もっとしりたい芝について(第3回)

〜知られざるピッチ上の戦い〜 (この特集は1999年に作成しました)

みなさんの目の前に広がっている日本平スタジアムの緑の絨毯、全国に誇っていたその絨毯にこの夏(1999年)少し異変が起きました。

2階席などから見るとよくわかったのですが、バックスタンド側の一部の芝が枯れてしまう現象です(とは言ってもピッチ全面積の3%にすぎません)。
原因は何なのか、そして、また緑を再生するには。。。
この機会に今回は芝の病気や、その対策等について日本平スタジアムの芝(ピッチ)の管理責任者佐野さんにお聞きしました。


■現状(1999年8月中旬=鹿島戦、名古屋戦の頃です)

現在(=8月)、日本平の芝生はスタジアム開設以来最悪の状態です。特にバックスタンド側の一部は枯れたところも出ています。
これはプレイによる痛みではなく病気によるものです。寒地型芝にとって高温多湿の夏場を乗り切るのは生やさしいことではありません。
(昨年、県営愛鷹競技場(沼津市)はピシウム菌により大被害を受けました。)
日本平は病原菌でもっとも怖いピシウム菌とキノコが原因で起こる※1)フェアリーリングに対する対策はほぼできているので、これらの病気で芝生が枯れることはありません。


※1)フェアリーリング: きのこ類による病害。梅雨期に発生が多く、秋に被害が拡大する。初め直径10pほどの濃緑色の部分が現れ、次第に拡大してリング状になる。リングの周辺部が生育旺盛な濃緑色となり、この近くにきのこを生じる。毎年同じ場所に発生し、乾燥時にはリングの内部が枯死することがある。


罹病部を顕微鏡で観察した結果、ムコール菌(腐生菌)、テーコール菌、サマーパッチ菌及びわずかなピシウム菌が確認できました。不思議なことに病状は明らかに葉枯病(後述)ですがヘルミントとカーブラリアは観測出来ませんでした。そこで罹病部を培養して再度顕微鏡で観察した結果、リゾクトニア、ピシウム、フザリウム及びムコール菌は確認出来ましたが、やはりヘルミントとカーブラリアは観測出来ませんでした。
今回の葉枯を起こした病原菌は何なのか、顕微鏡観察からは断定出来ませんでした。
一般的に葉枯病(後述)はあまり怖くない病気で簡単に直るものですし、芝生が健全であればあまり発生はしないものなのです。今回は薬剤の効果もあまりなく芝生が一部枯れてしまいました。今までに経験のない事態です。
芝生の病菌に関する研究機関にも現状を見てもらいましたが、今まで見たこともない状態だと言っていました。様々な菌による相乗効果でこのようになったものと考えられます。これが日本平の現状です。
蛇塚も日本平より広い範囲で同じような症状がでています。原因は日本平と同じかどうかは不明ですが。
何故このようになってしまったのか、原因は何なのか。


■葉枯病

今回の病気は症状で判断すると葉枯病です。
葉枯病は※ヘルミントスポリウム、カーブラリア菌などによって、葉・葉鞘・ほふく茎に赤褐色の斑点を生じ、のち相連なって灰褐色化し枯死する病気です。春から梅雨期と秋に発生し、特に雨の多いときに多発します。

※ヘルミントスポリウム: 葉枯性の糸状菌病の病原菌の場合が多い。ノシバ等の例ではこの菌は主に葉身に暗褐色、長さ2〜5o、幅0.5〜1o程度の条斑を形成する。多発すると葉は黄化・枯死する。

前述のように葉枯病を起こす病原菌はヘルミントとカーブラリアの2種類と言われていますが、今回はこの2種類だけではなく、根の病気であるサマーパッチ(日本での症例はほとんどない)、テーコールパッチの菌も観測されました。さらに通常の土壌にいる菌で芝生には影響の無いとされているムコール菌(腐生菌)が異常繁殖していることも解りました。

■原因

何らかの原因でこれらの病原菌が異常繁殖し抵抗力が弱い部分や排水が悪い箇所の芝生が病気になってしまったとも考えられます。
芝生が健全であれば感染しなかったかもしれません。

●ストレスにより芝生自体が弱くなってしまった。

今回の芝の病気は、これまでに経験が無かった難しい状態であり、原因を特定することは難しいのですが、刈り高による芝生へのストレスも一因であると推測されます。
3月の時点では今までで最高の芝生状態であったため、周囲からの要望もあり、長年懸案であった低刈り (25mm以下)を実践しても大丈夫との管理者(私)の判断で、4月後半から7月後半まで24mmの刈り高を実施しました。その結果、芝生へのストレスは想像以上で病気への抵抗力が低下したものと考えられます。葉枯病に対しては「健康な芝を育てる」ということで対応してきたため、抵抗力が落ちた時点で発病してしまったと考えられます。今回の発病は専門家でも予測不能な事態でした。
刈り高を低くして欲しいという要望自体に問題はありません。しかし、日本のような高温多湿の気候においてはその要望に十分に応える事が難しいため、芝管理者は日頃から苦心しています。


●8月に雨が多く高温多湿の状態が続いた。?

原因の一つではありますが過去にも同じような気候の時はありましたので、主たる原因とは思っていません。
天候不順を理由にするのが一番楽ですが、それでは芝生管理者として逃げたことになります。

●葉枯病が複合すると怖いことを知らなかった。

情けない話ですがムコール菌(腐生菌)が他の病原菌との相乗効果で葉枯の症状を起こし、ここまで害がでるとは思ってもいませんでした。芝生にたずさわって25年ですが初めての経験です。
ムコール菌はどの土壌にも生息している菌で病気を発生しないと考えられていました。
しかし、最近はムコール菌による被害ではないかと思われるものがいくつか紹介されています。


■対策

1. 気温が低くなったら枯れた部分を一部張り替えます。完全に復旧が難しい部分だけですが、9月中頃を予定しています。9月中旬には気候も良くなり病気も自然となくなります。

2. 来年度の管理方法をピシウム菌だけでなく葉枯系菌も含め根本的に変えます。

3. 芝生にできるだけストレスを与えないようにします。

いずれにせよ気温が下がり芝生が成長し始めれば病気は治まります。夏場を乗り切るためには、それ以外のシーズンで芝生にストレスがたまらないようにしてあげなければいけないことを、再度痛感しました。


<エピローグ>
今回発病した箇所は全体の3%にも満たない部分であり、ピッチ全体としては全く心配はありません。上述のように病気になった部分も10月上旬には緑になり、また美しい日本平のピッチがみられるはずです。そして、素晴らしいプレーも。

◆参考◆
日本平で使用している芝の一つブルーグラスの病害には以下のものがあります

フェアリーリング病

前述

がまの穂病

発生すると出穂を阻害し、採種栽培で問題となる糸状菌病。

葉腐病

全国で発生し、草地の夏枯の一員となる重要な糸状菌病。

葉さび病

葉の表に円形から長楕円形の夏胞子堆を形成し、表皮が破れて橙黄色の粉を飛散する。やがて夏胞子堆は葉表面に密生し、激発すると植物体全体が黄色く見える。

褐斑病

進展すると多数の植物体の枯死を引き起こす糸状菌病。

黄さび病

葉、葉鞘および稈の表面に橙黄色、楕円形、長さ1o程度の腫れ物状の病斑が縦に連なるようにできる。病斑は成熟すると表面が破れて夏胞子を飛散させる。

黒ごま病

葉に発生する糸状菌病。病斑は黒色、長楕円形から短線形で、表面は盛り上がり、葉の上面に発生することが多く、大きさは0.2〜5×0.1〜1o。

この他に黒さび病、すじ黒病、うどんこ病があります。

日本平では芝をこれらの病気から守るため日夜努力しています。
改めて関係の方々に感謝!

本資料の一部には農林水産省草地試験場、タキイ種苗等の文献を参考にしております。

1999年9月
製作:エスパ東部ボランティア隊