もっと知りたい芝について(第2回)  98年作成資料

みなさん、ご存知の方も多いかと思いますが、日本平スタジアムの芝は今Jリーグの中でもトップレベルにあり、病気や管理上のミスなどによる芝のトラブルを起こしたことは有りません。
これは他のスタジアムではやっていないことがたくさん有るからです。
みなさんの目の前に広がる緑の絨毯にはさまざまな秘密が隠されています。そこで、今回も前回に引き続き日本平スタジアムの芝(ピッチ)の管理責任者佐野さんに、日本平の芝についてお聞きしました。

(この記事は昨年98年に作成したものです)。

(質問1)芝の刈り方(丈)は天候や季節によって違うのでしょうか。

刈り高は季節によって変えています。刈り高は25〜35mmの範囲です。
芝の成育がおう盛な時期 5月上旬旬〜7月上旬と10月下旬〜12月上旬は25〜28mm
上記以外は30〜35mmです。
寒地型芝でのプレーイングクオリティーを考えたときは25〜28mmが良く、芝の傷みを少なくするには35mm以上が良いと考えております。
瑞穂は昨年25mmで刈った為痛みが激しく現在(昨年の9月下旬時点)の状態は良くないとのこと。
鹿島の刈り高は40mm近いそうです。浦和駒場は25mmと低い、これは気候が寒地型芝に有っている為です。
仙台スタジアムは30mm以下にしたことは無いとのこと。
J-ヴィレッジは35〜50mmです。ただし日本代表が使用するときは30mmです。
日本平の昨年10月3日ガンバ戦の時の刈り高は29mmでした。

(質問2)芝の張り替え方法(GK周辺など)ですが、そのようにするのでしょうか?素人の考えですと、荒れている芝を全部はがし、発芽して成育させた新しい芝(長方形のブロック状になったもの=ソッド)を張るイメージがあるのですが。
また、根付くまでにどの程度の時間が必要でしょうか。

ゴール前と副審の部分の傷んで部分だけ年1回張り替えます。
@傷んだ部分をソッドカッターで切り取る。
A切り取った跡を丁寧に整地する。
Bナセリーの芝を幅30cm長さ45cm厚さ5cmの大きさでソッドカッターで切り取る。
Cソッド(切り取った芝のこと)が型くずれしないように板をソッドの下に敷き板を持って運搬する。
Dソッドを張り替え部分に敷き詰め、ローラーで転圧する。
E目土(竜洋産の砂)を厚さ3mm程度散布しブラシですり込む。
F十分散水する。
上記の一連作業はソッドの乾燥を防ぐ為1日で行います。
完全に周辺の芝と同じ強度になるには1年必要ですが、根付くには2週間です。
過去には張り替えてから3日目で使ったことがありますが、めくれてしまいました。
状況によってはゴール裏の芝をゴール前に張りナセリーの芝をゴール裏に張ることもあります。
張り替えた芝は色が変わっておりみっともないので、同じ色合いのゴール裏の芝を使うのです。こうすると張り替えが目立たないのです。昨年は10月5日に一部張り替えました。 


(質問3)オーバーシーディングは秋と春に行っているのでしょうか。また、その方法(刈り込み、播種など)などの概略は教えて頂けないでしょうか。

春、秋に行っています。9月29日に播いたばかりです。
@芝刈りをする(刈り高は芝生の成育状況により決める、今期は29mm)
Aコアリングをする(直径15mm深さ18sm程度の穴を15cm間隔であける)
Bバーチカルモアでサッチ除去と芝の芽数(密度)を減らす。
Cスイーパー(掃除機)でコアカスを片づける。
D目土をする。
Eバーチシーダー(種子散布機械)で筋状に種子を床土の中に播いていく。
F散水する。
バーチシーダーは筋状に種子を播いていくので終わった跡が筋状となります。
10月3日のガンバ戦の時は発芽はしていませんでしたが、よく見ると筋が確認出来たと思います。
播種のために密度を薄くしたので見た目の悪いピッチになっていましたが、10月末には良いピッチが復活するはずです。


(質問4)芝のサッカー場一面を作るのに、どのくらい費用がかかるでしょうか。そのメンテにはどれだけのコスト(費用・人手など)がかかるでしょうか(ちなみに日本平やトレーニングセンターは?)。

芝のサッカー場の造成方法はたくさんあり単にいくらとは言えません。Jリーグで使用できるレベルでサンドベッド(砂)とした場合特殊な設備を使用しなければ、1億2千万円程でしょう。
貯水システム(清水トレセン)、セルシステム(鹿島スタジアム)、アンダーヒーティング(横浜国際)等を使うと更に高くなります。散水設備にも1千万円はかかります。
日本平は地下貯水タンク、散水設備、ピッチ造成、管理用通路(周辺の赤いゴムチップ部)で2億3千円かかっています。清水トレセンの西ピッチは貯水型システムを含め約3億円はかかっています。周辺設備や照明等を入れると6億円以上になります。
メンテナンス費用は芝の種類と、ピッチをどのレベルに保っておきたいかで大きく変わります。
芝の種類で言えば 寒地型芝>ティフトン>日本芝となり、寒地型芝はティフトンの2倍以上かかります。
常にトップレベルに維持している必要が有るスタジアム(日本平)とレベルの高い練習場(清水トレセン)でも一面あたり2倍以上の開きがあります。
平均的に言えばスタジアムは一面当たり最低3千万円、練習場は最低1千万円でしょう。 日本平は平均よりかなり上ですが、現在のトレセンは平均より少し下です(管理期間が半年だから)。 J-ヴィレッジは11面で約1.1億円と聞いています。
管理人員は日本平は毎日常駐3名で行っています。特殊作業がある時は作業員を5,6名に増やします。トレセンは常駐1名で、Jヴィレッジは常駐者11名です。


(質問5)芝の日常的な管理は使用者が行なう事で、専門家の手間を減らす事はできるでしょうか。
海外の庭付き住宅で芝苅りが日課になるように、サッカー選手(のタマゴ)も自分達が使うピッチの日常的な管理くらいしてもいいのでは、と思います。

日常管理を使用者が行う事で、専門家の手間を減らす事は寒地型芝のスタジアムでは不可能で、練習場では可能です。
日本平において、ゴールセット、ライン引きは使用者では技術的に無理です。仮に出来たとしても芝を痛めたり、ラインカーを壊したり、ラインカーの手入れを怠ったりする可能性があります。
以前はJリーグ運営会社がゴールセット、ライン引きをやっていましたが、10人もの人間で、半日以上かかり出来映えも悪く、芝も傷みました。ディポット処理だけは素人でも出来ます。試合終了後のディポット処理は現在素人の人にも手伝ってもらっています。
清水トレセンのゴールは移動式であり使用者に設置、片付けをお願いしていますが、ライン引きは私達が行っています。トレセンは一面が広くいろいろな位置にピッチを設定出来るため、その日使うピッチの位置を私達が決めているからです。

◆芝刈りには技術がいります。単に機械にのって刈れば良いと言うものでは有りません。刈り高、刈る方向、間隔等を常に考えなが行っているのです。刈り方が下手だと芝を痛めてしまいます。
家庭の庭の芝とは訳が違います。


(質問6)芝を管理する技術者の育成状況はどうでしょうか。

スポーツターフの管理技術者になりたいと言う人はかなりいますがスポーツターフ管理技術者の教育機関は無いのが現状です。研修会は各種団体(ゴルフ場関係、農薬関係、学会等)が開催していますが実践的では有りません。
スポーツターフに関してはJリーグのスポーツターフ研究会が唯一の機関だと思います。
当社では現在スポーツターフ技術者の卵が2名おりますが一人前になるにはまだ時間がかかります。
全国的に見てもスポーツターフの技術者は非常に少なく(俄技術者は多いが)本物の技術者の育成は大きな課題です。


(質問7)10月17日の浦和戦(1998年)では大雨にもかかわらピッチ上には水たまりもできず、108分間素晴らしいコンディションでゲームが行われたというのは、すごいことだと思います。どのような整備をされたのでしょうか。

第1回で紹介しましたが、日本平の排水は決して良くはありません。毎年排水を良くするために、様々な試みをしています。今年はバックスタンド側に暗渠排水のバイパスをつけました。これはかなり効果があがっています。浦和戦では台風(大雨)が予想されたので、その週の始めにディープマスターと言う機械で深さ20cmの穴を無数にあけ対応しました。また、地下貯水タンクの水を抜き排水スピードを上げました。