により運河の利用は大幅に減少してきました.しかし,2005年に東京都港湾局により,運河の持つ「回遊性」や「景観」を,新たに水辺の魅力の向上や観光振興に役立てることを目的に,「運河ルネサンス」の推進がガイドライン化されました.これにより,従来までは港湾関連事業者に限定されていた水域占用許可が規制緩和され,運河内での水上レストランやカヌー,ボートなどの利用のための桟橋の設置も可能となるなど,河川の親水事業に比べやや遅れがちであった運河の親水事業に画期的な変化をもたらしはじめています.
 現在,東京都では運河ルネサンス推進地区として,「芝浦地区」「品川浦天王洲地区」「朝潮地区」の3地区が指定され,このうち,品川浦天王洲地区では,運河ルネサンス第一号指定事業として,寺田倉庫前の天王洲運河に,水上レストラン「Water Line」がオープンし,東京湾岸に新たな魅力を発信しはじめています.この事業では,運河周辺の活用について話し合う,事業主,商店会,NPO,自治会などから構成される協議会と,技術提供や護岸整備などを担う都・区の協働により事業推進される方式が採られています(写真撮影:坪井塑太郎).

(品川浦天王州地区)
  

Link T.Y HARBOR
Link Water Line

(芝浦地区) 
  

Link 芝浦運河祭り
Link 運河を美しくする会

● 芝浦一丁目商店会主催 「運河の夕べを楽しむ会」
−日期:2009年8月7日(金) 18:00〜21:00
−場所:芝浦一丁目運河沿遊歩道(JR田町駅,JR浜松町駅から徒歩)
−チケット2000円(ドリンク3杯+ライブフィー)
−(イベント)
 ギタリストによるソロライブ,フィーリングカップル,ヨガセラピーセミナーのほか,地元商店会による模擬店や,ビール・ワインバーの出店

 運河沿いの遊歩道を利用して,地元商店会主催の水辺のイベントが企画されましたが,大変残念なことに,当日は,突然の豪雨に見舞われ,中止になってしまいました…ただ,こうした都心の水辺の空間を活用したイベントは,現在,「社会実験」として全国的に取り組みも始まっており,今後の展開が注目されています.他の水辺の社会実験展開地区には,1)淀川水系道頓堀川・堂島川(大阪市),2)太田川水系京橋川(広島市),3)庄内川水系堀川(名古屋市),4)那珂川水系那珂川(福岡市),5)利根川水系利根川(佐原市)などがあります.


●福祉の河川づくり−荒川における河川散策 自立移動支援システム−
 高齢者や障害を持つ方など,誰もが安心して河川を訪れ,安らぎやくつろぎが得られるよう「すべてに人に優しい河川」を目標としてさまざまな取り組みが行われています.具体的には,高齢者にも子供にも便利な「二段式手すり付き階段整備」や,車椅子での利用を目的とした「匂配の緩やかなスロープ」をもつユニバーサルデザインの整備が進められています.
 一方,ユビキタス社会にむけた実験として携帯情報端末(ユビキタスコミュニケーター)と電子白杖,視覚障害者誘導用ブロック等に設置したICタグによる音声方向案内なども行われています.

  

 (国土交通省荒川下流工事事務所 荒川自立移動支援プロジェクト)


●住民参加による水辺整備と合意形成−東京都世田谷区北沢川緑道−
小田急線・井の頭線「下北沢駅」南口から茶沢通り沿いに徒歩約15分ほどの閑静な住宅街を流れる北沢川緑道は,かつては近隣の農地を潤す農業用水路として機能していましたが,都市化の進行によりその機能を喪失した後は暗渠化されていました.しかし,1991年より「行政」「住民」とその間に立つ「まちづくりセンター」による水辺復活に関する話し合いの場が設けられ,さまざまな議論を経て,現在では市民の憩いの場としても機能する美しい水辺が整備されています.
本事例をもとに水辺整備の「合意」を形成していくための重要な点として明らかになったのは以下の三点です.

1) 議論の透明化=広報誌による毎回の話し合いの経過の公開
2) 原寸・体感・体験型議論=机上にとどまらず,学校校庭等を利用した実際の大きさをもとに参加議論する
3) ファシリテーター=議論の促進,会議のコーディネートを行う集団,組織,人

北沢川位置図 住民参加の話し合いによる計画の変更

原寸の話し合いの様子 現在の北沢川緑道(1) 現在の北沢川緑道(2)



     【住民と行政のつなぎ手…ファシリテーター】

 計画段階における住民参加は,その重要性や必要性は認識されているものの,「住民」と「行政」双方の中間に立ち,話し合いを促進させていくための機能「ファシリテーター」の存在が重要になっています.世田谷区においては,「世田谷まちづくりセンター」がこれにあたり,設計者や行政のプランを,住民側に分かりやすく伝え,さらに会合,会議の設定や運営,ワークショップなどにおいてもその力を発揮したことが,本事業の成功につながっています.

             【情報提供の方法】

 近年では,ワークショップや話し合いにおける議事録や会場の写真などは,ホームページにおいてネット上に公開されることがおおくありますが,本事業では,「瓦版方式」により北沢川沿線の居住者に毎回約3000部が配布されたほか,小中学校へ掲示が行われ,計画の内容が伝えられました.毎回の話し合いの結果や,論点などがまとめられ,イラスト入りでそれらが紹介されているほか,次回の話し合いの案内,会場,日時なども掲載されています.このように,議論が透明化され,話し合いの経過が伝えられることで,意見の齟齬を早期に修正することが可能になります.



●防災まちづくりワークショップ−ハザードマップ,水害時の課題を考える−(東京都葛飾区) 
2007年8月に荒川の洪水災害を想定したハザードマップが東京都葛飾区で公開され,全戸に配布されました.ハザードマップの公開は,地域の危険性を周知すると同時に地域の居住者自身も日頃からの心構えや,緊急時に自らが対応をする「自助」を促すためのツールとしてその活用が求められています.しかし,地域の大半が危険に晒される本地域においては,町会や自治会を中心とした地域共同での被害を最小限化する努力として「共助」の力も重要になっています.ワークショップでは,以下の点を主柱に,避難時の課題等についての話し合いを行いました.

1) 議論を可視化する=話し合いで出た内容をファシリテーター,補助者が随時付箋を用いてメモ化して掲示
2) 話し合った内容を参加者自身が発表する(=話し合いの主体性の確保)
3) ロール(立場や役割,身分)を仮定し,その立場になって課題を考える(=他者の考え方を考慮)
4) 体感,体験型のワークショップを通して,課題を検討する(=まち歩きなどにより,自らが課題の細部を抽出)
5) 議論のための小道具の工夫(GISによる地域情報をOHPで参加者が自由に地図に重ね合わせて考える)

洪水ハザードマップ(葛飾区) 話し合いの結果発表 地図を見ながらの話し合い

※ まちごと,まるごとハザードマップ!
葛飾区では,地盤高の低い新中川(中川放水路)以東地域において,「洪水標識版」が電柱に設置されており,「まちごとハザードマップ化」の取り組みが行われています.これは,区道や都道など比較的人通りの多い道路を中心に,荒川の決壊氾濫時に浸水が想定される深さ(浸水深=2.0m)とその高さを示す赤色のマーカー(写真左下参照)によって示され,日頃からの居住者への啓発が図られています.また,いざというときのために,町会単位で緊急避難用のゴムボートが一艘ずつ常時装備され,防災イベントを通じた組み立てや漕ぎ方についての練習,講習も行われています.


●ワークショップのお道具箱! 
 ワークショップでの話し合いを,参加者により具体的に想定してもらい,実効性のあるものにしていくために,様々な小道具を用いて議論が行われています.単に既成の地図を提示するのではなく,模型やブロック,予想図などを含めた工夫が凝らされています.

選択カード 建物模型 ブロック(域内人数表現)


市民参加による河川の将来像計画の策定−市民・行政・学識の連携協働 (東京都・埼玉県荒川下流域) 

 市民参加システムの形成過程と展開

 元来,東京都東部および荒川南部地域における洪水災害防御を目的とし,1930年に「荒川放水路」として開削された現在の荒川は,流域の社会や文化,経済とも密接に関わってきました.しかし,一方で,近年には,運動場,ゴルフ場,レジャーボート等の都市的な利用が新たに登場し,利用者間のコンフリクト解消の観点から市民の幅広い意見調整が求められるようになってきました.こうした流れを受け,荒川通水70周年を控えた1994年を機に,河川管理者(建設省荒川下流工事事務所=当時)の主導により,河川敷等の占用者・整備管理者となる流域自治体(2市7区=川口市,戸田市,北区,板橋区,葛飾区,足立区,江東区,墨田区,江戸川区)の連携において「知る」「ふれあう」「創る」をテーマとしたイベントや地域交流,情報交換等の取組みが開始され,市民参加システムの基盤が構築されました.同年より,市民間の交流事業として「荒川クリエーション」「荒川クリーンエイド」が発足したほか,CATV局と連携した地域情報ネットワークとして「あらかわ学会」(現:NPO法人あらかわ学会)が始動するなど,市民参加や活動を行うための基盤が自発的に形成されるようになって来ました.さらに,河川管理者と市民をつなぐ窓口として,「懇談会」」や「市民相談室」「あらかわご意見番」が組織され,これらは,現在では環境保全モニターや河川・水辺の国勢調査アドバイザー,河川愛護モニターなどの役割を担っています.

    

      荒川下流域における市民参加の構造           荒川将来像計画策定参加自治体(2市7区)


  



  社会実験による水辺のオープンカフェ−広島県広島市京橋川− 

 これまで「河川敷地の占用」については,安全上のほか公共用地の関係から一部では徐々に規制は緩和されてきたものの,特に営利を目的とする施設の営業などについては依然規制の対象となっていました.しかし,2004年に特例措置が設けられたことを受け,広島市の京橋川沿いの河岸緑地を利用して,全国初の独立店舗型のオープンカフェを設置する社会実験がスタートしました.京橋川をながめながら,広島産の本格的な牡蠣料理を頂くことができますよ♪

撮影 by 坪井塑太郎

● 参考Link
 広島市−水辺のオープンカフェ
● 参考Link 牡蠣亭(オープンカフェ出店)



水辺の祭礼−富岡八幡祭り(深川祭り=水掛け祭り      

 江戸三大祭りの一つとして有名な「富岡八幡祭り」は,毎年八月中旬の盛夏に行われ,神輿を担ぐ担ぎ手に向かって,沿道の観客が水を掛けて神輿を清めることから「水掛け祭り」の別称もあります.江戸の粋を今に伝える貴重なこ祭礼では,「ワッショイ」の統一の掛け声(浅草祭りでは「ソイヤ」)のもと,たくさんの観光客で毎年にぎわいます.

撮影 by 坪井塑太郎



水辺の空間利用−再考=非日常空間から日常空間への転換−  名古屋港イタリア村(廃業) 

 名古屋港イタリア村は,中部新国際空港(セントレア)や愛地球博(愛知万博)とおなじ,2005年に名古屋港にオープンした複合商業施設です.開業当初は多くの人を集めた同施設も,リピーターがないことなどによる来場客数の激減や建築確認のミス(木造違法建築)などが発覚したことなどにより,3年後の2008年には廃業してしまいました….
 ミラノ市との姉妹都市提携なども追い風に,イタリアの街並みを再現した同施設は飲食店,ショッピングモールなども併設され,左写真にあるイタリア村内の水路をゴンドラで遊覧(大人600円)できる体感的な取り組みも行われていました.

−水辺の施設を長く,楽しく活用するには(試論私論)−
1)作らない水辺を創る
同施設は再訪率が極端に低かったことが指摘されています.一定の整備(創る作業)はもちろん必要ですが,作られすぎた空間は来場者にとってどこか違和感があったのかも…
2)非日常空間ではなく日常空間としての整備
週末に立ち寄る…仕事の打ち合わせで利用する…など日常の中での空間整備であれば水辺の施設としてもう少し広い世代に利用されたかも…
Photo by S.Tsuboi 2007/09/06


建築物と水辺の一体整備(都市内舟運観光の取り組み)−朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター

 信濃川河口に位置する新潟県の国際交流,経済産業振興拠点として2003年にオープンした朱鷺メッセは,建築家,槇文彦さんの率いる槇総合計画事務所により設計デザインされた施設です.本施設は河川に面した側が全面ガラス張りになっておりデッキウォークから河口を眺めることができるほか,シームレスで信濃川の水辺までアクセスでき,ここから船(信濃川ウォーターシャトル)の乗ることもできます.
 近年ではこうした建築物と水辺が一体整備される事例も多く登場し始めており,「舟運観光」とあわせた取り組みが活発に行われています.船着き場の整備は日常的には観光等の要素の基盤となる一方,非日常的な大規模な都災害発生時の避難経路や物資輸送拠点としても機能することが想定されています.

●Link 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター
●Link 信濃川ウォーターシャトル
●Link 新潟県庁
Photo by S.Tsuboi 2009/05/15


水辺の祭礼−東京都中央区佃島 住吉神社(神社の立地と水辺の祭礼) 

東京 隅田川河口佃島は,徳川家康の江戸開府の佐井,攝津国,佃(つくだ)の漁夫を住まわせたことなどに由来し,その後この地が江戸湊の入り口に位置することもあり同時に開かれた住吉神社を中心に,海運業,各種問屋組合をはじめ多くの人々から海上安全や渡航安全の守護神として信仰を集めてきました.その後,周囲の埋め立てが進み月島や勝鬨などの地名も生まれ,現在の形になりました.毎年八月初旬に行われる例祭や三年に一度行われる本祭りでは,神輿を船に乗せて氏子地域を回る勇壮な船渡御が行われます.
奥:聖路加病院 手前:神社 船渡御 葛飾北斎の富嶽三十六景に登場する佃島の様子


吾妻橋フェスト Beer Fes in Azumabashi (東京 隅田川) 2009/08/28〜30 

●開催場所 墨田区役所うるおい広場・隅田川親水テラス
●開催期日 2009年8月28日〜30日
●主催 一般社団法人墨田区観光協会
●企画協力 アサヒビール株式会社

隅田川に架かる吾妻橋下の親水テラスに設置された特設ステージで期間中,様々なジャンルのミュージシャンたちによる野外ライブ演奏が繰り広げられます.また,アサヒビール本社にも隣接していることから,生ビールの販売も行われ,多くの人たちでにぎわいます.(Phot by S.Tsuboi)
  


水都大阪2009 Aqua Metropolis Osaka (大阪府 大阪市) 20009/08/22〜10/12



水都大阪2009は,大阪府,大阪市,経済界が一体となり,水の都大阪の復興を広く伝えるためのシンボルイベントとして開催されました.都心を囲むように川が流れ,八百八橋といわれる数多くの橋の景観や,また阪神タイガースが優勝した際に熱狂的なファンが飛びこむことで一躍有名になった道頓堀など,大阪はたくさんの水辺のポテンシャルを持っている都市です(現地巡検/写真撮影 坪井塑太郎).

←水辺のイベント
巨大アヒル!(八軒家浜) 道頓堀のサイドウォーク 高速道路下のリバークルーズ

←水辺の社会実験
水辺の朝市 川床式テラス(十六夜) 川床式テラス(てる坊)




 
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