笑顔の少年
       


一番大切なものを後は付けるだけ。
心?痛みを感じ取る神経?
真っ直ぐな瞳....
優しい言葉を紡ぐ唇....
人の話を聞いてあげられる耳....
誰かを守れる筋肉....

一番大切なもの....?

少年に似せて作られたロボット。

人の肉体として必要なものはすべて付けた。
少年の記憶も心も組み込まれている。

きっと、パーフェクト。
彼が生まれた12月まで、眠らせてあげよう。
外は容赦ない真夏の光....
まだ起動するのには早すぎる。

誰もいなくなった密室で、少年に似せて作られたロボットは、静かに目を覚ましました。

夏....川原....放置された子供達....ペットたち....皆、皆、何処に行ってしまったの?

蘇生した体で少年は、数年前の記憶を辿り、あの場所へ。
子供と犬と猫が寄り添いあう像があります。あの忌まわしい事件を忘れぬように、と。たくさんの花が添えられています。

あの夏の日....近所の家々に配られたチラシ。
夏休みの思い出に、ペットと一緒に写真を撮りませんか?
イベントの最後のシーン.......
子供とペットだけが集まって、記念撮影が行われた。

一瞬だった。土が内側から爆発し、目の前から今までの生活の映像が消えた。

もう随分と時間が経ったのだ....
年をとらない肌をした少年は、空を仰ぎました。
父さん、母さん、生き返った僕は何をすればいいの?

一番大切なもの....?
それは僕なの?

少年は毎晩、ここに来て考えました。
命を再び与えられ、どのように生きれば良いのかを。

僕はあの忌まわしい事件の生きた墓標?
それとも、両親の哀しみを紛らわすロボット?

いつも両親は僕のもとに来て、研究員らと深刻に話をする。
後、ひとつ何かが足りないのでは....と。
僕は静かに眠ったふりをしている。

父さん、母さん、僕はすべてをいただきました。
病気にならない肉体も。生前の記憶も。
僕はパーフェクトです。
でも、ひとつ要らないものがあります。

それは....言葉....

あの夏の日、写真撮影の決められた場所は陽射しが強く、ペットも皆も暑くてクタクタでした。

「あの涼しそうな木陰にしようよ!」
僕は言いました。
「でも、木陰だと、顔が影で見えないよ」
カメラマンは言いました。
「でも、あそこにしようよ!絶対、涼しいから」
あの頃の僕は自己主張が激しい子供でした。

皆はゾロゾロと木陰に移動します。
そして、満足げに僕が中心に立った時、すべては消え去りました。地をえぐる爆発音の中、皆の叫び声を聞くことなく、僕から視界はなくなりました。

少年は夜な夜なあの場所へ出かけます。
そこへ同じサッカー・チームだった少年が来ました。義足でした。
義手の少女もいました。下半身が車椅子になった犬もいました。片目を失った猫もいます。

父さん.....母さん.....お願いです。
僕から言葉を奪ってください。
余計なことを口にせぬよう.....

川原では花火をする子らがいました。
その周りを蛍が舞っています。
少年の周りをその命を輝かせて踊っています。

ああ....言葉をなくし、ただ両親を看取るその日まで生きることが僕のできること。あの時、言葉を発したばかりに僕はすべてを失ってしまった。

次の日、研究員のひとりが気付きました。
口角が下がっていることに。
少年は何度も何度も口角を持ち上げられました。
そして、最後には「いつも笑っている顔」に変えられました。

12月が来て、少年は笑顔のまま起動しました。
「父さん...母さん....ただいま」
「お か え り」
言葉は出るんだね、やはり。

いつも笑顔の少年は、今は雪の舞うあの川原に立ち、慰霊碑の像に添えられた花が雪で覆われないようにと、傘を差しました。

「言葉を与えるのなら、決して自分を否定しない言葉にしよう」
両親はそのように頼みました。

少年は汚い言葉を知りません。
白い雪のように....決して溶けない雪です。汚い地面など見えてはいけません。

雪の降る中、少年は蛍を見ました。ひとつ...ふたつ...

それを見た時、彼の心の糸が千切れたように、泣き叫びました。
後ろ向きな言葉を消された少年は、喘ぐように泣くしかありません。

川原中を走り回り、ジャンプします。

「爆発してよ!爆発して!!もう一度、僕を粉々にして!!!」

「どうして、過去も消してくれなかったの!?」

記憶が螺旋のように巡ります。

雪の舞う中、小さな蛍が彼の耳元で囁きます。
「この広い場所にたったひとつ、爆発する場所があるよ」
蛍は言います。
「君はそれを探すために生きなさい」
「過去を取り消すことはできないよ」
「君の言葉を無かったものにはできないんだ」

笑顔を植え付けられた少年は、泣き崩れました。
「あの時、僕が余計なことを言わなければ.....」

蛍は一瞬光り、少年の周りを舞いました。
そして、儚くその光を消しました。

言葉は一瞬....哀しみは一生.......

ねえ、僕は乗り越えられる?

口角をあげて、少年は空を仰ぎました。

 

     おわり