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小説 【犯罪】

著 末森拓夢


 時おり、大通りを行き交う車のヘッドライトが微かな虚栄を浮かび上がらせるだけで、連なる家々の灯火はすべて消え失せた深夜、人気のない住宅街で身を潜めるように歩くひとりの男がいた。狭い路地にも十分な明かりはなく、季節外れに襲った寒気団が凍えた雨を降らせる。地表から巻き上げる冷たい風が雨を伴い、男のズボンを濡らしより寒さと寂しさを募らせる。中年男性が着た季節外れのロングコートも今日の天気には良く似合い、不自然さを感じない。

――治安が良い日本でも、多数の女性が、切れた男の手により性犯罪に巻き込まれる――

 男が闇に紛れてさまよう目的は、満たされない本能を満たす為。標的は不条理な理由で帰宅の遅くなる女性。いかに静まり返った住宅街とはいえ、人が住む場所だ、という事に変わりはなく、現在社会において深夜残業を強制される女性は、必ず存在していた。 男の握る傘を叩く雨の音がより一層強くなった時、被害者となるだろう少女が現れた。大通りから狭い路地に入るなり、照明を落とす車の助手席から降り立った少女は、運転席に座る青年から一言、二言、何か言われたのだろう、開けられた窓に向かい『別にいいわ、このぐらいの雨なら』と口を開き、急ぎ足で自宅に向かった。小走りに変った少女の年齢ならば、帰宅が遅くなった理由を親に釈明するだけでも大事件なのに、男物の傘を持って帰れば言い訳を考える時間がない事は想像に容易い。

――少女が助かる理由は人間の心理にあった。好きな人に会う理由が欲しい。頭に浮かぶ気持が無意識な行動に出ていた――

 何も知らずに小走りのまま自宅に向かう少女。走ればスカートの裾が濡れる事は気にせず、降りしきる雨を気にして、両手で頭を押さえ走る。安らぎを覚える地まで、あと数十メートル。アスファルトが途切れ砂利が敷詰められた道路。道端に立てられた木製の電柱が見える。これを過ぎ、曲がり角を左に向かえば三軒目が自宅だった。 だが、古くなった電柱の影に男が隠れていた。本性をむき出し、鬼の形相で襲う男の姿を見た少女は、一瞬の間をおかず自分の身に降り掛かる危険を察し、持っていたバッグを投げつけ力の限り走り出す。理不尽な理由で襲い掛かる男の手から逃げるべく、雨の中、ずぶ濡れになって走り去る少女。だが少女の抵抗はむなしく、すぐに体力で勝る男が追いつき少女の服を掴む。続けて男の手はスカートに伸びる。抵抗する少女の手足が、いくら襲い掛かる人物の顔面を殴ろうが、男の満たされない本能には敵わない。

――少女が致命的な屈辱を体験せずに済んだ理由は彼の車に忘れた携帯電話だった――

『了』
  1. 拓夢書房からありがとうNo1
  2. 拓夢書房からありがとうNo2
  3. クロノレイヤーに僕らはいた
  4. ブルースカイ・シンドローム

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