Q氏は、自動車保険の関わる交通事故とその損害の調査に携わってきたが、ここに展開される話は、そのQ氏が業務経験に基づいて述べたものである。
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このページは「交通事故に負けないページ」を総括タイトルに、それぞれのテーマを絞り、交通事故とその賠償に役立つ情報や対処の仕方、考え方を、私のこれまでの調査業務の経験に基ずき、私見も交えて、その適否はともかく、提供しています。
被害者になると、いろいろと辛い思いをし、心身両面の苦痛を味わうことになります。
それに大変腹の立つことですが、その被害者から甘い汁を吸おうというようなヤカラからも狙われます。
被害者は、自ら交通事故についてのそれなりの認識を持ち、一連の基礎的な知識武装をすることが必要な時になっています。このページがいささかかでもお役に立てば幸いです。 |
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第15話 動いていたら、必ず過失が生じるのか
以前に、ある被害者からこんな相談があった。「団地の駐車場から車に乗って道路に出ようとしていたのだが、並んでいる同じ駐車ゾーンに止まっていた車の前を通り過ぎようとしたら、その車がいきなり発進して来て、右横に頭からぶつかって来た。相手の保険会社は、そちらも動いていたので10%の過失をとる、と言っているが、少しおかしいのではないか」というような内容である。
双方の車の位置関係が分かり難いと思のでもう少しつけ加えると、団地内での住居棟に近接して共同の駐車場があるのだが、それぞれの一台分の駐車ゾーンが白線で仕切られ、それが同じ方向に向いて並んであるわけだ。道路は一方の側にしかないから、駐車した車は駐車ゾーンから道路に通じる駐車場内の共用の通路を通って道路に出るようになっていることになる。つまりここでは、相談者の車は奥まった駐車ゾーンに停めてあったので、右側にその駐車ゾーンを見ながら道路に出ていったということである。その時、相手の車は、道路に近い側に停まっていたという訳だ。
かえって、状況が分かり難くなったかも知れないが、とにかく、相談者は、「私に過失があるとは、絶対に思えない」と強く保険会社の担当者に反発した。
確かに、駐車場の所定の位置に停っている車の前を、所定の共用の通路を通っているのに、いきなり横っ腹にぶっつけられて、「お前にも、動いていたから悪いところがある」と言われたのでは、誰でも納得できることではない。その担当者に「理由を示せ」と幾度迫っても「動いているから。動いている場合はそうなる」としか回答しないというのである。
最近は、この「動いているから過失がある」という奇妙なせりふが流行っているようだ。この判断は、いつの場合も本当に的を射ていると言えるだろうか。
今、もう一つ別にこんな事故を考えてみよう。片側一車線の道路を、制限時速を守って走っていた四輪車がある。その時、運転者は前方の左側の路側帯に、車線に車体の一部をはみ出して、数台の四輪車が駐車しているのを見た。よくある光景である。別に気にもしないで、その右方を通過しようとした時、その中の一台が急にUターンしようとして、頭を大きく右に振りながら直進してきた四輪車の前方を塞ぐ形になった。慌ててハンドルを右に切って避けようとはしたのだが、対向車があってハンドルの切り方が遠慮勝ちになり、とうとう左横前部に頭から衝突されてしまった。さて、もしかしたらこんな事故でも、「動いているから、直進車にも過失がある」ということになるのかもしれない。
このようなケースでは、直進車は道路左側に停止していた車がまさかそんな動きをするとは予測もできない、というのは当然のことである。何の合図もなかったのだ。確かに運転者が乗っておりエンジンがかかっていたのは、右後方から接近して来た時に、認識したような気がする。しかし、そうだからと言ってこの車がいきなり、こちらがその側方を通過しようとしているのに、Uターンするかも知れないなどとはとても予測できないし、その義務もない、というものだ。右のウインカーが点滅でもしていたのなら、もしかしたら、という予測は、多少は立ったことかも知れないが。つまり、どうみてもこの場合は四輪車のUターンを予見することは不可能だった、ということであり、予見しなくても非はない、というものである。
しかし、いくら予見不可能であっても、とっさに避けられなかったのか。もし、前方にある距離を持って頭を右に振って塞いだのであれば、その可能性はある。しかし、その右横を通過しようとして並びかけた時に、頭を振って前方に入り込もうとされたのでは、避けようがない。こちらの車の存在を全く認識していない運転操作である。どだい無茶な運転なのだ。双方の位置関係からも、間合いからも、直進車に何とか避けられたのではないか、というのは酷というものである。
いや、ここではこの態様のの事故の説明をしているのではない。双方が動いている事故でも、厳密に分析していけば、その過失が一方が100%、他方が0%の場合も当然あり得る、ということを言いたい訳なのである。もし一方が、
○道交法の違反がなかった。
〇相手か゛そのような動きをするとは予見できなかった。
〇相手の動きから、衝突を回避することは不可能だった。
ということが明確にされれば、いくら動いていても、過失は0%になるのではないか、ということである。
成る程、追突事故は被追突車側から言わせれば、確かにこの三点を満たしていることが多い。特に例えば信号待ちで停車していて追突されるなどということは、不可抗力なのである。しかし、このような起される方から言えば、不可抗力だ、という事故は他にもあるはずだ。「動いているから」というのは、一見納得させられる力があるようだが、それは単に言葉的なものであって、事故の実態をこの三点から絞って分析していったら、「動いているから」ということだけでは、なんらの理由にもならないことになるはずだ。保険会社の担当者も「動いているから」というだけで、過失の理由にしないでもらいたい。これを言うなら、その根拠を実際の状況を踏まえて、明らかに提示すべきである。そうしないと、説得力はない。また、言われた方も、安易に受け入れないことである。
冒頭の相談者にQ氏は次ぎのように回答した。要約であるが、「あなたが、団地の所定の駐車ゾーンを出て共用の通路を通って道路に出ようとした運転には、公道ではないとは言え道交法違反に類する行動は何一つありませんでした。特に速度については、発進した直後のことであり、団地内であることを考慮しても、徐行とも言うべき妥当な低速であったと判断します。
駐車していた相手の車の前を通過する時には、たとえ運転者が乗っていてエンジンをかけていたとしても、その車が急に発進してこちらに向かって来て衝突するという極端な異常行動は、通常には予見できることではなかったと言えます。それに、相手車が至近距離からいきなり発進し衝突したのでは、どんな操作をもってしても、それを回避できる可能性はありません。だから、あなたには過失と言うべき要素は全くないものとするのが妥当です」
Q氏は、保険会社が過失の判断に「動いているから過失がある」という言葉を使うことには、かねがね疑問を感じている。時には、腹の立つこともあし、いちいち反論するのも馬鹿らしくなる例もあるというものだ。 過失判断というのは、バカの一つ覚えのようなきまり文句で片付けられるものではないのであって、この場合も「動いているから過失がある」とするのには具体的な納得のできる理由が要るというものだ。
もし、こう言われたら、その判断に至った論理的な根拠を納得するまで求めることである。この「動いているから----」という言葉には、妙にうなずかされる説得力があって、「ああ、そんなものなんですか」と思って、何となくそれを受け容れてしまおうとする被害者が多いようだが、その前に今一度ご自分が遭った事故を分析して、「相手車の動きの予見と自車の回避の可能性について」よく考えてみることが肝要である。先の三つの項目について、ご自分の事故についての論理を構築することである。できるだけ、自分の考えは論理的でありたい。
実際には追突などというような、基本的に0/100%の事故以外にも、同率の事故があってもよいのではないか。というより、あって当然なのではないか。それには、正しい状況調査の結果、三点が解明され、それに基づく判断が適切に実務に反映されるべきものだ、と思う。
(15話終わり)