昔、女心も分からんかった時、彼女と出逢った。
当時の僕は、「心の病」というものを知らなかった。
僕は分からないから、ただ待っていた。待ち合わせ場所で、ずっと。彼女は時間にルーズなのではなく、そういう病だと知っていたから。
本当に偶然がたくさんあった。
縁がある人は、そういう偶然がたくさんあるのだろう。
彼女は電話口で歌を歌ってくれた。「頑張って生きていこう」みたいな前向きな歌を。
僕はいつもいつも待った。
クリスマス・イブの夜も。大晦日も。誕生日も。
でも、ある日、とうとう現れなかった。
待ち合わせのレストランで朝を迎えた。
彼女の誕生日だった。安い給料で買ったリングがテーブルにひとつ、ポツン...と。
次の日、彼女の兄に、遠くの療養所へ入院したと聞かされた。僕はまた待った。なんだか待つのに慣れていた。
しばらくすると、面会できる病院に移ったと、連絡があり、会いに行った。
真っ白な病院。真っ白な廊下。真っ白な部屋。
彼女は以前より痩せていた。
「カッちゃん、ありがとう」
そう言って笑ってくれた。
「カッちゃん、いつも待たせてゴメンね。
でもね、もう待たなくていいよ♪」
「なんで?なんで、待たんでいいと?」
彼女は薄く笑いました。
「カッちゃん、カッちゃん....本当にありがとう」
彼女は僕を勇気付けるために、また歌ってくれました。
大分に戻って、僕は仕事をしつつ、いつか電話ができるように元気になってくれれば、嬉しい♪と思いました。
ある夜、彼女から電話がありました。
昔みたいに、時間なんて関係のない真夜中〜朝方。
僕は黙って、受話器から流れる歌を聴いていました。
「カッちゃん、元気で。そして、私のことは綺麗に忘れてね。もう待たなくてイイから♪」
次の日、彼女の兄から彼女が自殺したことを聞きました。
僕はずっと待てたんだよ。ずっと待つつもりでいたんだよ。
だけど、君は、君の心の病に勝てなかったのかな?
あれからね、色々あったよ。
僕もね、一時、心の病になったよ。
そうだね、今なら君の気持ち、分かる気がする。
本当に色々あったよ。
僕は酷く心の汚れた人間になり、大切なものを傷つけたよ。
あの頃の僕のように、待てなかったんだね。
Mちゃん、そちらで楽しくしていますか?
歌を歌っていますか?
僕は酷く疲れることもあるけれど、まだそちらには行けそうもありません。
Mちゃん、僕は『待つ』ということを、もう一度、考えてみますね。
あの雪の夜、覚えていますか?
話が盛り上がって、朝までいたこと。
当時の僕は、どこかに泊まるという考えもなく幼くて。
二人で、ずっと話したこと。
あの夏の夜、覚えていますか?
夕方の海を見ようと、二人、車を走らせましたね。
太陽が海に溶けていくほんの少しの時間。
手をとって僕らは笑いあいましたね♪
君は本当によく笑う人でした。
星空を眺めていたら、また話が盛り上がって、ずっと歌ったり、笑ったり、砂のピラミッドつくったり...
あの夏、明け方を迎える頃、kissをしたよね。
小さな唇でしたね。
結局、君のお兄さんは、君の心の病名を教えてくれませんでした。
僕はずっとずっと待っていましたね。
「ごめんなさい」と駆けて来る君が、可愛くて♪
僕....もう待たなくていいかな?
時々、こうして生きていることが辛くなります。
大切なものをたくさん失って....
「これを乗り越えろ」と人は言います。
でもね、時々、息切れがします。
もう、神様、僕、充分に生きました、と。
だけどね、僕、やっぱりここに居ます。
辛いけれど.....
Mちゃん、僕はあれから本当に色んなことがあって
どんなに強がっても、心奮い立たせても
もう疲弊しきっています。
サプリメントをたくさん買いました。
発芽玄米と海藻と野菜と....運動と。
寝る前のアルコールも止めました。
夜、寝る時にね、また独りぼっちの朝が来ます。
昔は、何時間も何日も待てたのに...ね。
ほらっ、覚えてる?
僕が一度だけ、夢について弱音を吐いた時、君は僕を別府の海岸に呼び出して、頬をネ、ピシッと叩いたの。
「そんなのカッちゃんらしくない!」
もし、良かったら、今夜、僕の夢に現れてくれませんか?
そして、もし出来たら、僕の頭を撫でてください。
または、頬をぶってください。
僕は待っていますから....

