渓魚達の現状

東京都水産試験場奥多摩分場に聞く




僕らが釣りを楽しむ渓魚達の環境はどのように変化しているのだろうか?

道路舗装やダム開発が進み、インターネットによる情報の入手が容易になることで、

秘境と呼ばれるような手付かずの場所は次々に消え、

それに伴って渓魚達も少なくなっていく・・・。

釣りを続けていく為に僕らが出来ることは、

ただ単に釣った魚を川に戻す、というキャッチ&リリースだけにとどまらず、

各個人がさらに深い問題意識の共有と現状の認識をすることで、

それぞれの人が大切にする特別な流れを、さらに豊かなものにすることができるのではと思う。


今年7月、憶測や聞き伝えによる判断以外に、

調査による実際のデータに基づく事実を知るべく、

東京都水産試験場奥多摩分場の研究員の方々に時間を割いていただき、

現状と僕たち釣り人が出来る事を中心にお話を伺った。


以下の内容は、SPECIAL STREAMLINEのホームリバーである奥多摩の渓魚を中心としたものであり、

奥多摩の渓を釣り歩く方であまり現状を知らない方は是非とも、

同時に奥多摩に釣りに来る機会のない方にとっても、

何かをあらためて考える機会となれば、と思います。





1.奥多摩の渓魚

奥多摩には日原川などに岩魚が住んでいて、

その在来種はニッコウ系の岩魚であり、

特徴は斑点が小さく、色が濃い。

ある程度成長すると腹がオレンジ色になってくる。

色が出ているのはカロチノイド色素の入った餌を捕食している。

分場でも配合飼料によって色がでるそうだ。

日原川では、在来岩魚を守るため、

漁協による放流は行われていない。
山女魚に関しては、

昔から釣りをしている人の話では、

背中の黒点の数は平均50個くらいとずいぶん少ない。

放流をしていない場所での調査では、

基本的に自然のものは黒点が少ないという。


もちろん岩魚も山女魚も、住む場所によって多少の差異はあると思われる。

岩魚は残れば7〜8年生きる。山女魚は長くて3年くらい。平均は2年くらいで産卵すると死んでしまう。

産卵数が少なくて生き残った個体や成長が悪い細い支流であれば3年くらいは生き残るかもしれない・・・。

水量の少ない山岳渓流において1年で20cmくらいになるか?というと厳しい・・・。

本流であれば秋に産卵して孵化したものが6月に12cmくらいになり、秋に20cmくらいにはなるのでは?

30cmくらいになるのにはおそらく3〜4年かかるのでは?

魚の年齢は内耳にある耳石でみる。今までの採集調査での最高は40cmくらいで5歳(岩魚)であった。





2.漁協による放流の現状

昔は山女魚の成魚放流はしていなかったが、

秋に稚魚を放流しても禁漁期に釣られてしまい、

解禁時に成魚が残っていないということがあった。

それで解禁前に成魚放流した方が良いということになってしまった。

しかし、成魚放流だと解禁時は釣り堀状態ですぐに釣りきられてしまう。

結果としてすぐに釣れなくなってしまう。

本来であれば、

稚魚で放流して制限体長まで成長したものを釣ってもらう方が良い。



(以下は僕の勝手な意見ですが、

稚魚放流で上手くいくのなら、きっとコスト的にも安く上がって、

もっと多くの魚を放流できるのだろうと思います。

ただ、それには先のような問題も含めて多くの困難があるのでしょう。

もしも可能であれば、

漁協としての意見を今後掲載したいと思います)






3.試験場の放流状況


東京都水産試験場奥多摩分場では、日原川などに在来の渓魚を守るための、

在来種の発眼卵による試験放流を行っています。


その放流による結果はさまざまで、



山女魚では約80%くらいが孵化して、

そのうち約10%くらいが釣獲可能サイズまで生き残った。



放流している場所では稚魚はたくさんいるが、

ある程度成長するといなくなってしまった。

(釣りによる影響と思われる)



在来岩魚を放流してもほとんど残らない渓。




渓魚が産卵できる場所も減ってきており、

人工孵化による放流では限界もあり、

渓に産卵床を作る、という手段も考えられています。





4.在来魚の現状
岩魚はだんだん上流部へ追いやられているという。

今は山女魚ばかりのとある渓も、

昔は岩魚と山女魚が半々くらいでいた・・・。


釣り人の魚獲の影響も若干あるが、

それは山女魚も岩魚も同じように魚獲はかかっているのだから、

岩魚だけが減るというのはおかしい。


つまり山女魚が生息域を拡大しているというよりも、

岩魚が生息していた場所が山女魚の生息域に変化している。

岩魚の生息に適している環境が少なくなって、

山女魚の生息に適した環境になってきている。

要するにそれは釣り人の影響もあるが環境の問題で、

水温等の影響が大きい。

岩魚に適した環境は、

例えば奥多摩日原川だと標高が750mくらいかそれより上流。

夏の水温が18度を超えない等。


日原川は現状、資源的には岩魚が減ってきてしまっている。






5.在来種でない渓魚の存在、正しく行われるべき放流


それならば岩魚を増やそう、といっても闇雲に放流されるべきではない。

過去に数度、日原川に存在するはずのない種の、

アメマス系岩魚が釣れた。


漁協による放流もない川だから、

個人的な放流であるものと思われる。

魚が増えるんだからいいんじゃないの?

と思うかもしれないが、これが実は問題なのである。






6.我々が出来る事


お話をうかがい、最後に、僕ら釣り人一人一人が出来る事で、

何か試験場としての意見をいただけたら、と尋ねると、

それはまず第一に、


・最低限、内水面漁業調整規則は守ってほしい
(魚券等に記載されている、「〜センチ以下は逃がしてください」などの約束事)


という当たり前のことでした。要するに、その当たり前のことが非常に大事なのだな、とあらためて思いました。

本音では、制限体長を守っていても、

一度も産卵していない可能性もある。

20cm以上くらいにすればなんとか一度くらい産卵できるのだが…。


という意見もありましたが、


いろいろと規則で指定するのは難しいので、

上記の情報を元に自分でキープするのは何本まで、

サイズも何cm以下
(当然、内水面漁業調整規則で規定されている制限体長以上を設定)

はリリースするというようなことを決めて釣りをすることが

釣り人ができることなのでは、

ということでした。






他には、

・下流から上流へ魚を放すことはしないでほしい(天然種を守る為)

上流から下流へはインパクトが少ないが、
(一つの渓に天然種と放流種がいる場合、天然種が上流、放流種が下流と住み分けられる為)

下流から上流へ放してしまうと天然の岩魚がいなくなってしまう。



・放流したいと思ったら、その場所の水産試験場と河川を管理している漁協に相談してからにする



奥多摩分場の皆様、お忙しい中お時間を頂き、どうもありがとうございました。
なお、奥多摩分場は見学も可能です。詳しいことは東京都水産試験場のWebサイトからどうぞ。


東京都水産試験場のWebサイトはこちら









在来種が守られなければいけない理由は、

その地域ごとに異なる魅力が存在し、それが多種と混ざることで色あせてはならないからだ。



種の多様性、という言葉は良く使われるが、


今シーズンいくつかの地域の渓魚を見てきて、実際に触れてみて、そのことの重要性を実感している。

その渓の在来種である、という裏づけのない放流は行われるべきではない。

それぞれの地域で、在来種を守ろうと、

地元の方を中心に在来種の放流が行われている。

だがそれでも、在来種は減り続け、

わずかに残ったものが上流へと追いやられていく。


それぞれの人々が抱く、思い入れのある特別の流れ。

それぞれの流れに暮らす、思い入れのある特別の渓魚達。

それらが失われ、感動が失われ、

やがて環境自体がどうでもいい、ということになってはならない。

大げさな言い方かもしれないが、

感動の始まりも小さなことから、

失望の始まりも小さなことからであると僕は思う。

いつも行くたびに、何か感動したり、心が和んだり、

それぞれの人が通う渓が、

そんな風に帰属意識を持ち続けられるものであって欲しいと願う。




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