現状の私にとって「光学フィルター」を使用する理由は;
- 光害光の影響をできるだけ避け、淡い星雲を美しく表現すること -
にほぼ集約される。


<概要>

光害を遮蔽する効果のあるフィルターは大別すると、2種類になる。
@R64、R60などハイパスの特性(波長の短い側を遮蔽する)ダイシャープカットタイプ
AルミコンDSPなど、特定の波長を複数領域で遮蔽する干渉タイプ

ダイシャープカットタイプは、ガラスを色素で着色し、その波長特性により、透過波長をコントロールする。ちなみにケンコーの白黒用のフィルターの表記は、最初のアルファベットが色相でその次の数字2桁は、遮蔽する境界の波長を示している。「R60」の場合は、Rはレッド、60は600nmの光の透過率が30%以下で透過限界の波長になり、それより、長い波長を透過させる特性を持つことを示す。R64が天体用と表記される理由は、星雲の発光スペクトルとして最もメジャーなHα線の656.3nmの透過率は、透過曲線の肩にあたり、ほぼ80%であり、それ以下の可視光(紫外光も含む)のほぼ全ての波長を遮蔽することによる。市街地では、赤外線の影響もあるので、完全ではないが、光害光のほとんどを遮蔽することができる特性だ。

表1に、シャープカットフィルター(赤)の透過限界波長、グラフ1に透過特性を示す。

表1:シャープカットフィルター(赤色)

分類 ガラスタイプ 透過限界波長
シャープカットフィルター(赤色) R-60 600nm
R-62 620nm
R-64 640nm
R-66 660nm

  ※表1およびグラフ1は、ケンコー光学(株)社のWEBを参照してます。

グラフ1:シャープカットフィルターの透過特性
シャープカットフィルター(赤色)の特製曲線

一方、干渉タイプは、ガラス層あるいはフィルムの上にコーティング技術により、金属酸化物などの薄層を設けて、素材の屈折率を選択し、薄層の厚みと積層数(多い場合は、数10層以上)をコントロールすることで、波長別に透過率を設計できる。特に特殊な技術ではなく、光学レンズのほとんどには、コーティング処理をして、透過率を増し、コントラスト低下やゴーストを低減させる処理が施されており、同じように「光干渉」を利用している。

ダイシャープカットタイプでRED系のフィルターを用いると、赤色のみの画像となるのに対して、干渉タイプでは透過-遮蔽を波長別に選択できるため、RGBの各波長域である程度の透過光量を有し、カラー撮影を行うことができるのが特徴だ。

グラフ2は、私が愛用するアイダス社のLPS−P1の透過特性を示している。
光害光源の多くを占める『水銀ランプ』の輝線波長を細やかに押さえ込む設計になっているのが特徴で、560〜570nmに透過帯を持ち、この帯域は『緑』の発色バンドに当たるため、カラーバランスの崩れを最小限にとどめることができる。

グラフ2:アイダス社LPS-P1の透過特性


 ※透過スペクトル表は、アイダス社の代理店(有)光映舎のWEBを参照してます。


<シャープカット・フィルター>

概要で述べた通り、モノクロ用に限定される。透過波長特性により規格化されていて、20あるいは10nm刻みでラインナップが存在する。光害対策用としては、O56あたりから効果が出でてくると思われるが、一般的には、RED系のR60、R64あたりの使用例が多い。

(O56)

撮影可能な波長域は、575nm以上(90%以上透過)になるため、有害な水銀ランプの輝線波長はほとんど遮蔽可能であるが、OV、Hβという青〜緑の領域は撮影できるわけではないので、特性としては中途半端である。屈折系など色収差のある光学系では、ノーフィルターと較べると格段に、星像が鋭くなる。使い方としては、F5.6以上の暗い光学系での、水素増感TP(テクニカルパン)の使用の場合である。O56はR60や64と較べると、通過する光子(フォトン)の総量が多いため、相反則不軌の抑制に効果があるのだ。高性能屈折鏡での、TP撮影に向いていると思われる。

作例1は、F4のPENTAX SDUFにO56を使用し、バラ星雲〜コーン星雲のおなじみの写域を撮影したものである。比較的に光害のある場所であることや、SDUF自体が中央集光を発生しやすい特性があるため、中央が明るくデジタルデータの補正でも限度を超えているが、写り自体はかなりのものだ。多少増感率の低めのTPではあるが、F4で70分露出では、ネガの濃度は高すぎではある。

作例1
写域:いっかくじゅう座
鏡筒:PENTAX SDUF
フィルター:O56
フィルム:TP6415水素増感
露出:70分


(R60)

撮影可能な波長域は、620nm以上となるため、透過する可視光は「赤い」光のみに限定される。光害の遮蔽能力はO56より格段に向上し、星雲の淡い部分の描出も良くなる。対象によりあるいは露出時間によっては、R64よりも写りが良好な場合もある。作例は、γ-Cyg付近の散光星雲群である。F2.8で55分の露出は、かなり空には恵まれたとは言え、多少、オーバー気味で、カラーの対象になる明るめの星雲は飽和してしまっているが、淡い星雲の写りは、R64での描出とほとんど変わらない。その他、O56との違いは、最小星像は小さくなり、10μm台の前半になる。

作例2
写域:はくちょう座
鏡筒:Nikon 400mm F2.8
フィルター:R60
フィルム:TP6415水素増感
露出:55分


(R64)
天体写真用として売られているフィルターである。何故と言えば、もちろん、Hαの波長域...と言う話があるが、その実は、一般販売点で単にモノクロ用として売るには、やはり特殊だからだろう。赤外フィルムの常用フィルターでさえも、R64ではなく、R60(R1)を推奨しているのだ。なぜかと言えば、『R64をレンズにつけると一眼レフのファインダが非常に見えづらい』のだ。このことからも、可視領域の光害光は遮蔽されることが判る。

R60の項では、R60とR64では写りがそれほど変わらないと書いたが、厳密には違うようだ。それは非常に淡い対象で顕著になる。たとえば、有名な超新星残骸Sh2-240(S-147)の場合である。大きいが、非常に淡いことで有名であり、シュミットや明るいカメラレンズでも難敵である。作例3は、R60で60分、作例4ではR64で90分の写りの違いを示した。撮影場所(当日の条件も)、現像処理もほぼ同じ条件での比較なので、そのまま、『違い』と言って良いと思う。露出時間についてR60に30分のハンデがあるが、R60で90分ではネガ濃度が上がり過ぎて逆効果であると思われる。

作例3
写域:Sh2-240
鏡筒:Nikon 400mm F2.8
フィルター:R60
フィルム:TP6415水素増感
露出:60分
作例4
写域:Sh2-240
鏡筒:Nikon 400mm F2.8
フィルター:R64
フィルム:TP6415水素増感
露出:90分



<干渉型・フィルター>

(LPS-P1)

アイダス社のLPS-P1は、前項でも述べた通りの透過特性であり、カラー撮影で満足できるカラーバランスを得ることができる。使い方としては;
1.多少の光害のある場所で、露出時間をのばす。
2.光害の少ない場所で、淡い対象を狙いS/Nを高める。
ということになる。また、モノクロでの撮影もできるが、現状ではデータが少なすぎて何とも言えない。

作例5
写域:はくちょう座
鏡筒:Nikon 400mm F2.8
フィルター:LPS-P1
フィルム:Kodak PRO400
露出:45分


(LUMICON DSP)

余談だが、このフィルターの国内代理店 国際光器のカタログからいつの間にか消えていて、どうもLUMICON社も製造をやめてしまったようで残念である。正式名称は、Deep Sky filterで、各種干渉フィルターのラインナップのなかでは、最もブロードバンドな特性を示しており(グラフ3参照)、写真用としての評価が高い。LPS-P1との違いは、DSPが、550-600nmの波長を根こそぎ遮蔽することである。LPS-P1は、『光害波長のみをできるだけ遮蔽させる』という設計であるのに対して、DSPは、『Hα、OIII、Hβなどの星雲の発光波長のみを透過させる』と、異なるコンセプトの設計になっているものと思われる。

グラフ3:Lumicon Deep Skyフィルターの透過特性


したがって、色パランスは犠牲になるが、淡い星雲は高いS/Nで表現される場合が多い。私の場合は、割り切ってモノクロTPで使用することが多い。Hαの対象が圧倒的に多い天空で、R60あたりのシャープカットフィルターとの写りの違いを見いだすことは難しいが、星雲のコントラストがやや軟調になる傾向があるようだ。作例6は、オリオン座の北部を撮影したものであるが、印画紙には焼きやすいネガに仕上がった(画像では判断し難いが...)。注意点はピントである。DSPは、透過域が、2分されているので、色収差のある光学系では、星像に重大な影響がある。DSPを使用する場合には、色収差の少ない光学系を選ぶべきだ。

作例6
写域:オリオン座
鏡筒:Nikon 400mm F2.8
フィルター:Lumicon DSP
フィルム:TP6415水素増感
露出:60分



以上、述べたように、私の写真、特に1998年以降は、ノーフィルターでの撮影はほとんどない。
Photographで、各種フィルターの特性が垣間見られたら幸いである。


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