風になった少女

            


ヒステリックな声がします。
思い上がりだ!と。

片腕を失った少年は、片方の手と足を上手に使います。
言葉を失った少女は、言葉を選びすぎて話せません。
右目を失った少女は、本当は見えるのに見ようとしません。見えるのは、圧倒的な力にねじ伏せられる自分だから。言葉を発すれば誰かを傷つけるかもしれないから。片腕は母を殴った過去があるから。

あの日、僕の目の前で少女は言いました。
「あのね、私、死ぬんよ」
まだ教師になりたての僕は、「何言いよるん。死んだら駄目で」と言うしかありません。
どうして一歩踏み出して訊かなかったの?

少女は耳を持ちません。この世の汚い言葉から自分を守るため。
少女は笑顔を知りません。いつしかそれがお金に変換されるようになったから。
少女は涙を知りません。流しても救いがないから。

「先生、私、死ぬんよ」
僕は買ったばかりの仔犬を見せようと決めていました。こっそり学校に持っていこうと。

だけど、その日の放課後、彼女は灯油をかぶって死にました。

僕は何も恐れるものはありません。
思い上がりだと言われても、決めたのです。
子供の声は必ず聞こう、と。

今日、出逢った少年は前を向くことを知りません。馬鹿だと罵られ続けたから、自分に価値を見出せません。

今日、出逢った少女は笑顔を知りません。笑っても醜いと言われ続けたから。

自惚れの思い上がりかも知れません。

だけど、僕は彼らと生きていくと決めたのです。
焼身自殺をした少女に誰もが言いました。死んで幸せだつた、と。

死んで幸せだったと思われる事実を僕は知りました。
でも、もし親元から引き離していれば.....

少女の骨は骨ではありませんでした....

「先生、私、走るの好きなんよ♪風になったみたいやし、色んなこと、忘れられるんよ♪」

もし、もう一日だけ早く、仔犬を見せていたら、もっと詳しく話を聞いていたら....いつも新米教師の僕にまとわりついていた彼女....もし....もっと話せたなら....

今も、哀しみと向き合う子供達に出会うと、僕の傍で風が踊ります。